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処女編
プロローグ 転校初日
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サワッ、ペタァ。
「っ!」
ガタン、タタン。ガタン、タタン。
――揺れる満員電車の最後尾車両の扉前、高校の制服姿の私は、こぼれそうな喘ぎ声を、何とか口に押し留める。
扉の硝子に映る自分を、前髪の間から覗く。黒のポニーテールに、細い鼻筋や眉に、クリクリとした丸い瞳と、赤く細い唇が結び、女子高生が必死に耐える表情が浮かぶ。
ガタンカタン、タタン。
一年生の五月という中途半端な時期に、転校先の夢原高校への登校中のことだった。鞄を握りしめる私は初日より、背後の男性からの痴漢行為に、遭ってしまっていた。
「ハァ、フゥ」
ま、まるで私のうなじに、わざと臭う息を当てるみたいに吐かれる。恐る恐る振り向くと、五十歳くらいの、少し長身な会社員風の男性が視界に入って、慌てて前を向き直る。
最初こそ何かの偶然かと思っていたけど、スカートの上から、何度も何度も私の腰やお尻に手を押し当ててきて、気付いた時にはもう手遅れだった。今みたく、味わうように臀部の柔らかい部分に手のひらを当ててきて、ひたすら――。
スッ、サワ、モニ。
「ひぅ」
ゾワゾワ、っと冷たいシビレが、背筋を走り抜けて、目を強くつむる。お尻を穢されるみたいな感覚に、普通の女の子なら泣いて耐えるか、勇気を振り絞って声を上げるかの、どっちかのはず。
――でも、でも私は、そのどちらでも無かった。もちろん、気色悪さや恐怖感というのも無くはなかったけど、それ以上に、ドキドキしてしまっていたから。
どうして、一見すれば普通の女子高生な私が、痴漢行為なんて酷い目にことをされて、胸を高鳴らせているのかというと……。
小中学校と、勉強もスポーツも普通かそれ未満で、ブサメンだった私は そのナヨった性格も相まって、ずっとカースト下位の男子だった。そんなダメダメな私には、さらに誰にも言えない性癖があった。
被虐的嗜好。それも他人から酷い目や辛いことをされると、まるで自分の中の罪が軽くなったと錯覚してしまう、贖罪型(※罪を償なえていると思い込む)だった。もちろん、犯罪歴なんてないけど、生きているだけで罪を感じてしまう、性向もあった。
そうやって掘り返すと、九歳くらいの頃から、存在しない鉛みたいな鈍重な膜に、心を覆われる感覚に取り憑かれていった。そして、小学校高学年くらいのある時、運動会の練習か何かの際に失敗して、同級生から罵倒された時だった。その心を覆う重苦しい何かが小さく欠けて、心がいやらしく満たされたのに気づいてしまった。今思うとあの瞬間が、始まりだったのかもしれない。
中学生になって以降も、先生に叱られたり、同級生になじられたりすると――その――軽いドライオーガズムを感じることが何度もあった。まるで、暗く濁った心の性感帯が、苦痛を快感と取り違えるみたいな。
そして何より、そんな歪んだ性癖、あるいは個性を持つのに、女体化という突然の奇病を患ってしまった。いよいよ、私の心の中で留めることができず、皮膚の外側にすら、にじみ出てきてしまうことに――。
「んっ!」
だ、だんだん声を抑えられなくなってきちゃう。痴漢の人が手慣れているのか、手の平で私の小さなお尻を堪能されちゃう。
っていうか女の子の甲高い声って、虐げられている感がすごくあって、しかもそれを私が出したなんて思うと、ますますドキドキしちゃって――。
ファサ。
「!」
ど、どんどん痴漢行為がエスカレートしていき、とうとうスカートの中に、腕を入れられちゃった。割とゴツゴツした指先で、まるで舐めるみたいに、私の細い右太ももの辺りを、ツゥーっと撫でられる。
く、くすぐったさと、その卑劣な行為に、ますますマゾな心が刺激されて、頬を赤く染めていく。男だったころの癖で、マゾな自分を隠さなきゃと、小さな肩をますます小さくしてしまう。
――そ、それにしても、どうして私なんかを狙ったんだろう? 他にも女の人は乗っているのに。大人しそうな雰囲気だから? それともムッツリ系の気弱な女子とでも思われちゃった?
