犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

虚勢の仮面

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「なんや、はーでぃはん。刑殺官やめたんおもたら今度は子守に転職したんどすか?」

 ハーディらがマーリーから外に出ると、そこにはオラトリオの刑殺官であるレイラが待ち伏せていた。
 レイラの抜いた細剣が太陽を反射し目に眩しい。
 ハーディとキリシマはキャリーとララを店内へと下がらせ、敵意をむき出しにするレイラと向き合った。

「このガキはエルビスの所に連れていく。……邪魔をするな、レイラ」

 ハーディはレイラを睨み付けたままハロルドとデイトナを静かに抜いた。

「ついさっき惚れてる女に連れてくって言っちまったばかりなんでなぁ。悪いが俺も引く気はねぇぜ?」

 キリシマはヘラヘラ笑いながら腰に掲げた柄の目貫を握りしめた。

「困りますわぁはーでぃはん。あんた今受刑者や。れくいえむの規則は守ってもらわな。我儘言わんとその子、こっちに渡してもらいましょか?」

「レイラ、俺は教えたはずだぜ? 受刑者に頼み事なんかするなと。如何なる時でも、刑殺官は相手を力づくでねじ伏せる者だとな」

 それを聞くとため息をつきながらレイラは二人に背を向け天を仰いだ。

「なんでこないなったんやろなぁ。ほな――」

 話途中に振り向き、レイラはハーディを見据えた。

「――いかせてもらいましょか!!」

 レイラの細剣がハーディの顔面目がけて突き出された。
 細剣の軽さと鋭さを活かした誰よりも速く正確な突き。レイラの得意とするこの突きに命を奪われた受刑者の数は数えきれない。


キィン!!


 ハーディは左手に構えたハロルドでそれを受け流し切っ先の方向を変えると、右手のデイトナをレイラ目がけて発砲した。弾丸は紙一重でレイラの頬を掠めていく。


ビーッ! ビーッ! ビーッ! ……


 腕途刑から警告音が鳴り響いた。

「はーでぃはんがおらんくなってからうちは受刑者相手に揉まれてたんどすえ? 下手な鉄砲は打っても当たらんわ」

「――後ろががら空きだぜ」


ガキィイイイイイン!!


 キリシマがレイラの背後から刀を斬り落とすがレイラは即座に反応し、キリシマに振り向きそれを細剣で受けた。
 キリシマの刀とレイラの細剣がぶつかり合い、高い金属音と一瞬の火花が散った。

「二対一だけど悪く思うなよ。お嬢ちゃん――」

 キリシマは地面を蹴り飛ばし、全体重を刀にかけて一気にレイラをふっ飛ばした。
 レイラは足こそ地面に踏ん張るものの、キリシマの怪力によるその勢いを止められずにマーリーの壁に叩きつけられた。

「がはっ!!」

 叩きつけられた衝撃でレイラは一瞬呼吸が止まる。
 その機を逃さずに再びキリシマが二撃目を斬りかかる。
 レイラは細剣で再びそれを受けたが、今度は後ろに逃げ場はないうえキリシマの腕力には到底敵わない。ギリギリと必死で細剣を前に押し出そうとするがまるで動かず、その隙にレイラの頭にハーディはデイトナを突き付けた。

「まだやるか? レイラ……」

「はは、降参やはーでぃはん。堪忍してや」

 レイラのその言葉を聞きキリシマは刀を引いた。
 圧し掛かっていた力が抜けたレイラは完全に油断していたハーディに細剣を突き出した。
 即座にハーディは避けようとしたが、それは間に合わずわき腹から血が滴ってくる。

「おい! 大丈夫か!? ハーディ!」

「心配するな。かすり傷だ」

「あきまへんなぁはーでぃはん。受刑者相手に手段を選ぶなと言っとったんはあんたやんなあ?」

――ハーディはああ言ったが、あの出血量……。致命傷にはならなくても、もうレイラの洗練された突きを避ける事は容易ではないだろう。

 そう判断したキリシマは不意にレイラに斬りかかった。
 しかし、今度はレイラはその刀を受けなかった。
 レイラ自身も常人と比べれば人並外れた腕力を誇っていたが、キリシマとの二度に渡る鍔迫り合いで腕力に圧倒的な差があると学習していたからだ。
 キリシマの刀を細剣で受け流し、流れるようにキリシマの肩に突きを入れた。
 キリシマは上半身を捩ってそれを躱そうとしたが、あまりの突きの速さに避けきれず細剣は肩をかすめて出血した。

