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すっかり寒くなってきて寒がりの僕には憂鬱な季節が来てしまった。
「高橋先輩、僕にはもう無理です」
「そんな…。もう少し、もう少しだけ…」
「いえ、もう限界です」
「もう会えないなんて寂しいじゃないか!」
縋ってくる高橋さんには申し訳ないけど、僕にはもう耐えられないんだ。
「寒くて屋外でお昼ご飯を食べるなんてもう無理です!!」
「えええ、学年が違うからお昼ご飯の時くらいしか会えないのに~」
高橋さんが顔を覆って嘆いているけどもう本当に無理だよ。
僕はあの日隠れ姫だってバラされた後も度々中庭でお昼ご飯を食べていた。購買から近いし、やっぱり教室より屋外の方が気持ち良いのを知ってしまったって言うのが一番の理由かな。そうしたらクラスメイトの中にも外で食べる人が増えて、今も中庭の角にあるL字型の一番大きなベンチにみんなで並んで食べている。
良く一緒になるのは文化祭の時の女装仲間三人で、あれ以来クラス内で一番仲の良い友達って言える間柄になれたと思う。後はすっかり優しくなった井上君達や元恋人(?)の佐藤君も頻繁にここでお昼ご飯を食べている。
そこに高橋さんがちょいちょい割り込んで来ては一緒に食べていて、相変わらずクラスメイト達と攻防を繰り広げていて面白い。
「じゃあ、ハグ、最後にハグさせて!」
そろそろ戻ろうとしていたら高橋さんがそんな事を言い出して、そのくらいならいつもの事だからいいかって自分から抱き着いた。
「こ、小林君っ?! ああっ、可愛い!!」
感極まったような声を上げた高橋さんにぎゅうッと抱きしめられてちょっと苦しい。緩めて欲しくて背中をポンポンしたら少し力を抜いてくれたけど周りのクラスメイト達が騒ぎ出してしまった。
「ズルい! 小林から抱き着いてもらうなんて!」
「小林、俺も!」
「俺のところにも来てくれ!」
「駄目。渡さない。はぁ、このすっぽりと収まるのが良い…」
両手を広げた佐藤君と井上君を無視して離してくれない高橋さんの腕の中は暖かくて、屋外で冷えた身体にはありがたい。心地よくて力が抜けていく。
「うわ、可愛い。そんなんじゃもう離せなくなるよ。ハグ好き?」
「ん、暖かい…」
身体を預けて温まっていたらまたぎゅうっと苦しいくらい抱きしめてきた高橋さんが本当に小さな声で「参ったな」って呟くのが聞こえて、それと同時位に予鈴が鳴った。
それが合図になってみんな後片付けを始めて高橋さんも僕を離してくれて食べたパンの袋なんかをまとめている。
さっきまで暖かかったから急に寒くなってぶるっと身体が震えてしまった。
それからはお昼ご飯を教室で食べるようになって寒く無くなったのは良いんだけど、何だか物足りない気持ちになる時がある。
姫ポジになってから消極的な僕にクラスメイト達が話かけてくれるようになった。
まだこちらから話しかけたり話題を振ったりは中々出来ない陰キャな僕にみんな優しくて前よりかはずっと楽しい。でも、中庭のベンチでみんなや高橋さんと一緒にワイワイ食べるのは楽しかったなって思い出してつい比べてしまうんだ。
以前の僕からしたら大分贅沢な悩みだよね。
***
また姉に頼まれて予約した本を受け取るために帰り道からそれてショッピングセンターに寄り道する。今回もバイトで閉店時間に間に合わないって言う事だけど、姉はそんなにバイトばっかりしていて大学の勉強は大丈夫なんだろうか。
前回同様に代金は支払い済みの本を受け取り書店を出てセンター内をふらふらと散策しながら歩く。十二月に入ってショッピングセンター内はクリスマス一色になっていて大きなツリーも飾り付けられているし音楽も流れていて何だかキラキラしている。
よそ見しながら歩いていたのが良くなかったんだと思う。擦れ違う人にぶつかってしまい持っていた本が手から落ちて床を滑り、袋から出てしまった。透明なビニールに包まれているから汚れなかったとは思うけど、それはスーツ姿の男同士がキスしている絵が表紙に描かれたBL漫画だった。
( ぎゃぁぁ!? 姉ちゃんたらなんて物を弟に受け取り頼んでんだよ!! )
内心では絶叫しながら慌てて拾って袋に仕舞い、ぶつかってしまった人に謝ってとにかくその場から逃げた。お店とお店の間の奥に関係者以外使えない扉のある通路から少しそれたところを見つけてそこに入った。壁に背を預けて息を整える。心臓がどきどきして顔も熱い。もおおぉ、恥ずかしかったぁ。
周りに人がいないか確認してから落としてしまった本を袋から出して状態を確認してみた。取り落した瞬間とっさに膝を曲げたから床を横滑りしてたし、本の角が床に激突して潰れたりはしていないようだ。良かった、これなら姉に怒られずに済みそうだ。
本を袋に戻して今度はちゃんと鞄に仕舞った。次回からは受け取ったらすぐに鞄に入れてしまおう。もうあんな恥ずかしい思いはしたくない。