「(あぁ、てかダメだって。ヒドい目に遭っているなんて考えちゃうと、余計に)――ぅ、ん」
無抵抗な私にますます気を良くしてか、鞄を利用して、痴漢する方の手を隠しつつ、今度は左の太ももに触れてくる。まるで私の体温や肌感をすすり味わうみたく、押し撫でられて、擦られ、ちゃう。
【右側の扉が開きます。ご注意ください】
こっちは左側だから関係ないし、目的の駅はまだもう少し先だった。人の出入りもそれほど起こらない中、さらに。
プニ、モニュニュ。
「ひくっ」
安物のグレーの下着の上から、まるで果物を掴むみたく左側のお尻を、握り揉まれちゃう。そして、手が開いたかと思うと、蜘蛛の脚先みたく指先が生地に吸い付いて――んんっ――力を込められ、ってぇ。すごく、いやらしい触り方をされ続けちゃう。
やばっ。見知らぬ中年男性に、人前でパンツごとお尻を揉まれるとか、悲惨すぎてドキマギしちゃう。
「ハァ、フゥ」
痴漢行為で泣き寝入りする女の子の話はネット記事とかで見かけたけど、まさか自分が女体化して味わうことになるなん、てぇ――。
ガタン。
「ぅわっ」
イレギュラーな揺れのせいで、身体が大きく揺れる――後ろ側へ、痴漢の方へと倒れかけちゃう。
「!」
グニニッ。
「ぃぅ!」
ち、痴漢の体幹はビクともせず、むしろ前半身と身体の一部こと――こ、股間の部分で、私の腰椎の辺りを、受け止められちゃう。
グリリ、スリリ。
ず、ズボン越しでもわかるくらい硬くなってるのって、アレだよね? ううっ。おまけに擦り付けてくる感じが、性的な攻撃に思えて、悦びで胸が高鳴っちゃうよ。
「っ。ぅ、ん」
あっ。ゆ、指がパンティとお尻の間に入り込んで来ては、引っ掻くみたいになぞられて――ピクン――身体の芯、が震えちゃう。くすぐったさと合わせて、お腹の下あたりが変にジンジンして、少しずつ脱力してきちゃう。
お、女の子初心者の私は、男子と女子で、肌の敏感さが全然違うことを、この見ず知らずの痴漢に教わっちゃう。というかそもそも、知らないことだらけなのに、いきなり、こんなぁ――。
ツゥー、カリ。
「ひゅ!」
生のお尻の谷間を指でなぞられた時、鳥肌が立つ一方で、温かくジーンした感覚が股の内側で小さく弾ける。鼻から口へかけて、切ない声がこぼれ出ちゃう。
「ハァ、ハァ、フゥ」
身体の体勢を戻せず、もう痴漢に支えられているくらいに心がふやけていた。痴漢の口が、私のポニーテールのお団子の部分に付きそうなくらいに、密着されちゃう。そんな不純で粘つく痴漢の性欲を、発展途上な私のお尻で受け止め続ける。
発生し続ける恐怖が、不幸が、嫌悪感が、ひたすら私の気色悪いマゾな心(となぜか下腹部)を暗く熱く満たしてイッタ。胸の奥の鉛みたいな重みを、いやらしく剥がされる感覚は、男だった時には考えられない不気味な快感だった。
そしてとうとう、ヒクつく肛門を中指で軽く押し込まれて、鳥肌が最高潮に立っした時だった。
【左側の扉が開きます。ご注意ください】
わわっ。目的地の駅に着くと、波のように人が出入りし始める。痴漢も慌てて腕をスカートから引き抜いた後、無関係を自演するためか、私の背中を軽く押してくる。
けど、痴漢された余韻で、生まれたての子鹿みたいに脚を震わせる私は、他の降りる人に巻き込まれて、何とか下車するので精一杯だった。羞恥と鳥肌の立つ感じと、マゾの疼きで耳まで赤くしながら、肩で息をする私が、ふと振り返る。
閉まる電車の扉向こう、黒縁の眼鏡を掛けた一見真面目風な白髪交じりの男性が、私に見せつけるみたく、その指先を嗅いで舐めていた。
ゾワゾワッ。
――普通の女子生徒なら、吐きそうなくらいの気色悪い合図のはず。けれども私は、男だった時には全く考えられない、性的な電気的信号を、受信した瞬間となってしまった。
* * *
