犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

哀惜の少女

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 カンツォーネを出た三人は経由地点のオラトリオを目指し林道を進んでいく。
 キャリーはすっかり回復し元気になっていた。

「なあハーディ、エルビスって一体どういうやつなんだ?」

 キリシマはコンツェルトにいるというエルビスについて質問する。今まではまるで興味の無かったことだが、ガストロと対峙し、その力を目の当たりにしたキリシマはなるべく情報を得ておこうと考えた。

「あのじじいは……、そうだな、ただの頑固者の年寄りさ」

「あの、エルビスさんって解放軍のリーダーなんでしたっけ?」

「まずその解放軍ってのはなんなんだよ。なにから解放されようとしてんだ?」

「そんなの決まってんだろ? レクイエムからだ」

「でもあの、強いんですよね? すぐに刑期なんてたまっちゃうんじゃないですか?」

「ガストロ、エルビス、そしてビズキット、レクイエムの中でこの三人だけには刑期がねぇ」

 政府はこの三人を殺しておきたかったがその手段はなかった。管理者側の最高戦力、刑殺官をもってして対抗できないと判断をしていた。
 だが、危険すぎる要注意人物達を外の世界に出すわけにもいかない。そこでやむをえず、政府は服役中の彼らの刑期を抹消し、無期懲役扱いにした。腕途刑の数字が0になっても出ることは許されない。
 それでもガストロとビズキットにとってはレクイエムと言う国は外の世界より生きやすかった。むしろそれを喜んで受け入れた。しかし、エルビスは違った。

「あのじじいは冤罪や判決に納得できなかったやつを集めて解放軍を作った。外に出るためにな」

 だからこそハーディはエルビスに会おうとしていたのだ。外に出るための、有益な情報があるかもしれないと、そうハーディは予測した。しかし、すでにカンツォーネから去った後だとカンテラに告げられる。

「とはいっても解放軍って言ってもよぉ。一体どうやってここを出るつもりなんだよ?」

「レクイエムの塀はさすがに壊せませんよね?」

 レクイエムを囲う様に高くそびえたつ塀はとても人間の壊せるものではない。地下も同じである。掘ってもやがては固められた地盤に行きついてしまう。脱走は不可能だ。事実、レクイエム設立から30年脱走に成功した者はいなかった。

「それは知らねぇ。だがじじいはレクイエム建設に携わっていたらしい。レクイエム創立からのメンバーだからな。絶対になにかを知っている」

「あの、私の母も解放軍なのでしょうか?」

「キャリーちゃん同様、冤罪で入れられたとしたら可能性は高いな」

「会ってみればわかることです!」


*** *** ***


 長い林道を進むと次第に廃ビルが見えてきた。
 キャリーは目を凝らす。そこにあったはずのララルの遺体は綺麗に無くなっていた。

「ララルさん……」

「そう暗い顔すんなよキャリーちゃん。きっとマークが弔ってくれたさ」

 キリシマは馬車に乗った葬儀屋の名前を出した。
 それを聞いて安心したのかキャリーは笑顔を取り戻す。

「そうですよね! いい人そうでしたもんね」

 キャリーはララルの顔を思い出したが、同時にマークの顔も思い出し、少し気が楽になった。

 廃ビルの間を進みオラトリオが近づくにつれ、襲われる頻度が増えてきた。
 だが、大抵ハーディかキリシマの顔を見て逃げ、逃げなかったものは殺された。

「まったく、こりねえやつらだよな」

「弾が残り少ねぇ。後はお前ひとりでやれ」

「それは構わねえけどよお。もう暗くなってきたし、そろそろ寝床を探そうぜ?」

「それじゃあ、あのビルにしましょう!!」

 キャリーは適当に目についたビルを指さした。三人が中に入るとそこには誰もいないようだった。
 カンツォーネで仕入れた食料をならべ食事にする。
 すると、ビルの中にだれかの足音が響いてきた。

「弾ぁ無いんだろう? お前はゆっくり飯でも食ってな」

 キリシマは刀を構え、その足音を待ち伏せた。

 柱の陰から現れたのは――

 ――幼い少女だった。

 キリシマは刀を納刀し、話しかける。

「おーおー、お嬢ちゃん。どうしたこんなところで? 迷子か?」

 オラトリオのビル群はレクイエム入口から一番近い。大抵の受刑者が入所して初めて行き着く土地である。
 キリシマはルーキーが迷っていると考えていたのだ。だがハーディは違った。

