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一本目 お義姉さんは美獣(前半)☆☆☆
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「ちょっと幸雄、聞いてるぅ?」
梅雨の生ぬるい夜風が網戸から入り込む午後八時過ぎだった。賃貸住宅のリビングキッチンの食卓にて隣の席から、ふーっ、っと息を吹きかけられる。
僕は、夕食中にも変わらず、目を見開く。
「え、えぇ。もちろん聞いてますよ? お義姉さん」
そう口にする僕は莵道幸雄。今年で二十八歳になる会社勤めのプログラマーで、結婚しているけど、子供はまだいなかった。
そんな僕の隣に座るのは、妻ではなく――。
「ほんとぉ? じゃあ、ビール注いで」
ショートカットの金髪が揺れる。キレのある目と高い鼻は、濃いメイクに覆われていて、肌は健康的で張りがあった。
柱谷恵里菜さん。妻である要の姉にあたり、僕の二つ上だった。顔は綺麗系でスタイルも良く、肉体的、また精神的にも若かった。看護師の仕事をしているけど、とかく遊び好きで、飲むのはさらに好きなのは、見ての通りだった。
「ゴク。あ~、何杯飲んでもうまぁ」
グラスから離れた唇はふっくらと濡れて、赤い口紅に彩られていた。服装の方も、ボディライン丸わかりのピチピチの白シャツに、下半身は超短いホットパンツで、露出タップリだった。
遊び足りないと言わんばかりの格好のまま、柔らかそうな胸の谷間の前に持つグラスへ、本日七杯目のビールを注ぐ。
「……お、お姉ちゃん。の、飲み過ぎだよ」
僕の対面に座る妻の要ことカナちゃんが、遠慮深くそう口にする。彼女は僕の一つ下で、大学の後輩だった頃からの付き合いだった。
黒髪に眼鏡で、化粧や衣服もおとなしく、体形も標準的でお義姉さんとは異なっていた。
「は? 気持ちよく飲んでるアタシに意見するなんて、カナも偉くなったわねぇ?」
ギロリ、っと据わった瞳が、まるで蛇みたくカナちゃんへ絡み刺さる。
……何でも、小学生の時にイジメられていたカナちゃんをお義姉さんが助けたり、また進路で親と揉めた時も、色々と間に入ってもらったりしたらしい。
それらの結果、性格の違いもあるけど、世話になったことが多すぎて、つい言うことを聞いてしまう傾向にあるらしい。
「! ご、こめんなさ――」
「ま、まぁまぁお義姉さん。ほら、底の一番濃いぃ所を、注ぎますよ~」
僕は瓶ビールを持ち(缶ビールは金っ気が嫌いとのこと)、ラベルを上向きにして両手で注ぐ。するとお義姉さんは、傾いた眉を元へ戻しつつ――ニヤァ――とこっちへ向き直る。
「よしよし。ユッキーはいい子で可愛いねぇ。オッパイ触らせてやろっか?」
そう言うと頬杖を突いて、首元のVネックから魅惑的な谷間を覗かせてくる。視線が吸い込まれそうになるのを、無理くり上へズラして、高そうなプラチナのネックレスに合わせる。
「あ、あははっ。ぼ、僕ごときがお触りするなんて、とんでもないっすよ」
肯定なんて出来るわけないし、否定する場合は瞬間的に内容を考える必要があった。その際の安牌(※安全策の意)としては、自虐ネタで面白おかしくが鉄板だった。
「おっ。掠り避けたねぇ」
「は、ははっ。セフセフっすよ」
――思い起こせば、結婚のご挨拶で顔合わせしたあの日から、今日まで色々と鍛えられてきた。僕をからかうのがよほど愉しいのか、今日みたくちょくちょくと飲みに来るようになってしまった。
カナちゃんからしてみると、『お世話にはなったけど苦手な部分が多い』『言動がキツかったり辱められるのが辛い』と、泣きつかれた夜もあり、僕が積極的に相手を務める次第だった。
「ゴクゴク……ぷはぁ」
お義姉さんは心地よさそうに喉を鳴らしつつ、唐揚げを一口しては、目尻を少しだけ下げる。
「にしても、ユッキーみたいな陽キャっぽくない陽キャって、初めてで面白いわぁ」
