犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

レイラ・チルアウト

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 ハーディが怒鳴ると店内はシーンと静まり返る。

「メロウ」

「なんですの? ハーディ様」

「お前馬を走らせたて来たと言ったが、どこから向かって来たんだ?」

 ハーディの問いかけにメロウは嬉しそうに答える。

「コンツェルトですのよ。ここまでほぼ休みなしで走らせましたわ。なんせハーディ様が――」

「そうか。解放軍は……、エルビスはコンツェルトに来ていたか?」

 メロウの話も途中にハーディはさらに質問をぶつけた。

「ええ、私が解放軍の方と取引してる際、彼らからハーディ様がオラトリオにいると聞かされたんですのよ。ハーディ様、あの方たちに御用でもおありですの?」

 メロウの話から推測するにエルビスはハーディが戻ってきた事を知っている。ハーディの予感していた事は確信に近づきつつあった。解放軍がカンツォーネからコンツェルトへと移動したのは、おそらくシシーがハーディを見かけた事をエルビスに伝えたからだろう。エルビスはなにかしらの理由でハーディには会いたがらなかった。だから移動したのだと、そうハーディは予想していたのだ。

「メロウ、エルビスには会ったのか?」

「いいえ、エルビス様とは直接お会いしてはいませんわ。エルビス様に御用でしたらまだコンツェルト周辺にいらっしゃると思われますわ」

 ビズキットファミリーほどではないが解放軍もやはり大人数だ。それだけの人員を移動させるのは容易ではないだろう。

「急ぐぞ。あいつらが他に移動したら面倒だ」

「あの、ハーディ様。どちらに行かれるんですか?」

 ハーディ達はエルビスに会いに、今からコンツェルトに向かおうとしていた事をメロウに話した。

「なるほど。では、私もハーディ様とご一緒にコンツェルトまでお供いたしますわ」

「おいおい嬢ちゃん。遠足じゃねえんだぞ?」

 キリシマはメロウを連れていく事に反対した。ただでさえキャリーとララを守りながらの旅である。その判断は正しかったが、ハーディはそうは考えなかった。

「メロウ、ここまであれで来てるのか?」

「もちろんですわハーディ様。馬は外に停めてありますわ」

 ハーディはニヤリと笑い外に向かった。
 メロウとララも後を追うようにその背についていく。

「そいつぁ丁度いいぜ。行くぞお前ら」

 一人で納得しマーリーから出て行ったハーディを、ただただポカンと全員が眺めていた。
 あのハーディがこうもあっさり動向を承諾するなど誰も信じられなかったのだ。

「あ……、あの、私たちも行きましょう」

 キャリーが口を開く。
 その言葉にハッとしたキリシマが我に返る。

「あ、ああそうだな。んじゃ今度こそ行ってくるぜ?」

「なんだかなぁ……。ま、気ぃつけてなぁ」

「あんた、ちゃんとキャリーとララから目を離すんじゃないわよ? あの女はどうでもいいけど」

 ポールとリップに見送られ、キャリーとキリシマも続いてマーリーを出たのであった。

 店を出るとそこには大きな幌馬車があった。
 仕入屋をしているメロウはこの幌馬車でレクイエムを回り商品を売る。幌を片側開くと、簡易的な商店になる仕組みになっていた。
 解放軍と取引した後で、荷物の無くなった幌馬車の荷台には四人乗るだけのスペースが十分に空いている。ハーディはそこに目を付けたのだ。

「おら、速く乗れお前ら」

 ハーディが指さす幌馬車の荷台にはすでにララが座っていた。

「へぇー! あの、送ってもらえるんですか?」

「ハーディ様に頼まれたんですのよ? このメロウ、確実にコンツェルトまで送って差し上げますわ!」

 メロウは自信満々に言い切った。
 ハーディに頼られたとあって張り切っている。

「あの、こんな大きい馬車だと目立って他の受刑者達から狙われやすいんじゃないですか?」

 キリシマの問いに、今度はハーディが荷台の帆についた政府のエンブレムを指さした。

「あれは管理者の所有物を示す印だ。あれが付いている限り誰も襲わねえよ」

 戦闘禁止区域以外の場所であろうと、管理者への暴行を行った際には厳罰な処分が下る。なにより殺したところで刑期は減らない。メロウは仕入屋で襲えば荷台の積み荷を奪えるかもしれないが、それでも自分の命と天秤にかけられるかと言えばあまりにも割に合わないのだ。
 ハーディ達が荷台に隠れ、メロウが普通に幌馬車を走らせればララやキャリーを守るという手間が省け、戦闘時間を短縮出来る為コンツェルトに着くのも早い。

