異世界で神子になりまして

negi

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40 侯爵の自論

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 俺の手にスキンシップしている二人に呆れたような視線を向けたニスカーナンからため息が漏れた。クルサード侯爵もやれやれとばかりに両手を上げている。

「ご安心ください。その二人に婚約依頼が届くことはありません」

 そう言い切るニスカーナンは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

「でも、殺到するって…」

俺が疑問を投げかけると、苦い顔のニスカーナンの隣でクルサード侯爵がなぜか笑いを堪えながら教えてくれた。

「本来ならそうなるでしょうが、宰相閣下が全て止めてくださいますから大丈夫だと思いますよ。くくく、まったく、ニスカーナン様を相手に脅しをかけるとは」

脅し? え? 脅してたの? エドとリックを見れば二人とも笑顔。
うん、これは格好いいけど悪い方の笑顔だ。

「この二人の一方的な思いでしたら協力などしませんが、アキラ様からの気持ちも証明されましたから。アキラ様のお気持ちが最優先です」

顔は嫌そうなのに「全力で阻止します」と言うニスカーナンにクルサード侯爵がとうとう堪えきれずに声を上げて笑っている。

「…なんか、ごめんなさい」

「いいえ、アキラ様のお役に立てて嬉しく思います」



 それからエドとリックにも俺の両隣に座ってもらって、俺が意識を失った経緯を更に詳しく話し、今後のために意見を出し合った。クルサード侯爵が熱心にメモを取りながら質問をしてくる。

「では、神殿には夕刻に向かわれて司祭様と面会後に祈りを捧げられたのですか?」

「はい。あの日アキラ様は祈りを捧げながらお身体が淡く発光する程の魔力を放出していました。そのお姿に神殿関係者が感激の涙を流すほどでした」

「ニスカーナン様の元に知らせが届くほどの効果が出ていますから、相当な魔力量だったことはお分かりいただけるかと思います」

二人の話を聞いたクルサード侯爵がメモを取りながら今度は俺に質問してきた。

「それほどの魔力放出をしてもお身体に異常は無かったのでしょうか?」

「祈りの間を出て歩いているときに少し疲労感があった気がします」

もしかして立ち上がった時にコケたのはそのせいだったのかなって思い出していたら、隣から「やはりあの時抱いて移動していれば…」とリックの呟きが聞こえてきた。いやいや、恥ずかしいからそれは却下で!

 神殿の廊下でぶつかりそうになった母娘の話もして、帰りの馬車に乗る頃の空がどんより曇っていた原因を知ったニスカーナンと侯爵が気まずそうな顔をしていた。

「貴族の悪しき風習です」

申し訳なさそうな顔のニスカーナンが「無くしていくように呼びかけていきます」と言ってくれたので、少しづつでも改善していって欲しいな。

 帰りの馬車での治療の経緯を再確認したクルサード侯爵が少し黙った後に、これは自論ですがと前置きしてから話しだした。

「代々の神子様のほとんどが生涯を伴侶様と共にお過ごしになりました。神子様は必ず男性ですが、伴侶様は女性と男性どちらの記録もあります」

 笑顔で「ご安心ください」と言われて照れてしまう。同性婚可能な世界なんだな。

 その中で先代、先々代は続けて伴侶がいなかった。先代はご高齢だったためお相手を望まれなかったようだが、先々代の神子は手記にあったように最初の不信感から人間関係が築けなかったことが原因だろう。

「私は先々代の神子様がご短命だったのは、伴侶様を望まれなかったからではないかと思っておりました。その答えを今日、知る事が出来たと確信しております。神子様は与えるだけでなく、受け取るものも無ければならないのかもしれません」

 侯爵の調べでは先代の神子は伴侶はいなかったが国民にとても慕われていたそうだ。
毎日のように祈りを捧げている先代に対し、皆その恩恵に感謝し、敬っていた。ある意味国民に愛されていた神子だった。

 先々代の神子は一度も神殿に足を踏み入れることも無く、魔法で国民を癒すことも無かった。二人の寿命の違いはそこにあると侯爵は言う。


――――神子は愛されなければ消える

 
 神の声が言ったように、神子は愛し愛されなければ消えてしまうということなんだろうか。

 先々代の神子の手記に「私は誰も愛さない。そして誰も私を愛さない」と記されていたことを思い出した。もしかしたら、先々代の神子にも神の声が届いていたんじゃないだろうか?



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