村に勇者が来た

negi

文字の大きさ
15 / 22

14

しおりを挟む
 早朝から起き出してテントをたたみ野営場所の片付けをして出発した。半日程進んだところに野党に襲われた商隊らしき馬車の残骸があった。アンデッドは生きている者に引き寄せられる性質があるからここから俺たちの居た野営場所まで来たのだろう。

 それにしてもこの辺りは本当に何も無い。山、森、林、平原、たまに水場の連続だ。でもこんな所だから俺の魔法を試すことも出来る。次の野営場所にも少し留まり魔法の訓練をすることになった。野営場所を少し離れると広めの平原があったのでそこで一通り攻撃魔法を撃ってみる。

俺のすぐ横にはダグラス様。後ろにクライド様とグレゴール様。更に後ろに兵士達数名。何があっても万全である。浄化魔法を使った時の事を思い出して手のひらから魔力を放出するのを意識して呪文を唱える。

「ファイアボール!」 拳くらいの火の玉が飛んでいった。すぐ消えた。
「ストーンバレット!」 石つぶて3,4個が飛んでいった。痛そう。
「エアショット!」 小さな竜巻が起きた。洗濯物を飛ばすくらいは出来そうだ。
「ライトアロー!」 光の矢が1本飛んでいった。一応地面に刺さった。
「ウォーターボール!」 ゴゴゴゴゴッと渦巻く巨大な水球が発生して平原を飛んでいき奥の林の木々を巻き込みなぎ倒してから消えた。明らかに水魔法だけおかしい。後ろを見ると皆呆然としている。

「凄いな……」

「私もこれほどとは思わなかった……」

「これは俺の出る幕が無くなりそうだな……」

ダグラス様とクライド様とグレゴール様がそれぞれ呟いた。俺のはじめての攻撃魔法は兵士達も凄いと言っているけど、でもこれは…このままでは駄目なんじゃないだろうか。

「ダグラス様、魔力を制御するにはどうすればいいですか? このままでは加減がわからなくて怖くて使えません」

「攻撃魔法で放出する魔力の制御は子供の頃からの訓練で身に着けるものだからな…。今まで使ってこなかったカイは感覚がわからないということか」

「うん、そうだね。でも私達には前世の知識があるだろう? 映画やゲームで魔法を経験がある。水魔法以外はイメージ出来ていなかったんじゃないかな」

「イメージ……。わかりました。もう一度やってみます」

確かに前世で川で溺れかけたことがあったから水の怖さは知っていた。水以外は呪文を唱えたら撃てるかな、くらいの感覚だったかもしれない。俺は今度は記憶の中の映像を思い出しながら魔法を撃った。

―――結果は、水以外は少しマシになった程度だった。そういえばあんまりゲームはしていなかったんだよな~。
水魔法は同じ属性が得意なグレゴール様から教わったりして大分感覚が掴めたと思う。自在に操れるのが楽しくなってしまって色々試したら平原が水浸しになってしまった。
ダグラス様とグレゴール様にも水以外のお手本を見せてもらったけれど、水魔法程は上手く操れなくて俺の得意な属性は浄化と水だと判明した。今後はその2属性を伸ばしていくことになった。

俺は水属性の攻撃魔法も手に入れてまた少し役に立てるものが増えた。


 せっかく覚えた攻撃魔法を実戦で使ってみるため俺はダグラス様と数名の兵士と一緒に野営場所近くの森に来ていた。自然豊かな森は野生動物も多く生息していて今までも移動中の食料の一部を山や森で狩って調達していたのでそれに参加して試すことになった。

森に入って少し進んだところでダグラス様が上に向かって魔法を撃った。すぐに鳥が3羽落ちてきた。あっという間の事だった。ぴくぴく動いててまだ生きている鳥を兵士が捕獲して足を縛って袋に入れている。

「凄い。今のは雷魔法ですか? 鳥がいる事さえ気づきませんでした」

「私は慣れているからな。鳥は少し難しいから鹿や猪がいたらカイの魔法を試してみよう」

それからしばらく森の中を進むと先を歩いている兵士が口に指をあてて静止の合図をしてきた。兵士の一人が何かを見つけたようで息をひそめてその場に行くと、そこは木の無い開けた場所で4頭の鹿が草を食べていた。

ダグラス様に目配せされ、俺が魔法を撃とうとしたその時、鹿が一斉に同じ方向を見てすぐ逃げ出した。素早くダグラス様が1頭を魔法で仕留めると俺たちとは反対側から狼の魔獣の群れが現れて倒れた鹿に群がって食べ始めた。

「今のうちに陣形を組め。討伐する」

ダグラス様の声に兵士達が素早く動き俺を守るような陣形になった。俺の前に立ったダグラス様の合図で狼魔獣に弓矢と攻撃魔法が飛んでいく。狼魔獣も攻撃されてこちらに気付き襲い掛かってきた。

(守られていたら何も始まらない! 何のために練習したんだ!)

俺も手をかざし水魔法を撃った。ダグラス様が少し驚いた顔で振り返る。俺の放った水魔法がまとめて数匹を倒すのを見て頷いて前に向き直った。 


兵士達の連携も素晴らしく、さして時間もかからず狼魔獣を全て倒してしまった。
 死骸はアンデッド化しないよう掘った穴に集めて燃やす。炎をぼんやり見ていたらダグラス様に肩を抱き寄せられ見上げると黙って見返す青紫の瞳と目が合う。

「…はじめて魔獣を倒しました。ダグラス様の指揮のもと兵士の皆さんの連携も凄くて、私がもっと勇者らしくなれば討伐も楽になりますね」

「疲れただろう? 今日はもう戻ろう」

そっと抱きしめられてから背を押されてその場を離れた。ダグラス様の言った通りそのまま野営場所に戻ることになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...