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森の狩から戻ってその日は炊事や馬の世話を手伝って日暮れまでいつも通りに過ごした。夕食にはダグラス様が仕留めた鳥も出されて美味しくいただいた。
食事の片付けを終えて寝るまでは休憩になるから焚火のまわりで談話したり自分の武器の手入れをしたりしてそれぞれ過ごす。
俺はダグラス様に夕食後に呼ばれていたので指揮官用テントに向かって歩いていた。今回も数日留まるので近くの平原にいくつかテントが張られている。テントの側にはダグラス様とグレゴール様の側近の2人が見張りとして立っていた。こんなことは今まで無かったので驚いて立ち止まっていたらダグラス様の側近のストライド様が声をかけてきた。
「カイ様、中で皆様お待ちになっていますからこちらからどうぞ」
「はい、ありがとうございます…」
中に声をかけてから入口を開いてくれたので即されるままに入った。中にはダグラス様だけでなくクライド様とグレゴール様もいた。これから一体何の話をするんだろう。ダグラス様の隣に座るように言われて腰かけるとストライド様が俺の前にお茶を出してからテントを出て行った。
「お待たせして申し訳ありません。どういったお話でしょうか」
「今日は君が思っていることを聞かせてもらいたくてクライド様とグレゴールにも同席してもらった。私には君が無理をしているように見える。何か悩んでいたり聞きたいことはないだろうか?」
ダグラス様の言葉に首をかしげる。クライド様とグレゴール様も真剣な顔でこちらを伺っているようだ。無理?悩んでいること…?
「攻撃魔法がもっとうまく使えるようになればとは思っています。そうすれば討伐でももう少しお役に立てると…」
「それは本当に君の望んでいる事なのか?」
「ダグラス、少し落ち着け。カイ、大丈夫だ。ゆっくり考えて話してくれればいい」
俺が話すのを遮ったダグラス様をグレゴール様がたしなめて少し乗り出していた肩を押し戻している。勇者としての適性がやっと判明した俺はまだ一人前とは言えないから今の悩みと言えるのは攻撃魔法の事くらいだ。
「私は勇者としてまだ何も出来ないのでこの訓練の間に少しでも攻撃魔法が上手くなりたいんです」
俺の言葉にダグラス様の表情が歪んだ。怒っているような…悲しそうなそんな顔。
「そうか。これはいけないね。私達の責任だ。カイくん、無理をして勇者にならなくてもいいんだよ。」
「勇者にならなくても…? でも魔力紋が発現したから勇者なんですよね?」
ずっと黙っていたクライド様が発した言葉に困惑する。だって俺が勇者になったからあの村から出てこうして攻撃魔法を訓練して魔力紋を育てていって……………
育たなかったら?
―――俺は、勇者失格なのか?
あの日の光景がフラッシュバックする。2人の手から消えた魔力紋。真っ黒に染まった宝玉。元の場所に戻すって連れていかれて…………でも俺にはもう戻る体は…
椅子から崩れ落ちそうになった体を強い力で抱きこまれた。震える俺を抱きしめているのはダグラス様で、こんな俺に手を差し伸べてくれて恋人だと言ってくれた人。
俺の目から涙があふれた。
「ダグラス、さま。ごめん、なさい」
「どうして謝るんだ? それにこんなに泣いて、震えて」
「俺、勇者失格、なんでしょ? …だからこんな風に、呼び出して…」
「あぁっ違うよ! ごめんね。言い方が悪かったみたいだ。失格なんてことにはならないよ! 君は十分頑張っている。どちらかと言うと頑張りすぎてて問題なんだよ」
「水魔法教えた時も力が入り過ぎてる感じだったし、おかしいと思っていたんだ」
クライド様が慌てて否定してくれてグレゴール様がハンカチを差出している。ダグラス様がそれを受け取り腕の中の俺の涙を拭ってくれて…
「私には君が必死で勇者になろうとしているように見えたんだ。今日の狩でも無理をしていただろう? あの村から連れ出した私たちが君を追い詰めているんじゃないかと思ったから話をしようと呼んだんだよ」
「俺、無理なんてしてないです…」
「本当に? 君が初めて強力な攻撃魔法を撃ちだしたときに最初に言った言葉は
”怖い”だった。私達はそんな君をもっと気遣ってやらなければいけなかった」
すまなかったと言ってダグラス様が頭にぽんぽんと手をのせてくれたら、止まりかけた涙がまた溢れてしまって、
「良かっ、た…っ! ひっく、失格じゃなくて、俺、まだここにいても、うぅ…」
確かに俺は気負い過ぎていたんだと思う。早く役に立つようになることばかりを考えていたと今ならわかる。ダグラス様が背中を優しく撫でてくれてようやく涙が収まるとクライド様がすまなそうに言い出した。
「不安にさせてしまってごめんね。本来なら王城に召喚されるからそこで色々学べるし文献もあるから自分で調べることも出来るのだけど、君にはそう言った情報が足りていない事への配慮が足りなかった。召喚されて勇者にならない人もいるんだよ」
クライド様と一緒に召喚されてきた人はこちらに残ったけど今は勇者ではなくて田舎の村で結婚して農家をやっているそうだ。他にもそういう人はいるから無理をしているならそういう選択もあるという事だったらしい。
俺の早とちりで泣き出してしまったのに3人から謝られてしまい、俺もこれからは相談するし頼るようにすると約束をしてその場はお開きになった。
食事の片付けを終えて寝るまでは休憩になるから焚火のまわりで談話したり自分の武器の手入れをしたりしてそれぞれ過ごす。
俺はダグラス様に夕食後に呼ばれていたので指揮官用テントに向かって歩いていた。今回も数日留まるので近くの平原にいくつかテントが張られている。テントの側にはダグラス様とグレゴール様の側近の2人が見張りとして立っていた。こんなことは今まで無かったので驚いて立ち止まっていたらダグラス様の側近のストライド様が声をかけてきた。
「カイ様、中で皆様お待ちになっていますからこちらからどうぞ」
「はい、ありがとうございます…」
中に声をかけてから入口を開いてくれたので即されるままに入った。中にはダグラス様だけでなくクライド様とグレゴール様もいた。これから一体何の話をするんだろう。ダグラス様の隣に座るように言われて腰かけるとストライド様が俺の前にお茶を出してからテントを出て行った。
「お待たせして申し訳ありません。どういったお話でしょうか」
「今日は君が思っていることを聞かせてもらいたくてクライド様とグレゴールにも同席してもらった。私には君が無理をしているように見える。何か悩んでいたり聞きたいことはないだろうか?」
ダグラス様の言葉に首をかしげる。クライド様とグレゴール様も真剣な顔でこちらを伺っているようだ。無理?悩んでいること…?