自分的には陰の部類と思うけど、確かにカナちゃんからも『陰キャにしては人懐っこすぎる』と謎の評価をもらったことがある。
「(能天気なだけと思うけど――)あ、あざっす」
「腰も低いしねぇ。ってかヤリ目(※セックスが目的の意)でもないのに、アタシに毎月からまれても、これだけストレスを感じない年下の男は希少だわ~」
ほ、褒められているのかな? まぁ、心当たりがあるとすれば、中学や高校の部活の先輩達が割と強烈で、その顔色や感情の機微を読み取る神経が、鍛えられたからかもしれない。
また末っ子だったから、実家でも可愛がられるための立ち回り? みたいなのが、骨身に染みているかも。
「(けど一番は、頭を下げるのがそんなに苦じゃないからかなぁ)ささ、もっと飲みましょう」
キュポン。何本目かわからないビール瓶の王冠を飛ばす。
「てかほらぁ、ユッキーも飲みなよ。明日は土曜日で休みでしょ? アタシも久々に休みなのよ~」
冷たい湯気が出る瓶口を向けられる。無下に断るなど出来るはずもなく、残りを飲み干してからグラスを差し出す。
「(てか、カナちゃんは明日も仕事なんだけど――)あ、あざっす。いただきますっ」
「てか看護師ってさぁ。飲むか男漁りか散財しないと、やってられないんだってマジで。ウチの病院は医者も患者も同僚も、み~んなクソばっかだから。……まぁアタシも含めてだけどねぇ(笑)」
その後も小一時間ほど仕事の愚痴が続いた。やれ患者の家族がカスハラ(※カスタマーハラスメントの略語)するだの、同僚が彼氏ネタでマウント取ってくるだの、ある医者は不要な薬を出しまくって点数を荒稼ぎするだの……。ただ、同じ話がほとんど無いことから、記憶力の良さを感じた。
チラ、っとカナちゃんが僕へ目配せしてくる。明日も仕事だし、そろそろ寝たいのサインだ。
「(ラジャ)いや~。お義姉さんのお話を飲みながら聞くの、本当に好きっすわ」
「聞き上手だねぇユッキーは。よ~っし、そろそろ日本酒いこっか。この前のまだ残ってるっしょ?」
梅雨の生ぬるい夜風が網戸から入り込む午後八時過ぎだった。賃貸住宅のリビングキッチンの食卓にて隣の席から、ふーっ、っと息を吹きかけられる。
僕は、夕食中にも変わらず、目を見開く。
「え、えぇ。もちろん聞いてますよ? お義姉さん」
そう口にする僕は莵道幸雄。今年で二十八歳になる会社勤めのプログラマーで、結婚しているけど、子供はまだいなかった。
そんな僕の隣に座るのは、妻ではなく――。
「ほんとぉ? じゃあ、ビール注いで」
ショートカットの金髪が揺れる。キレのある目と高い鼻は、濃いメイクに覆われていて、肌は健康的で張りがあった。
柱谷恵里菜さん。妻である要の姉にあたり、僕の二つ上だった。顔は綺麗系でスタイルも良く、肉体的、また精神的にも若かった。看護師の仕事をしているけど、とかく遊び好きで、飲むのはさらに好きなのは、見ての通りだった。
「ゴク。あ~、何杯飲んでもうまぁ」
グラスから離れた唇はふっくらと濡れて、赤い口紅に彩られていた。服装の方も、ボディライン丸わかりのピチピチの白シャツに、下半身は超短いホットパンツで、露出タップリだった。
遊び足りないと言わんばかりの格好のまま、柔らかそうな胸の谷間の前に持つグラスへ、本日七杯目のビールを注ぐ。
「……お、お姉ちゃん。の、飲み過ぎだよ」
僕の対面に座る妻の要ことカナちゃんが、遠慮深くそう口にする。彼女は僕の一つ下で、大学の後輩だった頃からの付き合いだった。
黒髪に眼鏡で、化粧や衣服もおとなしく、体形も標準的でお義姉さんとは異なっていた。
「は? 気持ちよく飲んでるアタシに意見するなんて、カナも偉くなったわねぇ?」
ギロリ、っと据わった瞳が、まるで蛇みたくカナちゃんへ絡み刺さる。
……何でも、小学生の時にイジメられていたカナちゃんをお義姉さんが助けたり、また進路で親と揉めた時も、色々と間に入ってもらったりしたらしい。