「ぐっ!!」

 着物の切れ間から血が滲み、避ける事に集中し体勢を崩したキリシマにレイラは再び突きを繰り出す。
 キリシマは刀では間に合わないと咄嗟に判断し、細剣を潜りそのままレイラに体当たりした。
 再び突き飛ばされたレイラは一旦キリシマから目を離し、そのまま突き飛ばされる先にいたハーディに向けて細剣を突き出す。
 ハーディはその突きに合わせるように腕を引き、細剣を握るレイラの右手首を自身の左手でがっちりと掴んだ。

「まだや!!」

 レイラは左手で腰に掛けたナイフを抜きハーディに突き出す。
 ハーディはそのナイフを右手に持ったデイトナではじき飛ばした。


キィーーーン……


 高く宙を舞ったナイフがレイラの背後にただ空しく落ち、周囲に乾いた音を響かせた。

「ぐっ! 離せ! 離さんかい!!」

 レイラは左手で自身の右手首を掴み、力を入れてなんとかハーディから振りほどこうとしたが、腕途刑が付けられているその腕がそれを許さない。
 腕途刑から発せられるけたたましい警告音に、レイラの焦燥感がかられる。

「レイラ。てめぇの腕力じゃ一回俺に捕まったらもう振りほどけねぇ」

「それがどないしたんや! どんな状況でも諦めるな言うたんはあんたや!」

 レイラは腰を入れハーディの左手から抵抗し続けた。
 キリシマがゆっくりと二人に近づく。

「仕事は絶対にやり遂げろ言うたんはあんたや! 敵が誰だろうと必ず勝て言うたんはあんたや!」

 キリシマがレイラの背後に立つ。
 レイラは振り向き、刀を大きく掲げたキリシマの姿を目にした。

「刑殺官は死ぬまで受刑者に弱み見せたらあかん言うたんはあんたや!!」

 ハーディは必死で抵抗し続けるレイラをただ静かに見つめていた。
 その目が合った瞬間にレイラは抵抗を辞め、全てを諦め体から力を抜いた。

「なんで……、なんで何も言わずに……。いきなりうちの前からいなくなったんや!? はーでぃはん!! うちはあんたの部下やろぉ!? あん時約束したやないか!!」

「……すまなかった。レイラ……。俺はエウロアに……、会いに行ったんだ……」

 それを聞くとレイラは薄っすらと涙を浮かべて膝から崩れ落ちた。
 ハーディはレイラから敵意が消えた事を悟り手を離し、キリシマはいつの間にか刀を鞘に納めていた。

「ずっと不安やった……。はーでぃはんがいなくなってからうち、いきなり官長にされてもうて。そんなんできへんよ……。えるびすはんも、えうろあはんもいなくなって……。はーでぃはんまでいなくなったらもう生きていけへんよ……」

 ハーディはレイラの頭にただ優しくポン、と手を置いた。
 まるで泣いている子供をあやすかのように。

「泣くな!」

 ハーディの怒声を聞いたレイラは袖で涙を拭きすぐに立ち上がる。
 すでにその顔は無慈悲な女刑殺官、レイラ・チルアウトに戻っていた。

「なんか白けたわ。今日は帰らせてもらいます。その子は好きにしたらええ。せやけどな……」

 レイラは細剣をハーディに向け、殺意を露わにし睨み付ける。

「はーでぃはん。次なんかしたらほんまにぶっ殺すで?」

 ハーディは「てめぇごときに殺されるか」と言わんばかりにニヤリと笑った。
 それを見たレイラは細剣を鞘に納め飛び去って行った。
 微かにだが、レイラの口角が上がっていたのをハーディは見逃さなかった。

