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20 私室で
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クラレンスの体調が戻ってからまた詳しく話そうということになり俺と殿下は医務室を後にした。ヒューイは殿下からアリスターの身辺を探るように指示された直後、窓から出て行ったから驚いてしまった。ここ二階だぞ。
「セレス、少し話したいからこの後付き合ってもらえるかな?」
「はい。大丈夫です」
そして殿下の申し出に頷いてついて行った場所は...
「…そうか。じゃあクラレンスにセレスが声をかけた時にはアリスターはその場所にはいなかったんだね?」
「はい。先輩に声をかけた時にアリスターはいませんでした」
すぐ横から殿下の声がすることにドキドキして受け答えがおうむ返しの様になってしまった。今俺は殿下と並んでソファーに座って話をしている。そしてここは殿下の私室の応接間なのだ。殿下の部屋なんて初めて入ったよ。なんか凄く緊張する。
「君はクラレンスの様子がおかしい事にどうして気付いたんだい? それと、突然正気に戻った切っ掛けに思い当たることはある?」
聞かれて言葉に詰まる。スキルの事をどう話せば良いか全然考えがまとまっていないけど何とか伝えたい。だけどこんな話を信じてもらえるかもわからない。俺が躊躇っていたら殿下が顔を覗き込んできた。
「何か知っているのかい? 私には話せないこと?」
オレンジの瞳が真剣にこちらを見ていた。その瞳を見たら、きっとこの人なら信じてくれると思えた。
「アリスターは見つめ合った人を魅了する力を持っています。一定時間彼と目を合わせていた人を彼の虜に出来る能力です」
「魅了する力…。邪眼のようなものか? 何故それを知っているんだい?」
「それは…、めっ、女神様からお告げがあって、それで…私にその魅了を無効にする力を授けて下さって…だから、先輩も正気に戻せたんですっ」
いくらなんでも女神様って…何言ってんの俺ぇ。余計に嘘っぽくなってしまったんじゃないか? でも殿下は驚いた様子は見せたけど真摯に向き合ってくれた。
「セレスにもそんな力が? 何故相談してくれなかったんだ?」
「信じてもらえるか怖くて…、ごめんなさい」
「確かに信じ難い内容だけど、セレスが嘘をつくとは思えないからね」
殿下は俺を信じてくれた。嬉しい。話して良かった。
それからスキルの内容と封印についてを詳しく殿下に話したのだけれど、既に魅了されてしまった人には触れる必要があると言ったら少し眉を顰めていた。
でも、クラレンスの状態を見て少しでも早く他の魅了にかかった人を正気に戻さなければと思ったんだ。見かけた時にどうして強引でもいいから触れて戻さなかったのか今は凄く後悔している。そう殿下に話したら止められてしまった。
「正気に戻ると反動で具合が悪くなるのはクラレンスでわかっている。セレスが触れる度にそうなる人が出ると変な噂が立ちかねないし、アリスターに君の能力を知られてしまうリスクもある。だから決して一人で実行しないでこちらで準備するまで我慢して欲しい」
「わかりました。アリスターの魅了の力を封印するのも急ぎたいのですが…」
「それは簡単かもしれないよ。彼は生徒会役員になりたがっていただろう? 私やクラレンスが生徒会室に呼び出せば向こうから来てくれると思うよ」
確かに! やっぱり殿下は凄い。一人ではどうしようもなかった事が殿下に打ち明けたことでどんどん解決していってる気がする。
「ジークハルト様に打ち明けて良かった。それに、私の話を信じてもらえたのも嬉しくて…、本当にありがとうございます」
見上げてお礼を伝えたら殿下の顔が近づいてきて、思わず目を閉じてしまったら唇が合わさって小さな音をたてた。
「ここは私の部屋のソファーなんだからそんな可愛い顔を見せては駄目だよ。帰したくなくなるだろう?」
殿下に言われた言葉の意味に思い至って急激に顔に熱が集まるのがわかった。鼓動も早くなっているし、こういう時どうしたらいいんだ? 戸惑う俺を殿下がじっと見つめている。
「あの…、それって…、んぅ、」
「赤くなったその顔も、駄目だ…。セレス、可愛い」
呟きながら何度も唇が重なってきて殿下の腕が腰に回ってきた。
( 待って? え? え? この状況ってまずいんじゃ…。だってここ、殿下の部屋だし、まさかこのまま… )
頭の中はグルグルと混乱状態で腰に回されている腕に力が入って更に引き寄せられそうになってとうとう両手を突っ張って力一杯引きはがしてしまった。だっていきなりこの展開は無理だよっ。
「ごめんなさい! これ以上はっ、あの…、」
