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教室に入って来た上級生は僕でも顔を知っていて噂を聞いたことがある人だった。
他校の生徒と喧嘩して問題になったとか、あまり良くない噂だ。そんな二人が僕を見て大股で近づいて来た。
「おお、マジで可愛いじゃん。ホントに男か?」
「噂を聞いた時は嘘っぽいって思ってたけど、こりゃ可愛いな」
ちょっと怖いけどお客さんだし、ひとまず型通りの対応だけでもしないと。
「いらっしゃいませ。一パック二百円で、わっ?!」
一人が僕の手首を掴んで引っ張る。つまづきそうになるのを何とか堪えた。
「手首細いなぁ。でも声は男だな」
「あの、離して下さいっ」
手を離してもらおうと引っ張っても力が強くて外れない。隣に居た柔道部の藤原君が間に入ってくれようとして手を伸ばしてきた。
「嫌がっています! 止めて下さい!」
「うるせえ! 引っ込んでろ!」
「なあ、俺達の教室に来いよ。みんなに見せるからさ」
見張り役の藤原君が言っても全く怯む様子も無く手も離して貰えない。こんなのどうしたらいいんだ。非力な自分が情けないって思っていたら、隣で売り子をしている野田君と伊藤君やたこ焼きを焼いている鈴木君と飯島君だけじゃなく、裏方のクラスメイト達みんなが仕切りのカーテンを開いて僕の側まで来てくれた。
「小林を離して下さい!」
「上級生だからって許されませんよ!」
「これは迷惑行為です! 誰か先生呼んで来い!」
「ちょ、お前ら生意気だぞっ」
「おいっ、これ、まずいんじゃないか?」
ほぼクラス全員に詰め寄られてたじろぐ上級生二人に、一般来場者のおばちゃん達からも非難の声が上がる。
「あなた達、見っともないわよ。いい加減その手を離しなさい!」
「その可愛い子をみんなで守ってるのがわからないの? 諦めなさい!」
「そうよ! ホントダッサい!」
あ、女子高生も混ざってた。女の子からの非難がトドメになったようでやっと手を離してもらうことが出来た。売り場から離れた二人におばちゃんと女子高生が続けて非難を浴びせているのが聞こえる。流石にばつが悪くなり出て行こうとした二人の元に厳しいと評判の生活指導の先生達が呼ばれてやって来た。その先生達に教室から連れ出され、厳重注意を受けた上級生達はすっかり大人しくなって帰って行った。
「小林、大丈夫だったか?」
「掴まれたところは痛くないか?」
「やっぱりもっと早く下がってもらえば良かった」
僕の周りに集まって来たみんなの労わる声が優しい。嬉しくて、なんか泣きそうだ。
「ありがとう。みんなが見守ってくれるから大丈夫。最後まで売り子頑張るよ」
僕の返事にクラスメイト達から呻き声が上がって「健気可愛い」「天使がおる」とかって聞こえてくる。まだ文化祭テンションが続いているみたいだ。
それからはトラブルも無く、最後の方にお客さんとして高橋さんが来てくれた。
「小林君、また絡まれたんだって?」
「何で知ってるんですか? でもみんなが庇ってくれたから無事ですよ」
「ふーん。一応見守りは機能してるんだ…」
ちらりと高橋さんがクラスメイト達に視線を向けるとみんなが口々に応戦していく。
「小林は俺達が守るんでもう大丈夫です」
「一致団結してるんで、もう心配ありません」
「ご注文はこちらにどうぞ~」
「俺は小林君から買うから…」
「いえいえ、私が承りますね! 何パックお買い上げですか~?」
セーラー服の伊藤君がわざとらしいぶりっ子ポーズで売り込んでるし、何故かクラスメイト達が高橋さんを警戒していてやり取りが面白い事になっている。
高橋さんは伊藤君をかわして僕のところに来てたこ焼きを二パック注文してくれた。
「二パックで四百円です。辛いのが混ざっているけど大丈夫ですか?」
「心配してくれるんだ。小林君は優しいな」
「辛いの苦手なら牛乳か乳酸菌飲料もどうぞ」
「商売上手だなっ!」
僕が勧めた乳酸菌飲料も買った高橋さんは僕とのツーショット写真を強請り、クラスメイト達にブーイングを浴びながら僕の肩を抱いて写真を撮って帰って行った。
最後のお客さんを見送って、裏方は少しづつ片付けも始めた頃、文化祭終了の校内放送が流れてきた。
後片付けを手伝うために着替えようとしたらみんなから待ったがかかって、頭を撫でられたり、ハグされたり、膝にも座らされたし姫抱きも何回かされた。
そうしたらスカートの中が見えて五分丈のスパッツを履いていたのがバレて物凄くがっかりされたのも可笑しかった。一体何を期待してたんだよ。
みんなと一緒に写真も沢山撮った。ちょっとトラブルもあったけど思っていた以上に文化祭を楽しめたと思うし本当にいい思い出になった。クラスメイト達とも前よりも仲良くなれたんじゃないかなぁ。