女体変成化症候群。そう呼ばれるこの病気は空気を媒体とする伝染病であり、ある時を境に瞬く間に世界中へ蔓延した。
そもそもの始まりは、二千二十一年の六月、アメリカのノースダコタ州のさらに片田舎にて、畜産業に従事する男性従業員の感染と発症だった。そこは養豚場で、国の基準を大きく下回る衛生環境下であり、一説によるとそれらの不衛生さが苗床となり、糞尿にたかる害虫がキャリーした菌が、突然変異したとも言われている。
その最初の感染者は、仕事関係者、家族、知人らを通じて感染を拡大してしまい、男性の女体化が確認された時には隔離も手遅れだった。性別が変わるという、並外れた奇病であるにも関わらず、アメリカ公衆衛生局をはじめWHO(※世界保健機関)の対策が後手に回ったのには、理由があった。
感染率は極めて高いが、発症率が極端に低い。つまり感染しても女体化自体はほぼほぼ起きないことが明るみに出ていった。実際の発症率は天文学的な低さで、十億人に一人いるかいないかと、ドイツの権威的な医学雑誌で発表された。そのため、初期の隔離および封鎖こそ失敗し、感染は世界的に拡がったが、発症が起こらないため、想定したほどの混乱や脅威は全く生じなかった。
発見から三年以上経った現在でも、実際に女体化した患者は、世界で千人に満たないという統計結果であった。当初こそ、世界中の国営報道機関から週刊誌レベルで話題になったが、そのような超少数派の患者への配慮やケアなどはほぼ実施されなかった。なぜなら、その後に連続して起こる国単位での経済的難題や社会的問題、国際的な課題や自然災害を前に、簡単に押し潰されていったから――。
* * *
「ハァ、フウ――あれ? なんで、パンツのクロッチ部分が濡れているんだろ?」
痴漢に遭ったそのすぐ後だった。股間に違和感を覚えて、臭う駅のトイレの、しかも未だに馴れない女子トイレの個室へと駆け込んだ。
「ま、まさか怖くて失禁したとか?」
そうだとしたら、元男として情けなさも覚えたりもする中、とりあえず調べる。ほんの一部だけど、色変わりしたグレーのパンツへ、嫌々ながらも指先を伸ばす。
「(でも尿にしては量が少ないし)なんか、粘り気が、ない?」
クロッチ部分を指先で拭って、指で練り伸ばすと、ちょっと糸を引いた。鼻を近づけて嗅ごうとするけど、トイレからの押し寄せるみたいなアンモニア臭のせいで、よくわからなかった。
「まぁ、病気とかじゃなさそうだし――っとと、これ以上は本当に学校へ遅れちゃう。初日から遅刻はさすがに」
仕方なく我慢してパンツを穿き直し、トイレを出て改札を通過し、学校へ駆ける。走る間も、男では考えられないこんな体験が連続するつど、ついつい思い出しちゃう。
……何度、何回回想してもし足りない、女体化を発症したあの日々を。
「――もう三ヶ月前かぁ。はじまりは、中学三年の卒業式の朝だったなぁ」
自室で迎えた早朝、かつて感じたことのない異様な倦怠感を覚えたのが最初だった。両親同伴の元、大病院をたらい回しにされる中、病名が判明した時にはもう手遅れだった。
そもそも特効薬なんて無く、日が経つにつれてどんどん進行する肉体の変化に、ただただ耐えるしかなかった。Mな私ですら、胸が膨らんだり、臓器が出来たりあるいはなくなったり、また骨格が変形するあの痛みは、得体が知れなさすぎて耐えがたかった。まるで身体の中に手を突っ込まれて、ドロ人形をこねくり回すみたいにされるみたいで。
発症して約一週間後、とうとう生理が確認されて、ついに生物学的に完全に女の身体になってしまった。そして今度は社会的な手続きとかで、家中が大パニックになった。診断書を持って役所へ行き、戸籍の性別変更を申請するも、前例が無いと一悶着。それが片付いたら、今度は進学予定だった高校から、他生徒への感染を危惧して、入学を断られたり、もうひっちゃかめっちゃかだった。