「それじゃあ、メロウちゃん。よろしく頼むわ」

 キリシマはそう言うと荷台に乗り込んだ。

「あの、よろしくお願いします!」

 キャリーはメロウに頭を下げ、キリシマの手を借りて荷台に乗り込んだ。
 それに続きハーディも乗り込もうとしたが、レイラは止めた。

「あの、ハーディ様。後ろを閉めて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

 メロウにそう言われハーディは荷台の後ろ部分の帆を垂れていたひもで結び縛った。
 荷台の中からは横も、そして後ろも見えなくなり、前方の一部分、ちょうどメロウの頭あたりが見えるだけになる。
 「俺はどう乗り込めばいいんだ?」と聞いたハーディにメロウは腰を少しずらし、自分が座る横をポンポンと叩きにやりと笑った。


*** *** ***


 幌馬車はオラトリオを出発し、コンツェルトを目指しビル群を進んでいく。
 メロウの傍らには自分から頼んだ手前、強く不満を言えずに諦めたハーディがドカッと座り、荷台からはララが羨ましそうに二人を見つめていた。
 全員で五人乗ったとはいえ歩くよりは断然馬車の方が早い。何よりララがいるこの状況にこの馬車はありがたかった。

「そういやメロウ」

「なんですの? ハーディ様」

 なんとなく話しかけたハーディにメロウは目をキラキラさせながら答える。
 隣通しで密着し緊張しているのか、メロウの耳は少し赤くなっているように見える。

「おまえ、コンツェルトの刑殺官には会ったか?」

 ハーディは元々オラトリオの刑殺官を務めていた。
 今はそこにレイラが配属されている。それまでレイラがどこにいたのかと言えばコンツェルトだった。つまり、ハーディが抜けた後にコンツェルトに新人が配属されたため、ハーディはコンツェルトの刑殺官とは面識がなかったのである。

「ええ、お会いしましたわよ。管理者がレクイエムに入るとき、刑殺官に護衛してもらう権利がありますから」

「そいつに護衛されてレクイエムに入ったんだな? どんな奴だった?」

 エンブレムで守られているとはいえ管理者一人でレクイエムを歩き回るのは危険だ。
 レクイエムに出入りする際、または街と街との移動区間、戦闘のエキスパートである刑殺官に護衛をしてもらえる権利が管理者にはあった。だがそれでは管轄する街が手薄になってしまう。大抵の場合は養成中の刑殺官見習いがその護衛役を任されていた。
 だが、コンツェルトは四大都市の中で一番人口が少なく、トラブルもほぼ起きない街である。仮に起きたとしても、警報が鳴った記録が残り直々に始末される。その事からメロウの護衛はコンツェルトの刑殺官が請け負ったのだろう。
 そこまで予測したハーディは違和感に気付いた。

「おまえ、レクイエムに入るときに護衛されたんだな?」

「ええハーディ様、そうですのよ?」

「それはいつの話だ?」

「私がレクイエムに入ったのは一昨日ですわよ」

 メロウは二日前にレクイエムに入った。そしてその後にコンツェルトで解放軍に鉢合わせ、ハーディの噂を聞きつけオラトリオに向かった。いくら平和な街だろうと、コンツェルトの刑殺官がレクイエム入口まで迎えに来るだろうか? その距離はさすがに見習いに任せるだろう。ハーディは一つの結論に達した。