「高橋先輩、僕にはもう無理です」
「そんな…。もう少し、もう少しだけ…」
「いえ、もう限界です」
「もう会えないなんて寂しいじゃないか!」
縋ってくる高橋さんには申し訳ないけど、僕にはもう耐えられないんだ。
「寒くて屋外でお昼ご飯を食べるなんてもう無理です!!」
「えええ、学年が違うからお昼ご飯の時くらいしか会えないのに~」
高橋さんが顔を覆って嘆いているけどもう本当に無理だよ。
僕はあの日隠れ姫だってバラされた後も度々中庭でお昼ご飯を食べていた。購買から近いし、やっぱり教室より屋外の方が気持ち良いのを知ってしまったって言うのが一番の理由かな。そうしたらクラスメイトの中にも外で食べる人が増えて、今も中庭の角にあるL字型の一番大きなベンチにみんなで並んで食べている。
良く一緒になるのは文化祭の時の女装仲間三人で、あれ以来クラス内で一番仲の良い友達って言える間柄になれたと思う。後はすっかり優しくなった井上君達や元恋人(?)の佐藤君も頻繁にここでお昼ご飯を食べている。
そこに高橋さんがちょいちょい割り込んで来ては一緒に食べていて、相変わらずクラスメイト達と攻防を繰り広げていて面白い。
「じゃあ、ハグ、最後にハグさせて!」
そろそろ戻ろうとしていたら高橋さんがそんな事を言い出して、そのくらいならいつもの事だからいいかって自分から抱き着いた。
「こ、小林君っ?! ああっ、可愛い!!」
感極まったような声を上げた高橋さんにぎゅうッと抱きしめられてちょっと苦しい。緩めて欲しくて背中をポンポンしたら少し力を抜いてくれたけど周りのクラスメイト達が騒ぎ出してしまった。
「ズルい! 小林から抱き着いてもらうなんて!」
「小林、俺も!」
「俺のところにも来てくれ!」
「駄目。渡さない。はぁ、このすっぽりと収まるのが良い…」
両手を広げた佐藤君と井上君を無視して離してくれない高橋さんの腕の中は暖かくて、屋外で冷えた身体にはありがたい。心地よくて力が抜けていく。
「うわ、可愛い。そんなんじゃもう離せなくなるよ。ハグ好き?」
「ん、暖かい…」
身体を預けて温まっていたらまたぎゅうっと苦しいくらい抱きしめてきた高橋さんが本当に小さな声で「参ったな」って呟くのが聞こえて、それと同時位に予鈴が鳴った。
それが合図になってみんな後片付けを始めて高橋さんも僕を離してくれて食べたパンの袋なんかをまとめている。
さっきまで暖かかったから急に寒くなってぶるっと身体が震えてしまった。
それからはお昼ご飯を教室で食べるようになって寒く無くなったのは良いんだけど、何だか物足りない気持ちになる時がある。
姫ポジになってから消極的な僕にクラスメイト達が話かけてくれるようになった。
まだこちらから話しかけたり話題を振ったりは中々出来ない陰キャな僕にみんな優しくて前よりかはずっと楽しい。でも、中庭のベンチでみんなや高橋さんと一緒にワイワイ食べるのは楽しかったなって思い出してつい比べてしまうんだ。
以前の僕からしたら大分贅沢な悩みだよね。
***
また姉に頼まれて予約した本を受け取るために帰り道からそれてショッピングセンターに寄り道する。今回もバイトで閉店時間に間に合わないって言う事だけど、姉はそんなにバイトばっかりしていて大学の勉強は大丈夫なんだろうか。
前回同様に代金は支払い済みの本を受け取り書店を出てセンター内をふらふらと散策しながら歩く。十二月に入ってショッピングセンター内はクリスマス一色になっていて大きなツリーも飾り付けられているし音楽も流れていて何だかキラキラしている。
よそ見しながら歩いていたのが良くなかったんだと思う。擦れ違う人にぶつかってしまい持っていた本が手から落ちて床を滑り、袋から出てしまった。透明なビニールに包まれているから汚れなかったとは思うけど、それはスーツ姿の男同士がキスしている絵が表紙に描かれたBL漫画だった。
( ぎゃぁぁ!? 姉ちゃんたらなんて物を弟に受け取り頼んでんだよ!! )
内心では絶叫しながら慌てて拾って袋に仕舞い、ぶつかってしまった人に謝ってとにかくその場から逃げた。お店とお店の間の奥に関係者以外使えない扉のある通路から少しそれたところを見つけてそこに入った。壁に背を預けて息を整える。心臓がどきどきして顔も熱い。もおおぉ、恥ずかしかったぁ。
周りに人がいないか確認してから落としてしまった本を袋から出して状態を確認してみた。取り落した瞬間とっさに膝を曲げたから床を横滑りしてたし、本の角が床に激突して潰れたりはしていないようだ。良かった、これなら姉に怒られずに済みそうだ。
本を袋に戻して今度はちゃんと鞄に仕舞った。次回からは受け取ったらすぐに鞄に入れてしまおう。もうあんな恥ずかしい思いはしたくない。
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