ようやく見つけた受け入れ先であるこの夢原高校も、家からかなり遠く、安アパートへ引越ての一人暮らしという、苦労の先にあった。
「ほんと。ほとんどが間違いなく大変な日々の連続だった、けど――」
新緑の木漏れ日を作る楡の並木を歩いていると、喫茶店の窓ガラスに自分の全身が映る。艶やかな髪にそこそこな胸と長い脚。顔に関してだって、一昔前のアイドルグループの一番端に立つメンバーくらいには可愛い? ように見えなくも無かった。
男だった時はブサメンな上、低い声質や濃い体毛など、容姿全般に関わりがちなコンプレックスが、軒並み払拭されたのは割と嬉しかった。それに、今日みたいな、男だったら味わえない――その――マゾ的なことに遭えるかも……。
「おっ、あの子カワイイ」
髪をなびかせて歩道を走っていると、すれ違った別の学校の男子高校生達が振り返る。
「ってかアレ、夢原高校の制服か? 女子とか珍しくね?」
その最後の言葉だけは、少し耳に残った。
そもそもこの辺りは旧市街地で、あまり治安も良くないらしい。おまけに夢原高校の校舎も古く汚いらしく、女子生徒のほとんどが就学を避けるらしい。つまり男子生徒がほとんどで、さらに問題児が多いということも、後から知った。
とは言え、急な女体化による転校を受け入れてくる高校は、ここくらいしか見つからず、そもそも私に、選択肢なんてはじめから無かった。
「あ、あれが――」
角にある万代塀を曲がると、夢原高校が見えてくる。戦後のベビーブームに合わせて急遽建てられた学校は、令和の今となっては年老いて力無い、老人みたいに思えた。
……そして、その時の私には考えもし無かった。数ケ月後の自分が、一年後の自分が、どんな身体の状態に、されちゃってるかなんて。
「っ!」
ガタン、タタン。ガタン、タタン。
――揺れる満員電車の最後尾車両の扉前、高校の制服姿の私は、こぼれそうな喘ぎ声を、何とか口に押し留める。
扉の硝子に映る自分を、前髪の間から覗く。黒のポニーテールに、細い鼻筋や眉に、クリクリとした丸い瞳と、赤く細い唇が結び、女子高生が必死に耐える表情が浮かぶ。
ガタンカタン、タタン。
一年生の五月という中途半端な時期に、転校先の夢原高校への登校中のことだった。鞄を握りしめる私は初日より、背後の男性からの痴漢行為に、遭ってしまっていた。
「ハァ、フゥ」
ま、まるで私のうなじに、わざと臭う息を当てるみたいに吐かれる。恐る恐る振り向くと、五十歳くらいの、少し長身な会社員風の男性が視界に入って、慌てて前を向き直る。
最初こそ何かの偶然かと思っていたけど、スカートの上から、何度も何度も私の腰やお尻に手を押し当ててきて、気付いた時にはもう手遅れだった。今みたく、味わうように臀部の柔らかい部分に手のひらを当ててきて、ひたすら――。
スッ、サワ、モニ。
「ひぅ」
ゾワゾワ、っと冷たいシビレが、背筋を走り抜けて、目を強くつむる。お尻を穢されるみたいな感覚に、普通の女の子なら泣いて耐えるか、勇気を振り絞って声を上げるかの、どっちかのはず。
――でも、でも私は、そのどちらでも無かった。もちろん、気色悪さや恐怖感というのも無くはなかったけど、それ以上に、ドキドキしてしまっていたから。
どうして、一見すれば普通の女子高生な私が、痴漢行為なんて酷い目にことをされて、胸を高鳴らせているのかというと……。
小中学校と、勉強もスポーツも普通かそれ未満で、ブサメンだった私は そのナヨった性格も相まって、ずっとカースト下位の男子だった。そんなダメダメな私には、さらに誰にも言えない性癖があった。
被虐的嗜好。それも他人から酷い目や辛いことをされると、まるで自分の中の罪が軽くなったと錯覚してしまう、贖罪型(※罪を償なえていると思い込む)だった。もちろん、犯罪歴なんてないけど、生きているだけで罪を感じてしまう、性向もあった。