「あーあ、厳しいねえ。あんなかわいい嬢ちゃんなのに……」

「ハッ、人前で泣くやつなんか刑殺官失格だ。ホントに殺す気で来てたなら会話なんぞしないだろう。まだまだあいつも甘ぇ――」

「よく言うぜ。あんた、その銀の銃も使ってねえくせによ」

「てめぇこそ。左利きじゃかったのかよ」

 二人とも、レイラをなるべく傷つけないように気遣っていた。
 だが、それはレイラも同じだった。
 ハーディはレイラが得意とするあの技を使ってこなかった事に戦闘の途中から気付いていた。
 結果、ケガをした二人が勝ち、至って無傷なレイラが負けた。
 
 店の中から見守っていたキャリーとララが外に出てくる。

「あの! 二人とも大丈夫ですか!?」

「ハーディ……、血出てる」

「あれー!? ララちゃん! 俺も肩から血出てるけど見えないの!?」

 キリシマは肩の傷口をララに精一杯アピールした。
 だが、ララは「そんなの知らない」とまるで興味を示さなかった。

「なんにせよ、ララちゃんが刑殺官公認……いや、黙認になったところで、さっさとコンツェルトに行くとするか」

「ダメです!」

 景気よく出発しようとしたキリシマをキャリーは止めた。

「二人とも血が出ていますよ。ちゃんと治療をしないと」

「かすり傷だ。ほっときゃ治る」

「俺の方も浅い。そんなには切れてねぇ」

 平気だと言い張る二人をキャリーは強引にマーリーへと連れ戻す。

「あの、せめて包帯くらいは巻いてください!」

 キリシマは「こりゃ聞かねえぜ」とアイコンタクトを送り、ハーディは「めんどくせえな」と答えた。


*** *** ***


 キャリーはリップから救急箱を借り、二人の傷に消毒と簡単な応急処置をした。

「よし、とりあえずこれで大丈夫です!」

「ハーディ、痛い?」

「あれぇ? ララちゃん! 俺は心配してくれないのかな!?」

 ララは「うるさい」と言わんばかりの不機嫌面をした。

「まさかあんた達、ちょっと外出ただけで帰ってくるとはねえ……」

 リップは笑いながら二人の傷を叩いた。
「――っ!!」

 声にならない叫び声を二人は上げた。
 強がってはいるがかなり痛そうだ。

「旦那達、今日は無理しねえで泊まってきゃあいいんじゃないですかぃ?」

「いや大丈夫だ。時間がもったいねぇ。おら、行くぞお前ら」

 ポールの心配もよそにハーディはマーリーの扉を開けた。
 外にはまたしても女が立っていた。
 その女はレイラではなかったが、ハーディは先ほどレイラが立っていた時より衝撃を受け、振り向いたその女と目が合った途端に扉をそっと閉じた。

「だめだ。傷が痛む。ポール、奥の部屋借りていいか?」

 顔が引きつっているハーディがそう言った瞬間、先ほどの女がマーリーへと入ってきた。

「ハーディ様!! やっと見つけましたわよ!!」


『ハーディ様ぁ!?』


 一同が驚きの声を上げた。
 その女は刑務所とは思えないドレスを着て、髪は巻き、仕草から明らかにどこかの令嬢だと思わせたが、よく見ると右腕にはしっかりと腕途刑がされていた。
 そして信じられない事なのだが……、なんと驚く事に……。

――巨乳のリップより更に胸が大きかった。

「お……、おう。久しぶりだな……。『メロウ・セレナーデ』。まだレクイエムにいたのか」

 ハーディはその女と顔を合わせたが、相変わらず引きつり、目が泳いでいる。
 今まで見たことのない表情を見せるハーディに一同は驚きを隠せない。

「コンツェルトに居ましたら、風の噂でオラトリオでハーディ様を見たと聞きましたからここまで馬を走らせましたのよ!? まさか本当にいらっしゃるなんて! なんと運が良いのでしょう!! 今日は最高に幸運な日でしてよ!!」