殿下の顔が見れずに俯いたまま言葉が続かないでいたら、両頬を手で包まれて額にそっとキスが落ちてきた。おずおずと顔を上げて見れば殿下の苦笑が浮かんだ顔がこちらを見ていた。そこに怒りや嫌悪がないことを確認できてホッとする自分が居て、まだ少し、やり直す前の突き放された怖さを引きずっているなぁと感じた。
「すまない。君があまりに可愛かったから少し暴走した。…それで、セレスが大丈夫なら医務室で話した侯爵家の嫡男を呼び出そうと思う。疑っているわけではなく、魅了を解くのを確認させて欲しいんだ」
拒んだ俺が気まずくならないようにしてくれる殿下に甘えている自覚はあるけど、その申し出に俺は一も二もなく頷いた。
学園内の応接室にその侯爵家の嫡男であるシェイマス・オブライエンが呼ばれてやって来た。殿下からの呼び出しを断れる生徒はいないからな。室内に入って来た彼は中央に座る殿下の横に立っている俺に気付いて剣呑な眼差しを向けてきた。アリスターから邪魔だと直接言われたこともあるから何か言い含められているのかもしれない。そしてシェイマスの目にははっきりとハートマークが見えた。
室内には俺達以外に後ろの壁際にヒューイが立っていて、少し様子を見てから魅了を解く事になっているのでまず殿下が婚約者を蔑ろにする理由を彼に聞いた。
「私は自分の心を捧げる相手に出会ったのです。殿下もアリスターと話をすればわかります。そこの身分を笠にきて殿下に執着するオメガなどよりアリスターの方が数倍素晴らしい。殿下も迷惑に思っているのでしょ、う…、ぐっ…」
俺を侮辱する言葉を聞いて吹出した殿下の威圧に言葉が続かなくなったシェイマスは膝に置いている拳に力を込めていないとソファーから崩れ落ちそうになっている。
「私の婚約者候補を侮辱するのは止めてもらおうか。君の最近の行動は侯爵家も憂慮している」
「家など、関係ありません。私の全てはアリスターに捧げるのですからっ」
威圧を弱めた殿下が話しながら目配せしてきたので退席する風を装ってシェイマスの横を歩きながら肩に指先で触れた。すると反論をしていたシェイマスの言葉が突然途切れて俺から見える横顔はクラレンスの時と同じように暫しぼんやりとした後、恐怖にひきつった表情へと変わった。そしてガバッと床に膝を着き謝罪を始めた。
「申し訳ございません! 私は、何を言ってっ、うぐっ! げほっ、ぐ、うぅ…」
シェイマスが嘔吐して頭を抱えてうずくまる。相当頭痛が酷いのか額には大粒の汗が浮かびきつく目を閉じている。そして頭を抱えてブルブル震えていた指からフッと力が抜けると意識を失って倒れてしまった。明らかにクラレンスの時より症状が酷いのは魅了にかかっていた時間が長かったからかもしれない。
「セレス、少し話したいからこの後付き合ってもらえるかな?」
「はい。大丈夫です」
そして殿下の申し出に頷いてついて行った場所は...
「…そうか。じゃあクラレンスにセレスが声をかけた時にはアリスターはその場所にはいなかったんだね?」
「はい。先輩に声をかけた時にアリスターはいませんでした」
すぐ横から殿下の声がすることにドキドキして受け答えがおうむ返しの様になってしまった。今俺は殿下と並んでソファーに座って話をしている。そしてここは殿下の私室の応接間なのだ。殿下の部屋なんて初めて入ったよ。なんか凄く緊張する。
「君はクラレンスの様子がおかしい事にどうして気付いたんだい? それと、突然正気に戻った切っ掛けに思い当たることはある?」
聞かれて言葉に詰まる。スキルの事をどう話せば良いか全然考えがまとまっていないけど何とか伝えたい。だけどこんな話を信じてもらえるかもわからない。俺が躊躇っていたら殿下が顔を覗き込んできた。
「何か知っているのかい? 私には話せないこと?」
オレンジの瞳が真剣にこちらを見ていた。その瞳を見たら、きっとこの人なら信じてくれると思えた。
「アリスターは見つめ合った人を魅了する力を持っています。一定時間彼と目を合わせていた人を彼の虜に出来る能力です」
「魅了する力…。邪眼のようなものか? 何故それを知っているんだい?」
「それは…、めっ、女神様からお告げがあって、それで…私にその魅了を無効にする力を授けて下さって…だから、先輩も正気に戻せたんですっ」
いくらなんでも女神様って…何言ってんの俺ぇ。余計に嘘っぽくなってしまったんじゃないか? でも殿下は驚いた様子は見せたけど真摯に向き合ってくれた。
「セレスにもそんな力が? 何故相談してくれなかったんだ?」
「信じてもらえるか怖くて…、ごめんなさい」
「確かに信じ難い内容だけど、セレスが嘘をつくとは思えないからね」
殿下は俺を信じてくれた。嬉しい。話して良かった。
それからスキルの内容と封印についてを詳しく殿下に話したのだけれど、既に魅了されてしまった人には触れる必要があると言ったら少し眉を顰めていた。