そうやって掘り返すと、九歳くらいの頃から、存在しない鉛みたいな鈍重な膜に、心を覆われる感覚に取り憑かれていった。そして、小学校高学年くらいのある時、運動会の練習か何かの際に失敗して、同級生から罵倒された時だった。その心を覆う重苦しい何かが小さく欠けて、心がいやらしく満たされたのに気づいてしまった。今思うとあの瞬間が、始まりだったのかもしれない。
中学生になって以降も、先生に叱られたり、同級生になじられたりすると――その――軽いドライオーガズムを感じることが何度もあった。まるで、暗く濁った心の性感帯が、苦痛を快感と取り違えるみたいな。
そして何より、そんな歪んだ性癖、あるいは個性を持つのに、女体化という突然の奇病を患ってしまった。いよいよ、私の心の中で留めることができず、皮膚の外側にすら、にじみ出てきてしまうことに――。
「んっ!」
だ、だんだん声を抑えられなくなってきちゃう。痴漢の人が手慣れているのか、手の平で私の小さなお尻を堪能されちゃう。
っていうか女の子の甲高い声って、虐げられている感がすごくあって、しかもそれを私が出したなんて思うと、ますますドキドキしちゃって――。
ファサ。
「!」
ど、どんどん痴漢行為がエスカレートしていき、とうとうスカートの中に、腕を入れられちゃった。割とゴツゴツした指先で、まるで舐めるみたいに、私の細い右太ももの辺りを、ツゥーっと撫でられる。
く、くすぐったさと、その卑劣な行為に、ますますマゾな心が刺激されて、頬を赤く染めていく。男だったころの癖で、マゾな自分を隠さなきゃと、小さな肩をますます小さくしてしまう。
――そ、それにしても、どうして私なんかを狙ったんだろう? 他にも女の人は乗っているのに。大人しそうな雰囲気だから? それともムッツリ系の気弱な女子とでも思われちゃった?
「(あぁ、てかダメだって。ヒドい目に遭っているなんて考えちゃうと、余計に)――ぅ、ん」
無抵抗な私にますます気を良くしてか、鞄を利用して、痴漢する方の手を隠しつつ、今度は左の太ももに触れてくる。まるで私の体温や肌感をすすり味わうみたく、押し撫でられて、擦られ、ちゃう。
【右側の扉が開きます。ご注意ください】
こっちは左側だから関係ないし、目的の駅はまだもう少し先だった。人の出入りもそれほど起こらない中、さらに。
プニ、モニュニュ。
「ひくっ」
安物のグレーの下着の上から、まるで果物を掴むみたく左側のお尻を、握り揉まれちゃう。そして、手が開いたかと思うと、蜘蛛の脚先みたく指先が生地に吸い付いて――んんっ――力を込められ、ってぇ。すごく、いやらしい触り方をされ続けちゃう。
やばっ。見知らぬ中年男性に、人前でパンツごとお尻を揉まれるとか、悲惨すぎてドキマギしちゃう。
「ハァ、フゥ」
痴漢行為で泣き寝入りする女の子の話はネット記事とかで見かけたけど、まさか自分が女体化して味わうことになるなん、てぇ――。
ガタン。
「ぅわっ」
イレギュラーな揺れのせいで、身体が大きく揺れる――後ろ側へ、痴漢の方へと倒れかけちゃう。
「!」
グニニッ。
「ぃぅ!」
ち、痴漢の体幹はビクともせず、むしろ前半身と身体の一部こと――こ、股間の部分で、私の腰椎の辺りを、受け止められちゃう。
グリリ、スリリ。
ず、ズボン越しでもわかるくらい硬くなってるのって、アレだよね? ううっ。おまけに擦り付けてくる感じが、性的な攻撃に思えて、悦びで胸が高鳴っちゃうよ。
「っ。ぅ、ん」
あっ。ゆ、指がパンティとお尻の間に入り込んで来ては、引っ掻くみたいになぞられて――ピクン――身体の芯、が震えちゃう。くすぐったさと合わせて、お腹の下あたりが変にジンジンして、少しずつ脱力してきちゃう。
