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結局勇者2人は遅い昼食を取るために食堂に現れるまで部屋から出てこなかった。
その食事を準備する人たちの手間も少しは考えて欲しい。村人は「勇者様は魔獣退治してくれるありがたい存在」として敬う事が染みついているが、前世社会人だった時の経験もある俺は違う。2人はこの世界をゲームか何かと勘違いしているようにしか見えない。
「もっと旨いもの食いたいなぁ」
「城でラーメン食いたいって頼んでも全然違うもんが出てきたよな」
2人の言葉に村長の顔が緊張でこわばる。勇者様の不興を買ったのではと恐怖を感じているようだ。食事はこの村で精一杯良いものを出しているし、城の料理長はものすごく苦労して知らない料理を作ったんだと思う。本当に何なんだこいつら。早く魔獣討伐して他のところに移動して欲しい。
「もてなしに感謝する。もう少し魔獣を間引いてから移動することになる。それまでよろしく頼む」
一緒に食事をしていた勇者対応部隊隊長のグレゴール様が言葉をかけてくれて、同じテーブルについていた村長や給仕をしていた村人がほっとした表情になった。簡単な打合せなんかは食事をしながらするので、隊長、副隊長、側近、村長たち数名は遅れた2人に合わせて食事をしていた。「そんで? この後どうすんの?」というケントの貴族に対して物凄く失礼な言葉で打ち合わせは始まった。
そろそろ森の深部の討伐を始めることになるらしい。今までは村を拠点に日帰りで近場の森や山に討伐に出ていたが本来魔獣は夜に活発になるし危険な魔獣ほど森の奥にいる。打ち合わせでは行程を簡単に説明していて、俺も真剣に聞いておく。俺も途中の野営地までは同行するし、そこで2人のお世話をしなければならない。食後のお茶も終わり、それぞれ持ち場に戻る中、ダグラス様が俺に近づいてきた。
「この後少し時間を取って欲しいのだが、大丈夫か?」
「はい。勇者のお2人は部屋で休まれるようですし、問題ありません」
ダグラス様に声をかけられて一緒にテントに向かうことになった。歩きながらのお話で渡しておくものがあると言われたけど、何だろう。ダグラス様のテントは一般の兵士と違い個人使用のものだ。即されて中に入り座るように言われたんだけど、そこ、ベッドですよね? 慌てて断って立っていますと言ったんだけど…
「座る所がそこしかないんだ。君が座らないと私も座れないし、話も出来ない」
「…失礼します」
恐る恐る端の方に腰掛けるとダグラス様が笑ったような気配がして隣に座ってきた。近いよっ‼ 貴族と平民の距離というものがあると思うのですが…。
「そんなに緊張されると困ってしまうのだがこれを身に着けて欲しくて呼んだんだ」
そう言って取り出したものはペンダントだった。銀の鎖でトップ部分に小ぶりで透明な石が付いている。この石は水晶かな?と見ていたら、ダグラス様が俺の首に掛けてシャツの下に入れてしまった。鎖と石が肌に直接触れて少し冷たい。彼の満足そうな青紫の瞳が俺を見ている。
「小さいものだが魔道具だ。君を守る為の物だから肌に直接触れるように身に着けていてくれ」
「そんなっ! こんな高価なもの、私には…」
「そこまで高価な物ではないし、これは私が勝手にやっていることだから気にする
必要はない。それに、君に無理強いをするつもりもない」
魔道具は小さな物でも平民には手が出せないくらい高価だ。前半の言葉は遠慮している俺への気遣い、後半は…ダグラス様は貴族で俺は平民だから、好きに出来るはずなのに、ましてやこんな高価なものを与えられて何もないなんて本来ありえないことだから、あえて言ってくれたのだとわかる。
「今回の討伐に君も同行するだろう? もちろん魔獣からは守るつもりだが森の中は危険が多いからな」
「…ありがとう、ございます。討伐が終わりましたら必ずお返し致します」
これは一時的に借りた物だということにして返せばいいんだ。俺のその返事に少し眉を下げて頷くダグラス様にもう一度お礼を言ってテントから出た。歩きながら服の上からペンダントの石がある辺りに触れると小さな硬い感触が伝わって来た。ダグラス様が俺のことを気遣ってくれるのは、俺の立場も関係している。
村は勇者が来てくれることになって大いに盛り上がっていた。
けれど…実際に勇者がやってきてみれば、魔獣討伐はしてくれてはいるけれど、村人を完全に見下し同じ人間だと思っていないような扱いをされる。
魔獣を難なく倒す勇者の力は畏怖の対象でもある。そんな勇者がもし村の中でその力を振るったら村人はどうすることも出来ないのだと気付き、恐怖を募らせていった。勇者に媚びている3人の女たち以外の女性や子供は勇者が居る時は家から出ないようになった。それでも、お世話をする人間は必要だから村人たちで代わる代わる対応していた。その中で、勇者から直接要望を聞いたり、身の回りの世話をする人間を選ばなければいけなかった。
それが俺。この村で唯一、身寄のない俺が選ばれたのは仕方のないことだと思う。
ダグラス様はそのまるで生贄のような扱いに気が付いて部隊からの要望として変更することも出来ると言ってくれたけど、それは断った。変更して、俺以外の誰かが嫌な目に合っているのを見かけるのも嫌だし、むしろ前世の記憶持ちの俺の方があの2人の行動で何かがあっても対応できるんじゃないかと思っている。