「攻撃魔法がもっとうまく使えるようになればとは思っています。そうすれば討伐でももう少しお役に立てると…」
「それは本当に君の望んでいる事なのか?」
「ダグラス、少し落ち着け。カイ、大丈夫だ。ゆっくり考えて話してくれればいい」
俺が話すのを遮ったダグラス様をグレゴール様がたしなめて少し乗り出していた肩を押し戻している。勇者としての適性がやっと判明した俺はまだ一人前とは言えないから今の悩みと言えるのは攻撃魔法の事くらいだ。
「私は勇者としてまだ何も出来ないのでこの訓練の間に少しでも攻撃魔法が上手くなりたいんです」
俺の言葉にダグラス様の表情が歪んだ。怒っているような…悲しそうなそんな顔。
「そうか。これはいけないね。私達の責任だ。カイくん、無理をして勇者にならなくてもいいんだよ。」
「勇者にならなくても…? でも魔力紋が発現したから勇者なんですよね?」
ずっと黙っていたクライド様が発した言葉に困惑する。だって俺が勇者になったからあの村から出てこうして攻撃魔法を訓練して魔力紋を育てていって……………
育たなかったら?
―――俺は、勇者失格なのか?
あの日の光景がフラッシュバックする。2人の手から消えた魔力紋。真っ黒に染まった宝玉。元の場所に戻すって連れていかれて…………でも俺にはもう戻る体は…
椅子から崩れ落ちそうになった体を強い力で抱きこまれた。震える俺を抱きしめているのはダグラス様で、こんな俺に手を差し伸べてくれて恋人だと言ってくれた人。
俺の目から涙があふれた。
「ダグラス、さま。ごめん、なさい」
「どうして謝るんだ? それにこんなに泣いて、震えて」
「俺、勇者失格、なんでしょ? …だからこんな風に、呼び出して…」
「あぁっ違うよ! ごめんね。言い方が悪かったみたいだ。失格なんてことにはならないよ! 君は十分頑張っている。どちらかと言うと頑張りすぎてて問題なんだよ」
「水魔法教えた時も力が入り過ぎてる感じだったし、おかしいと思っていたんだ」
クライド様が慌てて否定してくれてグレゴール様がハンカチを差出している。ダグラス様がそれを受け取り腕の中の俺の涙を拭ってくれて…
「私には君が必死で勇者になろうとしているように見えたんだ。今日の狩でも無理をしていただろう? あの村から連れ出した私たちが君を追い詰めているんじゃないかと思ったから話をしようと呼んだんだよ」
「俺、無理なんてしてないです…」
「本当に? 君が初めて強力な攻撃魔法を撃ちだしたときに最初に言った言葉は
”怖い”だった。私達はそんな君をもっと気遣ってやらなければいけなかった」
すまなかったと言ってダグラス様が頭にぽんぽんと手をのせてくれたら、止まりかけた涙がまた溢れてしまって、
「良かっ、た…っ! ひっく、失格じゃなくて、俺、まだここにいても、うぅ…」
確かに俺は気負い過ぎていたんだと思う。早く役に立つようになることばかりを考えていたと今ならわかる。ダグラス様が背中を優しく撫でてくれてようやく涙が収まるとクライド様がすまなそうに言い出した。
「不安にさせてしまってごめんね。本来なら王城に召喚されるからそこで色々学べるし文献もあるから自分で調べることも出来るのだけど、君にはそう言った情報が足りていない事への配慮が足りなかった。召喚されて勇者にならない人もいるんだよ」
クライド様と一緒に召喚されてきた人はこちらに残ったけど今は勇者ではなくて田舎の村で結婚して農家をやっているそうだ。他にもそういう人はいるから無理をしているならそういう選択もあるという事だったらしい。
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