でも、クラレンスの状態を見て少しでも早く他の魅了にかかった人を正気に戻さなければと思ったんだ。見かけた時にどうして強引でもいいから触れて戻さなかったのか今は凄く後悔している。そう殿下に話したら止められてしまった。
「正気に戻ると反動で具合が悪くなるのはクラレンスでわかっている。セレスが触れる度にそうなる人が出ると変な噂が立ちかねないし、アリスターに君の能力を知られてしまうリスクもある。だから決して一人で実行しないでこちらで準備するまで我慢して欲しい」
「わかりました。アリスターの魅了の力を封印するのも急ぎたいのですが…」
「それは簡単かもしれないよ。彼は生徒会役員になりたがっていただろう? 私やクラレンスが生徒会室に呼び出せば向こうから来てくれると思うよ」
確かに! やっぱり殿下は凄い。一人ではどうしようもなかった事が殿下に打ち明けたことでどんどん解決していってる気がする。
「ジークハルト様に打ち明けて良かった。それに、私の話を信じてもらえたのも嬉しくて…、本当にありがとうございます」
見上げてお礼を伝えたら殿下の顔が近づいてきて、思わず目を閉じてしまったら唇が合わさって小さな音をたてた。
「ここは私の部屋のソファーなんだからそんな可愛い顔を見せては駄目だよ。帰したくなくなるだろう?」
殿下に言われた言葉の意味に思い至って急激に顔に熱が集まるのがわかった。鼓動も早くなっているし、こういう時どうしたらいいんだ? 戸惑う俺を殿下がじっと見つめている。
「あの…、それって…、んぅ、」
「赤くなったその顔も、駄目だ…。セレス、可愛い」
呟きながら何度も唇が重なってきて殿下の腕が腰に回ってきた。
( 待って? え? え? この状況ってまずいんじゃ…。だってここ、殿下の部屋だし、まさかこのまま… )
頭の中はグルグルと混乱状態で腰に回されている腕に力が入って更に引き寄せられそうになってとうとう両手を突っ張って力一杯引きはがしてしまった。だっていきなりこの展開は無理だよっ。
「ごめんなさい! これ以上はっ、あの…、」
殿下の顔が見れずに俯いたまま言葉が続かないでいたら、両頬を手で包まれて額にそっとキスが落ちてきた。おずおずと顔を上げて見れば殿下の苦笑が浮かんだ顔がこちらを見ていた。そこに怒りや嫌悪がないことを確認できてホッとする自分が居て、まだ少し、やり直す前の突き放された怖さを引きずっているなぁと感じた。
「すまない。君があまりに可愛かったから少し暴走した。…それで、セレスが大丈夫なら医務室で話した侯爵家の嫡男を呼び出そうと思う。疑っているわけではなく、魅了を解くのを確認させて欲しいんだ」
拒んだ俺が気まずくならないようにしてくれる殿下に甘えている自覚はあるけど、その申し出に俺は一も二もなく頷いた。
学園内の応接室にその侯爵家の嫡男であるシェイマス・オブライエンが呼ばれてやって来た。殿下からの呼び出しを断れる生徒はいないからな。室内に入って来た彼は中央に座る殿下の横に立っている俺に気付いて剣呑な眼差しを向けてきた。アリスターから邪魔だと直接言われたこともあるから何か言い含められているのかもしれない。そしてシェイマスの目にははっきりとハートマークが見えた。
室内には俺達以外に後ろの壁際にヒューイが立っていて、少し様子を見てから魅了を解く事になっているのでまず殿下が婚約者を蔑ろにする理由を彼に聞いた。
「私は自分の心を捧げる相手に出会ったのです。殿下もアリスターと話をすればわかります。そこの身分を笠にきて殿下に執着するオメガなどよりアリスターの方が数倍素晴らしい。殿下も迷惑に思っているのでしょ、う…、ぐっ…」
俺を侮辱する言葉を聞いて吹出した殿下の威圧に言葉が続かなくなったシェイマスは膝に置いている拳に力を込めていないとソファーから崩れ落ちそうになっている。
「私の婚約者候補を侮辱するのは止めてもらおうか。君の最近の行動は侯爵家も憂慮している」
「家など、関係ありません。私の全てはアリスターに捧げるのですからっ」
威圧を弱めた殿下が話しながら目配せしてきたので退席する風を装ってシェイマスの横を歩きながら肩に指先で触れた。すると反論をしていたシェイマスの言葉が突然途切れて俺から見える横顔はクラレンスの時と同じように暫しぼんやりとした後、恐怖にひきつった表情へと変わった。そしてガバッと床に膝を着き謝罪を始めた。
「申し訳ございません! 私は、何を言ってっ、うぐっ! げほっ、ぐ、うぅ…」
シェイマスが嘔吐して頭を抱えてうずくまる。相当頭痛が酷いのか額には大粒の汗が浮かびきつく目を閉じている。そして頭を抱えてブルブル震えていた指からフッと力が抜けると意識を失って倒れてしまった。明らかにクラレンスの時より症状が酷いのは魅了にかかっていた時間が長かったからかもしれない。
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