その食事を準備する人たちの手間も少しは考えて欲しい。村人は「勇者様は魔獣退治してくれるありがたい存在」として敬う事が染みついているが、前世社会人だった時の経験もある俺は違う。2人はこの世界をゲームか何かと勘違いしているようにしか見えない。
「もっと旨いもの食いたいなぁ」
「城でラーメン食いたいって頼んでも全然違うもんが出てきたよな」
2人の言葉に村長の顔が緊張でこわばる。勇者様の不興を買ったのではと恐怖を感じているようだ。食事はこの村で精一杯良いものを出しているし、城の料理長はものすごく苦労して知らない料理を作ったんだと思う。本当に何なんだこいつら。早く魔獣討伐して他のところに移動して欲しい。
「もてなしに感謝する。もう少し魔獣を間引いてから移動することになる。それまでよろしく頼む」
一緒に食事をしていた勇者対応部隊隊長のグレゴール様が言葉をかけてくれて、同じテーブルについていた村長や給仕をしていた村人がほっとした表情になった。簡単な打合せなんかは食事をしながらするので、隊長、副隊長、側近、村長たち数名は遅れた2人に合わせて食事をしていた。「そんで? この後どうすんの?」というケントの貴族に対して物凄く失礼な言葉で打ち合わせは始まった。
そろそろ森の深部の討伐を始めることになるらしい。今までは村を拠点に日帰りで近場の森や山に討伐に出ていたが本来魔獣は夜に活発になるし危険な魔獣ほど森の奥にいる。打ち合わせでは行程を簡単に説明していて、俺も真剣に聞いておく。俺も途中の野営地までは同行するし、そこで2人のお世話をしなければならない。食後のお茶も終わり、それぞれ持ち場に戻る中、ダグラス様が俺に近づいてきた。
「この後少し時間を取って欲しいのだが、大丈夫か?」
「はい。勇者のお2人は部屋で休まれるようですし、問題ありません」
ダグラス様に声をかけられて一緒にテントに向かうことになった。歩きながらのお話で渡しておくものがあると言われたけど、何だろう。ダグラス様のテントは一般の兵士と違い個人使用のものだ。即されて中に入り座るように言われたんだけど、そこ、ベッドですよね? 慌てて断って立っていますと言ったんだけど…
「座る所がそこしかないんだ。君が座らないと私も座れないし、話も出来ない」
「…失礼します」
恐る恐る端の方に腰掛けるとダグラス様が笑ったような気配がして隣に座ってきた。近いよっ‼ 貴族と平民の距離というものがあると思うのですが…。
「そんなに緊張されると困ってしまうのだがこれを身に着けて欲しくて呼んだんだ」
そう言って取り出したものはペンダントだった。銀の鎖でトップ部分に小ぶりで透明な石が付いている。この石は水晶かな?と見ていたら、ダグラス様が俺の首に掛けてシャツの下に入れてしまった。鎖と石が肌に直接触れて少し冷たい。彼の満足そうな青紫の瞳が俺を見ている。
「小さいものだが魔道具だ。君を守る為の物だから肌に直接触れるように身に着けていてくれ」
「そんなっ! こんな高価なもの、私には…」
「そこまで高価な物ではないし、これは私が勝手にやっていることだから気にする
必要はない。それに、君に無理強いをするつもりもない」
魔道具は小さな物でも平民には手が出せないくらい高価だ。前半の言葉は遠慮している俺への気遣い、後半は…ダグラス様は貴族で俺は平民だから、好きに出来るはずなのに、ましてやこんな高価なものを与えられて何もないなんて本来ありえないことだから、あえて言ってくれたのだとわかる。
「今回の討伐に君も同行するだろう? もちろん魔獣からは守るつもりだが森の中は危険が多いからな」
「…ありがとう、ございます。討伐が終わりましたら必ずお返し致します」
これは一時的に借りた物だということにして返せばいいんだ。俺のその返事に少し眉を下げて頷くダグラス様にもう一度お礼を言ってテントから出た。歩きながら服の上からペンダントの石がある辺りに触れると小さな硬い感触が伝わって来た。ダグラス様が俺のことを気遣ってくれるのは、俺の立場も関係している。
村は勇者が来てくれることになって大いに盛り上がっていた。
けれど…実際に勇者がやってきてみれば、魔獣討伐はしてくれてはいるけれど、村人を完全に見下し同じ人間だと思っていないような扱いをされる。
魔獣を難なく倒す勇者の力は畏怖の対象でもある。そんな勇者がもし村の中でその力を振るったら村人はどうすることも出来ないのだと気付き、恐怖を募らせていった。勇者に媚びている3人の女たち以外の女性や子供は勇者が居る時は家から出ないようになった。それでも、お世話をする人間は必要だから村人たちで代わる代わる対応していた。その中で、勇者から直接要望を聞いたり、身の回りの世話をする人間を選ばなければいけなかった。
それが俺。この村で唯一、身寄のない俺が選ばれたのは仕方のないことだと思う。
ダグラス様はそのまるで生贄のような扱いに気が付いて部隊からの要望として変更することも出来ると言ってくれたけど、それは断った。変更して、俺以外の誰かが嫌な目に合っているのを見かけるのも嫌だし、むしろ前世の記憶持ちの俺の方があの2人の行動で何かがあっても対応できるんじゃないかと思っている。
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