犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

ララ・ゴシック

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「まったくお前さんはどれだけ人を斬れば気が済むんじゃ……」

 ドンはところどころ刃こぼれした刀を研ぎながらそう言った。

「なぁ、俺の弾は?」

「うるっさいわい順番じゃ! ちょっと待っとれ!」

「いやぁ、助かるぜぇドン。いつもタダでやってくれてなぁ」

「金なら取りたい奴から取るのがわしの信条じゃ」

「なぁ、俺の弾、もう用意してあるんだろ?」

「うるっさいわ!! そこの棚に入っておる!!」

 ハーディはそれを聞くと机の棚を開け、中に入っていた弾丸を取り出した。通常の弾と巾着袋に入った弾の二種類だ。部屋の扉を開け外に出ようとする。

「おいハーディ、どこ行くんだよ?」

 キリシマはそんなハーディを見て話しかけた。

「どうせ今日はオラトリオに泊まるんだろ? ちょっと野暮用だ」

「別に構わねえけど明日の朝には出るからな!」

 ハーディは何も言わずに部屋を出る。
 キリシマは嬉しそうだった。


*** *** ***


 日が暮れかかった時である。
 もうすぐ空に月が昇ろうとしていた時分、ハーディは少女と出会ったビルまで戻ってきていた。まさかいないだろうと階段を上り、見渡すと部屋の隅に少女はいた。
 ハーディは近づき水を渡す。ララは無言で受け取り口を付けた。

「言いたくなきゃいいが、……何をされた?」

 ララはなにも答えない。
 ララがなぜここにいたのか、途中でハーディは感づくことになる。
 政府の人間がレクイエム内の無法さに目をつけ、狙った女をレクイエムに落とし、欲望を満たす。証拠は外の世界には残らない。昔、そういう不正が行われていた事をエルビスから聞かされていたからだ。つまり、そういうことだとハーディは考えたが、本人が言いたくないのであれば無理にそれを聞き出そうともしなかった。

「俺たちが寝てる間になぜいなくなった」

「私にはもう価値がないから。もう、帰るところ、ないから」

 ララは暴行される中逃げ出したのだろう。
 男ももちろんそれを追っていたが、途中ハーディとキリシマの姿を見て逃げ出したと考えるのが自然だ。ララは父親から高額で売られていたのだろう。外に出ても、帰る家などない。ハーディはそう推測した。

「おら、行くぞ」

 ハーディはララを抱えた。
 ララはキョトンとした顔をしている。

「どこへ?」

「知らねえよ」

「降ろしてよ。私にはもう、何もないんだ。生きてきちゃいけなかったんだ」

「生きる理由が欲しいなら、俺がくれてやる」

 ハーディは今は亡き妻の顔を思い出し、抵抗するララを抱えたままオラトリオに向かった。
 最初こそ嫌がってる素振りを見せていたララは、やがて大人しくなり、気づけば鼻をすすっていた。


*** *** ***


 ドンに刀を砥がせたキリシマはマーリーに戻っていた。
 すでに営業時間を終えたマーリーのテーブルには料理が並ぶ。

「あの、ハーディさん、どこ行ったんですかねぇ?」

「ほっとけほっとけ、朝には帰ってくんだろう」

「ほんっと協調性ないわよね。あいつ」

「ララちゃん、今頃なにしてるかなぁ?」

 キリシマは気付いていた。
 ハーディは間違いなくララのもとにいるだろう。
 だが、気付かないふりをした。やつはそう感づかれるのを嫌うだろうから。

「それよりコンツェルトに向かうんだってなあ。気つけたほうがいいぜぇ?」

「大丈夫だ。俺とあいつがいれば何とかなる」

「いやいや、ビズキットが向かってるかもしれねえって話さぁ」

 ポールは両手を上げてそう言った。

「なんだと? 本当か?」

「いやぁ、そんな情報は入ってねぇ。だが俺の推測だとなぁ……、やつはもうハーディの旦那が帰ってきた事を知ってるはずさぁ」

 だとすれば、ハーディとエルビスが手を組む前にきっとビズキットはエルビスを討とうとするだろう。カンツォーネから手を引いたのはきっとより脅威となる方を潰したいだろうから。
 そうポールは予測していた。