お、女の子初心者の私は、男子と女子で、肌の敏感さが全然違うことを、この見ず知らずの痴漢に教わっちゃう。というかそもそも、知らないことだらけなのに、いきなり、こんなぁ――。
ツゥー、カリ。
「ひゅ!」
生のお尻の谷間を指でなぞられた時、鳥肌が立つ一方で、温かくジーンした感覚が股の内側で小さく弾ける。鼻から口へかけて、切ない声がこぼれ出ちゃう。
「ハァ、ハァ、フゥ」
身体の体勢を戻せず、もう痴漢に支えられているくらいに心がふやけていた。痴漢の口が、私のポニーテールのお団子の部分に付きそうなくらいに、密着されちゃう。そんな不純で粘つく痴漢の性欲を、発展途上な私のお尻で受け止め続ける。
発生し続ける恐怖が、不幸が、嫌悪感が、ひたすら私の気色悪いマゾな心(となぜか下腹部)を暗く熱く満たしてイッタ。胸の奥の鉛みたいな重みを、いやらしく剥がされる感覚は、男だった時には考えられない不気味な快感だった。
そしてとうとう、ヒクつく肛門を中指で軽く押し込まれて、鳥肌が最高潮に立っした時だった。
【左側の扉が開きます。ご注意ください】
わわっ。目的地の駅に着くと、波のように人が出入りし始める。痴漢も慌てて腕をスカートから引き抜いた後、無関係を自演するためか、私の背中を軽く押してくる。
けど、痴漢された余韻で、生まれたての子鹿みたいに脚を震わせる私は、他の降りる人に巻き込まれて、何とか下車するので精一杯だった。羞恥と鳥肌の立つ感じと、マゾの疼きで耳まで赤くしながら、肩で息をする私が、ふと振り返る。
閉まる電車の扉向こう、黒縁の眼鏡を掛けた一見真面目風な白髪交じりの男性が、私に見せつけるみたく、その指先を嗅いで舐めていた。
ゾワゾワッ。
――普通の女子生徒なら、吐きそうなくらいの気色悪い合図のはず。けれども私は、男だった時には全く考えられない、性的な電気的信号を、受信した瞬間となってしまった。
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女体変成化症候群。そう呼ばれるこの病気は空気を媒体とする伝染病であり、ある時を境に瞬く間に世界中へ蔓延した。
そもそもの始まりは、二千二十一年の六月、アメリカのノースダコタ州のさらに片田舎にて、畜産業に従事する男性従業員の感染と発症だった。そこは養豚場で、国の基準を大きく下回る衛生環境下であり、一説によるとそれらの不衛生さが苗床となり、糞尿にたかる害虫がキャリーした菌が、突然変異したとも言われている。
その最初の感染者は、仕事関係者、家族、知人らを通じて感染を拡大してしまい、男性の女体化が確認された時には隔離も手遅れだった。性別が変わるという、並外れた奇病であるにも関わらず、アメリカ公衆衛生局をはじめWHO(※世界保健機関)の対策が後手に回ったのには、理由があった。
感染率は極めて高いが、発症率が極端に低い。つまり感染しても女体化自体はほぼほぼ起きないことが明るみに出ていった。実際の発症率は天文学的な低さで、十億人に一人いるかいないかと、ドイツの権威的な医学雑誌で発表された。そのため、初期の隔離および封鎖こそ失敗し、感染は世界的に拡がったが、発症が起こらないため、想定したほどの混乱や脅威は全く生じなかった。
発見から三年以上経った現在でも、実際に女体化した患者は、世界で千人に満たないという統計結果であった。当初こそ、世界中の国営報道機関から週刊誌レベルで話題になったが、そのような超少数派の患者への配慮やケアなどはほぼ実施されなかった。なぜなら、その後に連続して起こる国単位での経済的難題や社会的問題、国際的な課題や自然災害を前に、簡単に押し潰されていったから――。
* * *
「ハァ、フウ――あれ? なんで、パンツのクロッチ部分が濡れているんだろ?」
