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【看板娘ミクの帳簿録―五頁目】
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「ですので、私がこうして五体満足で一人旅をしていられるのは、その旅人さんがくれたこのアミュレットのお陰なんですよ」
そう言って彼女ーーミクさんは、首に下げた長いチェーンをちゃらりと鳴らした。
鎖状に小さな輪が連なったチェーンの先には、真っ黒な十字の石がぶら下がっている。
「その石は魔除けの宝石か何かですか? 魔獣を退けるお守りなんて、とても高価な物なんでしょうね」
少し。少しだけ僕は羨ましく思う。
もしもそのお守りを僕の家族が、両親のどちらかが身に付けていたなら、と。
そんな無意味なもしもを考えてしまう。
「えぇ、きっと高価な物だと思います。正直、あまり私には価値が分からないんですけど、きっと高い物なんだと思います。……この十字のお守り、実は石じゃなくて、木なんですよ。うんと昔に生えていた木なんだそうです。それが長い時間をかけて、本物の石のように硬くなったそうです。長い時間、永い年月の中で不思議な力を持つようになったんですって。本当に不思議ですよね」
世界には不思議なことがたくさんある。
僕が知らないことが無限に存在している。
小さな小さなこの村で、ただ生きて、生き長らえてきた僕では知り得ない不思議が無限に在る。
彼女のように、一人で生きて、未知と日々出会い、色んな経験をしている人がこうして存在する。
だというのに、僕はこんな小さな村で一体何をしてるんだろう。
両親を失ってからのこの数年間、一体何を得たのだろう。
何かを得ることが出来ただろうか。
「あの……どうかされましたか?」
ハッとする。
気付くと、ミクさんが心配そうに僕の顔を下から覗いていた。
「あ、いえ、その……」
彼女に返す言葉が思い付かない。
色んな話をミクさんから聞いたけれど、僕はいつもただ聞くだけで、何も彼女に返せていない。
話のお礼に何かお返しをしたいと思っているのだけれど、初めから何も持たない僕ではただお礼の言葉を口にすることしか出来ないのだ。
「あの、色々と話してくださってありがとうございます。ミクさんの得になることとか……少しもないのに」
「そうですねぇ……」
小さく呟きながら彼女は、ふむ、と人差し指を唇に当て何か思案するような素振りを見せる。
「私には、貴方との出会いが一つの『得』みたいなものですから。少しもないなんてことはありませんよ?」
僕の目を見て話す彼女の言葉は、お世辞ではないようだった。
僕なんかとの出会いがどんな得になるのかと言及したくはあったけれど、それは気を遣ってくれているミクさんに対してあまりにも失礼な気がして、僕はいつも通りの言葉を返すことしかできなかった。
「……はい。ありがとうございます」
『ミルテくんと出会って数日が経ちました。彼は毎日お昼時になると私が泊まる宿を訪れます。私のお話に強い興味を持っているみたい。それはまるで憧れのよう。冒険に焦がれているのかな? それとも、お姉さんと同じ復讐心なのかな。そろそろお姉さんのカレンちゃんと、これからのお話をしたいな』
(次頁へ続く)
そう言って彼女ーーミクさんは、首に下げた長いチェーンをちゃらりと鳴らした。
鎖状に小さな輪が連なったチェーンの先には、真っ黒な十字の石がぶら下がっている。
「その石は魔除けの宝石か何かですか? 魔獣を退けるお守りなんて、とても高価な物なんでしょうね」
少し。少しだけ僕は羨ましく思う。
もしもそのお守りを僕の家族が、両親のどちらかが身に付けていたなら、と。
そんな無意味なもしもを考えてしまう。
「えぇ、きっと高価な物だと思います。正直、あまり私には価値が分からないんですけど、きっと高い物なんだと思います。……この十字のお守り、実は石じゃなくて、木なんですよ。うんと昔に生えていた木なんだそうです。それが長い時間をかけて、本物の石のように硬くなったそうです。長い時間、永い年月の中で不思議な力を持つようになったんですって。本当に不思議ですよね」
世界には不思議なことがたくさんある。
僕が知らないことが無限に存在している。
小さな小さなこの村で、ただ生きて、生き長らえてきた僕では知り得ない不思議が無限に在る。
彼女のように、一人で生きて、未知と日々出会い、色んな経験をしている人がこうして存在する。
だというのに、僕はこんな小さな村で一体何をしてるんだろう。
両親を失ってからのこの数年間、一体何を得たのだろう。
何かを得ることが出来ただろうか。
「あの……どうかされましたか?」
ハッとする。
気付くと、ミクさんが心配そうに僕の顔を下から覗いていた。
「あ、いえ、その……」
彼女に返す言葉が思い付かない。
色んな話をミクさんから聞いたけれど、僕はいつもただ聞くだけで、何も彼女に返せていない。
話のお礼に何かお返しをしたいと思っているのだけれど、初めから何も持たない僕ではただお礼の言葉を口にすることしか出来ないのだ。
「あの、色々と話してくださってありがとうございます。ミクさんの得になることとか……少しもないのに」
「そうですねぇ……」
小さく呟きながら彼女は、ふむ、と人差し指を唇に当て何か思案するような素振りを見せる。
「私には、貴方との出会いが一つの『得』みたいなものですから。少しもないなんてことはありませんよ?」
僕の目を見て話す彼女の言葉は、お世辞ではないようだった。
僕なんかとの出会いがどんな得になるのかと言及したくはあったけれど、それは気を遣ってくれているミクさんに対してあまりにも失礼な気がして、僕はいつも通りの言葉を返すことしかできなかった。
「……はい。ありがとうございます」
『ミルテくんと出会って数日が経ちました。彼は毎日お昼時になると私が泊まる宿を訪れます。私のお話に強い興味を持っているみたい。それはまるで憧れのよう。冒険に焦がれているのかな? それとも、お姉さんと同じ復讐心なのかな。そろそろお姉さんのカレンちゃんと、これからのお話をしたいな』
(次頁へ続く)
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