他校の生徒と喧嘩して問題になったとか、あまり良くない噂だ。そんな二人が僕を見て大股で近づいて来た。
「おお、マジで可愛いじゃん。ホントに男か?」
「噂を聞いた時は嘘っぽいって思ってたけど、こりゃ可愛いな」
ちょっと怖いけどお客さんだし、ひとまず型通りの対応だけでもしないと。
「いらっしゃいませ。一パック二百円で、わっ?!」
一人が僕の手首を掴んで引っ張る。つまづきそうになるのを何とか堪えた。
「手首細いなぁ。でも声は男だな」
「あの、離して下さいっ」
手を離してもらおうと引っ張っても力が強くて外れない。隣に居た柔道部の藤原君が間に入ってくれようとして手を伸ばしてきた。
「嫌がっています! 止めて下さい!」
「うるせえ! 引っ込んでろ!」
「なあ、俺達の教室に来いよ。みんなに見せるからさ」
見張り役の藤原君が言っても全く怯む様子も無く手も離して貰えない。こんなのどうしたらいいんだ。非力な自分が情けないって思っていたら、隣で売り子をしている野田君と伊藤君やたこ焼きを焼いている鈴木君と飯島君だけじゃなく、裏方のクラスメイト達みんなが仕切りのカーテンを開いて僕の側まで来てくれた。
「小林を離して下さい!」
「上級生だからって許されませんよ!」
「これは迷惑行為です! 誰か先生呼んで来い!」
「ちょ、お前ら生意気だぞっ」
「おいっ、これ、まずいんじゃないか?」
ほぼクラス全員に詰め寄られてたじろぐ上級生二人に、一般来場者のおばちゃん達からも非難の声が上がる。
「あなた達、見っともないわよ。いい加減その手を離しなさい!」
「その可愛い子をみんなで守ってるのがわからないの? 諦めなさい!」
「そうよ! ホントダッサい!」
あ、女子高生も混ざってた。女の子からの非難がトドメになったようでやっと手を離してもらうことが出来た。売り場から離れた二人におばちゃんと女子高生が続けて非難を浴びせているのが聞こえる。流石にばつが悪くなり出て行こうとした二人の元に厳しいと評判の生活指導の先生達が呼ばれてやって来た。その先生達に教室から連れ出され、厳重注意を受けた上級生達はすっかり大人しくなって帰って行った。
「小林、大丈夫だったか?」
「掴まれたところは痛くないか?」
「やっぱりもっと早く下がってもらえば良かった」
僕の周りに集まって来たみんなの労わる声が優しい。嬉しくて、なんか泣きそうだ。
「ありがとう。みんなが見守ってくれるから大丈夫。最後まで売り子頑張るよ」
僕の返事にクラスメイト達から呻き声が上がって「健気可愛い」「天使がおる」とかって聞こえてくる。まだ文化祭テンションが続いているみたいだ。
それからはトラブルも無く、最後の方にお客さんとして高橋さんが来てくれた。
「小林君、また絡まれたんだって?」
「何で知ってるんですか? でもみんなが庇ってくれたから無事ですよ」
「ふーん。一応見守りは機能してるんだ…」
ちらりと高橋さんがクラスメイト達に視線を向けるとみんなが口々に応戦していく。
「小林は俺達が守るんでもう大丈夫です」
「一致団結してるんで、もう心配ありません」
「ご注文はこちらにどうぞ~」
「俺は小林君から買うから…」
「いえいえ、私が承りますね! 何パックお買い上げですか~?」
セーラー服の伊藤君がわざとらしいぶりっ子ポーズで売り込んでるし、何故かクラスメイト達が高橋さんを警戒していてやり取りが面白い事になっている。
高橋さんは伊藤君をかわして僕のところに来てたこ焼きを二パック注文してくれた。
「二パックで四百円です。辛いのが混ざっているけど大丈夫ですか?」
「心配してくれるんだ。小林君は優しいな」
「辛いの苦手なら牛乳か乳酸菌飲料もどうぞ」
「商売上手だなっ!」
僕が勧めた乳酸菌飲料も買った高橋さんは僕とのツーショット写真を強請り、クラスメイト達にブーイングを浴びながら僕の肩を抱いて写真を撮って帰って行った。
最後のお客さんを見送って、裏方は少しづつ片付けも始めた頃、文化祭終了の校内放送が流れてきた。
後片付けを手伝うために着替えようとしたらみんなから待ったがかかって、頭を撫でられたり、ハグされたり、膝にも座らされたし姫抱きも何回かされた。
そうしたらスカートの中が見えて五分丈のスパッツを履いていたのがバレて物凄くがっかりされたのも可笑しかった。一体何を期待してたんだよ。
みんなと一緒に写真も沢山撮った。ちょっとトラブルもあったけど思っていた以上に文化祭を楽しめたと思うし本当にいい思い出になった。クラスメイト達とも前よりも仲良くなれたんじゃないかなぁ。
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