「おまえ。どこから入ってきた?」

 メロウはそれを聞くと「あっ」と口を塞いだ。

「答えろ! メロウ!!」

 突然怒鳴ったハーディに後ろで寝ていたキャリーが目を覚ます。

「い……、いくらハーディ様でもそれは言えませんわ」

 その返事で十分だった。
 ハーディはメロウの頭にポンと手を置いた。

「怒鳴って悪かった」

 メロウの申し訳なさそうな顔は真っ赤になった。ハーディに隠し事をするのが心底嫌なのだろう。
 それが言えないとなればわかることは二つ。まずはレクイエムには正面以外に裏口があるという事だ。元刑殺官のハーディですら出入り口は一つだと教えられていた。
 それともう一つ。その裏口はおそらくコンツェルト周辺にあるという事。メロウがその辺りから入ったのならば、わざわざ街の刑殺官が迎えに来たのも時間的にも説明がつく。なにより、エルビスがコンツェルトを目指した理由も恐らくはそれだと考えられる。

「いえ、ハーディ様。その、お役に立てなくてすみません」

「いいんだ。立場的に話せない事もあるだろう。俺の事よりおまえは自分の仕事を優先しろ」

 ハーディは管理者の守秘項目にまでは触れる気にはならなかった。
 今は自分も受刑者の一人だ。べらべらと話してしまう方が問題である。
 メロウがそれを話さなかったのは、ハーディにとって高評価だった。


*** *** ***


 ビル群を抜けると、遠くに山が見えてきた。
 すると、後ろからキリシマが顔を出す。

「まったく。寝てりゃあ勝手に進むんだから助かるぜ。メロウちゃん、コンツェルトに着いたらお礼をしたいのだが」

「いえいえ滅相もございませんわキリシマさん。ハーディ様のご友人に粗相があってはなりませんもの」

 鼻の穴を膨らますキリシマにメロウは愛想笑いで答える。
 キリシマの隣からキャリーも顔を出した。

「うわぁー、あの、高い山ですねぇ!」

「あの山を超えたらコンツェルトだ! いいとこだぞぉ? オンセンはあるし飯はうまい、なにより美人ばっかりだ!」

 キリシマは先ほどよりさらに鼻の穴を広げる。
 後ろで寝っ転がるララは尋ねた。

「オンセンってなに?」

「でっかい風呂だよララちゃん。俺と入るか?」

 ララはぶんぶん首を振って拒否する。

「ヤダ。ハーディと入る」

「なんでおまえこいつに惚れられてんだよ」

 キリシマはハーディにガンをとばした。

「知らねえよ。おまえらちゃんと隠れとけよ」

 ハーディは小窓から顔を出すキリシマの頭をぐいぐい荷台へと押し込めた。

「ハーディ様。そう言えばその子は本当にハーディ様の娘さんですの?」

 メロウはハーディに詰め寄る。

「ちげえよ。大体なんでそんな勘違いしてんだよ」

「差し出がましい様ですが……、やはり刑殺官に引き渡すべきではないでしょうか」

 キャリーはそれを聞いてピクリと反応し表情を曇らせる。

「あの、やはりそうなんでしょうか……。その方がララちゃんにとっては安全なのでしょうか……」

「心配すんなよキャリーちゃん。なあハーディ、エルビスって奴に任せれば安心なんだろ?」

「少なくともあのじじいは一般人を殺したりしねえ。とりあえず会って話してからだ」

 ハーディは再び出てきたキリシマの頭をぐいぐいと中にひっこめた。


*** *** ***


 日が沈み、暮れがかった頃である。
 山道を進み続ける馬車の上で、今まで会えなかった時間を取り戻すようにメロウはハーディに話しかけ続けていた。

「ハーディ様、そろそろ見えてきますわよ」

「ああ、そうだな」

 ハーディも刑殺官時代に何回もコンツェルトには訪れた事がある。
 この山道も通りなれていたのでもうすぐ着くという事がわかっていたハーディは、ここまで一度も襲われなかった事に、何も言わなかったがメロウに感謝し、それをメロウは隣で感じ充足感に満ちていた。
 どこまでもくねくねと続いていた山道をひたすら馬車は進み、コンツェルトの明かりがうっすらと見えてきた所でキリシマが気付き口を開く。

「おい、なんだか焦げ臭くねえか?」

 キリシマの鼻は誰よりも良かった。
 言われてハーディもそれに気付く。

――何かが燃える匂い。

 ハーディは咄嗟にコンツェルトに目を凝らす。
 街からは微かに黒煙が立ち上っていた。
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