それらの結果、性格の違いもあるけど、世話になったことが多すぎて、つい言うことを聞いてしまう傾向にあるらしい。
「! ご、こめんなさ――」
「ま、まぁまぁお義姉さん。ほら、底の一番濃いぃ所を、注ぎますよ~」
僕は瓶ビールを持ち(缶ビールは金っ気が嫌いとのこと)、ラベルを上向きにして両手で注ぐ。するとお義姉さんは、傾いた眉を元へ戻しつつ――ニヤァ――とこっちへ向き直る。
「よしよし。ユッキーはいい子で可愛いねぇ。オッパイ触らせてやろっか?」
そう言うと頬杖を突いて、首元のVネックから魅惑的な谷間を覗かせてくる。視線が吸い込まれそうになるのを、無理くり上へズラして、高そうなプラチナのネックレスに合わせる。
「あ、あははっ。ぼ、僕ごときがお触りするなんて、とんでもないっすよ」
肯定なんて出来るわけないし、否定する場合は瞬間的に内容を考える必要があった。その際の安牌(※安全策の意)としては、自虐ネタで面白おかしくが鉄板だった。
「おっ。掠り避けたねぇ」
「は、ははっ。セフセフっすよ」
――思い起こせば、結婚のご挨拶で顔合わせしたあの日から、今日まで色々と鍛えられてきた。僕をからかうのがよほど愉しいのか、今日みたくちょくちょくと飲みに来るようになってしまった。
カナちゃんからしてみると、『お世話にはなったけど苦手な部分が多い』『言動がキツかったり辱められるのが辛い』と、泣きつかれた夜もあり、僕が積極的に相手を務める次第だった。
「ゴクゴク……ぷはぁ」
お義姉さんは心地よさそうに喉を鳴らしつつ、唐揚げを一口しては、目尻を少しだけ下げる。
「にしても、ユッキーみたいな陽キャっぽくない陽キャって、初めてで面白いわぁ」
自分的には陰の部類と思うけど、確かにカナちゃんからも『陰キャにしては人懐っこすぎる』と謎の評価をもらったことがある。
「(能天気なだけと思うけど――)あ、あざっす」
「腰も低いしねぇ。ってかヤリ目(※セックスが目的の意)でもないのに、アタシに毎月からまれても、これだけストレスを感じない年下の男は希少だわ~」
ほ、褒められているのかな? まぁ、心当たりがあるとすれば、中学や高校の部活の先輩達が割と強烈で、その顔色や感情の機微を読み取る神経が、鍛えられたからかもしれない。
また末っ子だったから、実家でも可愛がられるための立ち回り? みたいなのが、骨身に染みているかも。
「(けど一番は、頭を下げるのがそんなに苦じゃないからかなぁ)ささ、もっと飲みましょう」
キュポン。何本目かわからないビール瓶の王冠を飛ばす。
「てかほらぁ、ユッキーも飲みなよ。明日は土曜日で休みでしょ? アタシも久々に休みなのよ~」
冷たい湯気が出る瓶口を向けられる。無下に断るなど出来るはずもなく、残りを飲み干してからグラスを差し出す。
「(てか、カナちゃんは明日も仕事なんだけど――)あ、あざっす。いただきますっ」
「てか看護師ってさぁ。飲むか男漁りか散財しないと、やってられないんだってマジで。ウチの病院は医者も患者も同僚も、み~んなクソばっかだから。……まぁアタシも含めてだけどねぇ(笑)」
その後も小一時間ほど仕事の愚痴が続いた。やれ患者の家族がカスハラ(※カスタマーハラスメントの略語)するだの、同僚が彼氏ネタでマウント取ってくるだの、ある医者は不要な薬を出しまくって点数を荒稼ぎするだの……。ただ、同じ話がほとんど無いことから、記憶力の良さを感じた。
チラ、っとカナちゃんが僕へ目配せしてくる。明日も仕事だし、そろそろ寝たいのサインだ。
「(ラジャ)いや~。お義姉さんのお話を飲みながら聞くの、本当に好きっすわ」
「聞き上手だねぇユッキーは。よ~っし、そろそろ日本酒いこっか。この前のまだ残ってるっしょ?」
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