痴漢に遭ったそのすぐ後だった。股間に違和感を覚えて、臭う駅のトイレの、しかも未だに馴れない女子トイレの個室へと駆け込んだ。
「ま、まさか怖くて失禁したとか?」
そうだとしたら、元男として情けなさも覚えたりもする中、とりあえず調べる。ほんの一部だけど、色変わりしたグレーのパンツへ、嫌々ながらも指先を伸ばす。
「(でも尿にしては量が少ないし)なんか、粘り気が、ない?」
クロッチ部分を指先で拭って、指で練り伸ばすと、ちょっと糸を引いた。鼻を近づけて嗅ごうとするけど、トイレからの押し寄せるみたいなアンモニア臭のせいで、よくわからなかった。
「まぁ、病気とかじゃなさそうだし――っとと、これ以上は本当に学校へ遅れちゃう。初日から遅刻はさすがに」
仕方なく我慢してパンツを穿き直し、トイレを出て改札を通過し、学校へ駆ける。走る間も、男では考えられないこんな体験が連続するつど、ついつい思い出しちゃう。
……何度、何回回想してもし足りない、女体化を発症したあの日々を。
「――もう三ヶ月前かぁ。はじまりは、中学三年の卒業式の朝だったなぁ」
自室で迎えた早朝、かつて感じたことのない異様な倦怠感を覚えたのが最初だった。両親同伴の元、大病院をたらい回しにされる中、病名が判明した時にはもう手遅れだった。
そもそも特効薬なんて無く、日が経つにつれてどんどん進行する肉体の変化に、ただただ耐えるしかなかった。Mな私ですら、胸が膨らんだり、臓器が出来たりあるいはなくなったり、また骨格が変形するあの痛みは、得体が知れなさすぎて耐えがたかった。まるで身体の中に手を突っ込まれて、ドロ人形をこねくり回すみたいにされるみたいで。
発症して約一週間後、とうとう生理が確認されて、ついに生物学的に完全に女の身体になってしまった。そして今度は社会的な手続きとかで、家中が大パニックになった。診断書を持って役所へ行き、戸籍の性別変更を申請するも、前例が無いと一悶着。それが片付いたら、今度は進学予定だった高校から、他生徒への感染を危惧して、入学を断られたり、もうひっちゃかめっちゃかだった。
ようやく見つけた受け入れ先であるこの夢原高校も、家からかなり遠く、安アパートへ引越ての一人暮らしという、苦労の先にあった。
「ほんと。ほとんどが間違いなく大変な日々の連続だった、けど――」
新緑の木漏れ日を作る楡の並木を歩いていると、喫茶店の窓ガラスに自分の全身が映る。艶やかな髪にそこそこな胸と長い脚。顔に関してだって、一昔前のアイドルグループの一番端に立つメンバーくらいには可愛い? ように見えなくも無かった。
男だった時はブサメンな上、低い声質や濃い体毛など、容姿全般に関わりがちなコンプレックスが、軒並み払拭されたのは割と嬉しかった。それに、今日みたいな、男だったら味わえない――その――マゾ的なことに遭えるかも……。
「おっ、あの子カワイイ」
髪をなびかせて歩道を走っていると、すれ違った別の学校の男子高校生達が振り返る。
「ってかアレ、夢原高校の制服か? 女子とか珍しくね?」
その最後の言葉だけは、少し耳に残った。
そもそもこの辺りは旧市街地で、あまり治安も良くないらしい。おまけに夢原高校の校舎も古く汚いらしく、女子生徒のほとんどが就学を避けるらしい。つまり男子生徒がほとんどで、さらに問題児が多いということも、後から知った。
とは言え、急な女体化による転校を受け入れてくる高校は、ここくらいしか見つからず、そもそも私に、選択肢なんてはじめから無かった。
「あ、あれが――」
角にある万代塀を曲がると、夢原高校が見えてくる。戦後のベビーブームに合わせて急遽建てられた学校は、令和の今となっては年老いて力無い、老人みたいに思えた。
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