「あの……、えっと……、ハーディさん、この方は……?」

「あら、ハーディ様。なんですのこのペチャパイ小娘は? 私というものがありながら」

「ぺ……ペチャパイ小娘?」

 キャリーはレクイエムに来て初めてイラッとした。

「お嬢さん。俺はキリシマってもんだがな……」

 いきなり店に入ってくるなり、なんの事情もわからないまま好き勝手言われてキリシマが黙っているわけがない。キリシマはきっとこの女に一言モノ申してくれる。
 リップ以外の人間はそう思った。

「あんたの胸、もしかしたらレクイエムで一番でかいんじゃないのか?」

 全員が心の中で「ああ、忘れてた。こいつエロキャラなんだった」と思い出した。

「あらお上手です事。でも失礼。私にはハーディ様がいますので。……ささ、ハーディ様、私とともにオンセンなどいかがでしょう? コンツェルトに宿を取っていますのよ」

 メロウはそう言うとハーディの左手に抱き着き、無機質な違和感から気付いた。
 左手に腕途刑がされている事に。

「俺は今や犯罪者だ。てめぇとは立場が違う」

「まぁなんていうことですの!? しかしながらハーディ様。私はハーディ様とでしたらレクイエム暮らしでも構いませんことよ?」

「構わないって、あんたまさに今レクイエム暮らしじゃないのよ」

 メロウのセリフにリップは突っ込んだが、それに答えたのはハーディだ。

「メロウは仕入屋だ。レクイエムにいるのなんざ長くても一週間ってとこだ。外から持ってきた品を売りさばいたら外に帰っちまう」

「そうですのよ。仕事でこちらに来た私を金品目的で襲う輩がいまして……、その時、ハーディ様は私をお助けくださったんですの」

 襲われたのは金品目当てじゃなくてイライラしたからなんじゃ。と誰もが思ったが口にする者はいなかった。

「私は運命だと直感しましたわ! ハーディ様、是非今度は私を娶ってくださいまし!」

 この唯我独尊な女に対抗すべく、一人の女がハーディの右腕にしがみついた。

「ハーディ、渡さない」

「なんですの? このちびっ子は?」

「あーそいつぁ、ハーディの旦那がぁ……」

 言いかけたポールをハーディは睨んで黙らせた。
 出来れば部外者にララを拾った。などと言わない方がいいだろう。
 もし他の人間がレイラに報告を入れでもしたら、レイラがそれに応じなければならない。
 万が一見て見ぬふりをしたなんて噂が立てば刑殺官としての箔が下がってしまうからだ。

「ハーディ様の……、一体なんですの? 子供だというのですか?」

 メロウは目を見開きポールを睨んだ。
 あまりの眼力にポールはそれに怯み目を逸らした。

「えぇっと……、俺っちは情報屋だけどぉ、なぁんにも知らないっていうか……」

 ララは強くハーディの右腕を引っ張った。

「ハーディ、私の。渡さない」

「このちびっ子!! 離しなさい! いいんですのよハーディ様。例えあなたに子供がいたとしても、私は全然余裕でこれっぽっちも意に介しませんわ!! あの方亡き今、ハーディ様のおそばには私の様な女が相応しいのではなくて? そうですわ! 三人で幸せな家庭を築きましょう! ささ、早速外に――」

「あ、あの……、ちょっとそれは不味いんじゃ……」

「あんた、店に入ってきてから好き勝手言ってくれてるけど一体なんなのよ!? あんた誰――」

「あーらあなたも中々いい胸をしてらっしゃいますわね。私ほどではありませんが」

「なんだとごらあああああ!! 大きさより張りと形だろうがあああああああああ!!」

「おいおいリップよぉ。頼むから店の中で暴れんじゃねぇぜぇ? まだ営業中なんだからよぉ!」

「お嬢さん、よかったら俺にその胸ちょっとだけでいいから、なんなら刑期を払いますから少しだけ……、1ッ分、いや! 10秒でいい! ……揉ませてもらえませんかね?」

「あんたその手つきやらしいのよ!! いい加減にやめなさいよ!!」

「キリシマさん……」

「おいリップ! とりあえずその椅子を降ろせよぉ! 店を壊さないでくれぇ!!」

「わかった! 5秒! 5秒だけでいい!!」

「ハーディ、私のー」

「だから離しなさいこのおチビ!!」



「いい加減にしやがれ!!」
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