上 下
12 / 48

【ストレの憂鬱―其の二】

しおりを挟む
『子作りはもう少し先にするわ。具体的には彼の国の戦争の後処理が一段落して、勇者が自由に動けるようになってからね。あ、でも、式は早いうちに終わらせましょう。面倒だから』

ーー私は相も変わらず姫様の手足として奔走しています。

 と申しましても、実際に動くのは私の手足である部下達ですが。
 私の役割は頭として手足を動かし姫様のまつりごとを十全に執り行う事。

 目下の最優先事項は、長年恐怖政治で国を支配していたブラムストカ帝国が倒れた事に関する諸々。
 ブラムストカ帝国を打ち倒したのは勇者を有する宗教国家、聖カテリーナ教国。
 そして現状確定している過程は二点。
 勇者と、帝国を裏切った皇女が結託し皇帝を弑逆したということ。
 故皇帝が率いていた軍を解散させ、教国に取り込むことに成功したこと。
 ただし、瓦解した帝国の内政や帝国民の生活基盤など、まだ多くの問題が山積しているという状況だ。
 我が国からは、教国への物資的支援と医療技術、さらに医療術師等の人材的支援が決定しており、それらがそのまま帝国側に送られ傾いた帝国の内情を立て直す助力に充てる手筈になっている。
 計画上は、帝国民の生活安定化に一年。暫定政府の設置に一月程度。国家体制の確立に二年の時間が掛かる予定だ。
 姫様ならもっと短い時間で完遂させてしまうことだろうが、この件に関しては全てを姫様の一存で決定する訳にはいかない。
 協力国という形で大きな発言力を有してはいるものの、当事国は教国なのだから最終決定権は教国に在ると言えるだろう。
 まあ、恐らくは姫様のことだからグイグイ教国のやり方に口を挟んでいくのだろうが、今はまだ帝国が倒れて間もない。
 全てはこれからなのだ。

「こんな大事業と同時進行で市井の民からの頼み事も変わらず拾っておいでになるのだから、頭が下がると言うか頭が痛いと言うか……。実に姫様らしい。出来ればもう少し節度と言うか自重して頂きたいところではあるが」
 とは言うものの、そんな姫様だからこそ我々仕える者の尊敬と忠誠を一身に集める事が出来るのだから、思っても口にする者はいない。

 そして今日も扉が叩き開けられる。
「ストレ! 私ちょっと息抜きに城下の屋台で串焼き肉を食べてくるわ! 貴方も行くわよ! さあ! 早く準備なさい!」

 はぁ……。それはとても素敵なお夜食で御座いますね。
 ですが、今は深夜ですよ?

(To be continued)
しおりを挟む

処理中です...