「あんた達でもビズキットは手に負えないでしょうね。見たことないから知らないでしょうけど……」

「いや、分かってる。大丈夫だ」

 キリシマはリップの話を止めた。
 もし対峙したら全力でやる。すでに慢心のないキリシマはそう決めていた。

「それよりもキャリー、あんたこの男に手出されなかった? まさかカンツォーネで同じ部屋に泊まったりなんかしてないでしょうね?」

「あの、私実は……」

「……え? まさか!!」

「同じ部屋には泊まったんですけど、実はすごくお酒を飲まされてなにも覚えてないんです」

 リップはキリシマの元に行き全力でキリシマの頭を殴った。
 乙女の貞操が破られたと勘違いしたからだ。

「あんた! なにしてんのよ!!」
「ご……誤解だって! それに酒を飲ませたのはハーディも同じだ!」

 キリシマは無実を訴えるが当然信用は無かった。
 むしろ疑いは深まるばかりである。
 ポールまで興味を示しキャリーに質問する。

「まさか! 三人同じ部屋に泊まったのかい!?」

「あの、はい……」

「初体験で3P……」

 リップはその場にへなへなと座り込んだ。

「ハーディの旦那は女に興味がねえクールなキャラかと思ってたがそりゃあ……、なんていうか、お楽しみだったな……」

「違うって! キャリーちゃんもなんか言ってくれよ!!」

「思い出すだけで(頭が)痛いですぅ……」

「あんたってやつは……」

「だから誤解だって言ってんだろ! 俺の本命はおっぱいちゃん、おまえだけだ!」

「なっ!!」

 リップは顔を赤らめる。
 あながちまんざらでもなさそうなリアクションに場が凍る。

「あ……」

「ひゅー……、お熱いねぇ……」

「キリシマさん……」

「ああああああああああああ!!!」

 この後、照れ隠しかリップにボコボコにされたキリシマはキャリーの助けもあり、なんとか誤解を解くのに成功したが、すでに失ったものは大きかった。


*** *** ***


 翌日。
 マーリーに泊まったキリシマとキャリーは朝食を終え旅支度をしていた。

「ハーディの旦那はまだ来てねぇのかい?」

「悪いがもしあいつがここに来たら先に出たと伝えてくれ」

「あの、私は来るまで待っててもいいと思いますけど……」

「ビズキットの動きが気になる。早めに出たほうがいいだろう」


カランカラン……


 その時、マーリーの扉が開いた。
 その姿をみてキャリーは笑顔になり入口まで駆け付ける。

「ララちゃん!!」

 ハーディとララが店に入ってきたのだ。
 あれからハーディはララを抱えオラトリオまで走って戻ってきたのだった。

「おせえぞまったく」

 それを見てかすかにキリシマは笑う。
 ポールは物珍しそうにララを見つめる。

「その子が昨日言ってた子かい? へぇ、本当にレクイエムに女の子がねぇ」

「なんでこんな子がここにいるのかしらね。明らかに年齢が……」

「リップ! 腹減った。何か食わせろ。そいつの分もだ」

 ハーディは気を使ってリップの言葉を遮った。

「なによ! 急に入ってきて勝手なやつね!」

「まぁまぁ。朝飯の残りでも出してやんなぁ。旦那はともかく嬢ちゃんがかわいそうさぁ」

 ふれくされながらも、リップはしぶしぶキッチンへ向かった。
 ララはキャリーに絡まれている。

「ハーディさん。探してきてくれたんですか!? ありがとうございます!」

 ハーディは少女を見捨てることができなかった。
 それは自分も同じ状況を体験したことがあるから。

「ハーディさんってホントはすごく優しいんですよね!」

「やめろ。殺すぞ」

 キャリーを睨む目が光った。
 ハーディは言ってしまえば極度の照れ屋だ。
 そんなこと言ったら逆に怒り出す。

「……え? あの、すいません……」

「気にすんなキャリーちゃん。こいつぁ素直じゃねえんだよ」

 リップが食事を持ってくる。
 それをハーディの元ではなくララの所へと配膳した。

「てめぇ、何のつもりだ? リップ」

「この子はともかく、あんたに食わせる義理なんかこっちにはないわよ」

「チッ」

 ハーディはそっぽを向いた。
 こうなってしまってはもう何を言っても意地でも食べないだろうとポールもキリシマも心に思った。
 
「ララちゃーん。お腹すいてるでしょ? 食べていいんだよ?」

 ララはもう空腹で倒れそうだった。
 だが、それらに手をつけずに料理の盛られた皿を持つと、ハーディの所まで運んだ。

「ハーディ。一緒に食べよ?」

「なっ!!」

 その光景をみてリップが絶句する。ハーディが子供に懐かれてるなんて……。

「いいから早く食えよ。ぶっ倒れるぞ」

「でも、ハーディも何も食べてない……。一緒じゃなきゃヤダ」

 ハーディは頭をポリポリと掻き、ララと配膳された料理の前に座った。

「おら、食うぞ」

「いただきます」

 二人は食事をとり始めた。
 リップはハーディの意外な一面を見てふぅんとにやけた。
 そこへポールが切り出す。

「旦那ぁ。その子はどうするおつもりで? やっぱり刑殺官に引き渡すんですかぃ?」

 ララがあの状況に至ったということは家族に売られたのだろう。
 外の世界に返すと、そのまま口封じのため殺されることは必至であった。何しろ保護者がいない。かといってマーリーに置くわけにもいかない。腕途刑のないララが見つかれば結局、外に強制的に連れていかれるのだから。今やレイラは信用できない。カンツォーネまで連れていきカンテラに預け、外の世界で施設に丁重に保護させるのが最善だろう。

「こいつはカンテラの所に連れていく」

「またカンツォーネに戻るのかよ」

 それを聞いたララは持っていたフォークを落とした。ハーディの元に駆け寄り、ギュッとしがみ付く。

「ヤダ。ハーディといる」

「やだあんた、随分となつかれちゃってまぁ」

 茶化すリップを無視し、ハーディは自分にしがみつくララに言う。

「ダメだ。危険すぎる」

「ヤダぁ、ハーディと一緒にいるぅ!!」

 一歩も引かないララを見ていたキャリーが切り出した。

「あの、そういう事なら一緒に連れてってあげましょうよ!」

「正気かキャリーちゃん? そこの馬鹿と同意見になるのは嫌だが俺も反対だぜ?」

「でもあの、レクイエムで二人の側ほど安全な場所は無いと思いますよ?」

「なぁにキリシマ。あんた弱気じゃない」

「弱気っつーか、刑殺官に引き渡したら安全が確保されるんだぜ?」

 だが確かに、カンテラから無事保護されても、それで安全という確証はない。その手が渡ったところでやはり殺される可能性は否めなかった。

「ではあの、解放軍に引き渡すのはどうでしょう? なにかいい知恵を貸してくださるかもしれません」

 キャリーはララの顔をみて、他の誰かに引き渡すのを断固止めた。

「戦う前から負けを認めるな……か」

 エルビスならなにかいい情報を持っているかもしれない。仮にも解放軍をうたう連中だ。なにより、あの男の側にいればひとまず安心だろう。カンテラに渡すという選択より、解放軍に連れていくという選択がハーディの中で大きくなってくる。

「わかった。解放軍に引き渡すまでだ」

「おいおい、お前までそんなこと言いだすのかよ。第一――」

「ビビってないで男なら女の願いくらい叶えなさいよ。そしたらあんたに惚れてあげるわ」

「別にビビってるわけじゃねえよ」

 キリシマは刀の鞘を持ち笑った。

「だが今の言葉は突き刺さったぜ。おっぱいちゃん」

「じゃあ決まりですね! 一緒に解放軍まで行こう、ララちゃん」

 ララはそれを聞いて安心したのかハーディから離れた。


*** *** ***


 一行は四人となり、次の目的地コンツェルトを目指す。

「それじゃあな! 行ってくるぜ!」

「ララちゃん。行ってきますって」

「行ってきます」

「昨日も言ったがビズキットには気を付けろよぉ? それと、エルビスのおっさんによろしくって言っといてくれぇ」

「キャリー、今度こそシシーに会ってきなさいよ」

 ポールとリップに見送られマーリーを出る。
 だが店の前には女が立っていた。

「あれぇ? はーでぃはん。その子はなんどすの?」

 ニヤリと笑うレイラはすでに刀を抜いていた。
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