「てめぇ、なんでここにいる?」

 ハーディはハロルドを少女に向けていた。
 レクイエムへの投獄は15歳以上からと決められていたからである。少女は明らかにそれより幼い。どう見ても10歳程度にしか見えない。
 加えて、受刑者間で万が一子供ができた際も、刑殺官等の管理者がすみやかに外に引き渡すようになっていた。つまり、レクイエム内には子供は一人もいないのである。
 銃口を向けたままのハーディの問いに少女はなにも答えない。

「あの! やめてくださいハーディさん! こんな子供に! ごめんねー、怖かったねー」

 キャリーはあやすように少女に近づき頭を撫でた。

「お名前はなんていうのかなー?」

 少女はハーディの顔を見ながら無表情のまま答えた。

「ララ……」

「ララちゃんね。あの、私の名前はキャリーだよ。よろ――」

「おいやめろ。てめぇもレクイエムに子供がいない事くらいは知ってるはずだ。怪しすぎる」

 ハーディはそう言って追い払おうとしたが、それをキャリーは許さなかった。

「だからって、ほっとけないですよ! せめてオラトリオまで連れていきましょう?」

「それは賛成だな。大体こんなお嬢ちゃんにビビるなんて情けないぜ?」

 ハーディはカチンときたが、何も言い返さなかった。
 確かに相手は普通の少女である。問題にすることでもないだろう。
 一行は新たな同行人を加えて、眠りについたのである。


*** *** ***


 場所はオラトリオ。
 情報屋マーリーではポールが新聞を読み、それを眺めるリップが退屈していた。

「なーんかおもしろいことないかしらねー」

「面白い事ォ? それならたくさん知ってるぜぇ?」

 ポールは新聞を置いた。リップは近づき耳を傾ける。

「アラベスクの刑殺官のコレシャ。政府が呼びかけても連絡が取れないらしいぜぇ?」

「あらやだ。ビズキット関連かしら」

「恐らくなぁ。もしかしたら他の街に手出すかもしれねぇぜ?」

「呑気に言ってる場合じゃないわよ。オラトリオに来たらどうすんのよ?」

 だがポールはそれは無いと確信していた。言うまでもなく、オラトリオにはレイラがいるからである。


カランカラン……


 その時マーリーの扉が開いた。
 見慣れた3人が入ってくる。
 リップはその姿を見るなり店に入ってきた面白い事を歓迎する。

「あらキャリー!! お帰りなさい!!」

「お久しぶりです! リップさん、それにポールさんも!」

「おっとぉ、これはこれはぁ。シシーには会えたんですかぃ?」

「これから会いに行く。それよりポール、ドンはどこだ?」

「ドンなら街の宿屋でさぁ」

「俺達はドンに会ってくる。てめぇはしばらくここにいろ」

 ハーディがそういうと弾の補充と刀の研磨の為、二人はマーリーを出て行った。
 店の中はキャリー、リップそしてポールの3人が取り残された。


*** *** ***


「んでぇ?シシーの居場所は分かったんかよぉ?」

 ポールはにやにやしながらキャリーに質問する。

「はい。あの、エルビスって言う人と一緒にコンツェルトに向かったみたいです」

「へぇー、あのエルビスと一緒にねえ」

「なるほどなぁ。キャリーちゃんならあのじいさんは心配ないさぁ」

「会ったことあるんですか!?」

「あぁ、なんせ昔はこのオラトリオを管轄してた刑殺官だったからなぁ。よく覚えてるぜぇ?」

「そうよ。あのハーディの元上司よ」

「ええええ!? あの、今も刑殺官なんですか?」

 さらっとリップが言った新事実にキャリーは驚く。

「いやぁ、刑殺官時代になにかやらかして投獄されたみたいだぜぇ? もっとも今は刑期がないから一生レクイエムの住人だけどなぁ!」

 ポールは笑いながらしゃべった。
 その話はハーディから聞かされている。

「そう言えばあの、リップさんの言ってた人に会いましたよ?」

「えっと、誰の事かしら?」

「えーっとたしか。ガストロさん?」

 ポールとリップは驚愕し、口があんぐり空いている。

「ちょっと! あんたなんにもされなかったの!?」

「えーっと……、ハハ……、銃で撃たれました……」

 キャリーは苦笑いをしながら答えた。
 軽く銃で撃たれたといっても、普通は死亡する。決してヘラヘラ笑いながらする話ではなかった。

「おいおいキャリー、ケガは大丈夫なのかよぉ?」

「えっとこれ着てたんで、ケガとかはしてないです」

 キャリーはシャツをめくって中に来ていた帷子を見せた。
 リップは泣きそうな顔をしていたがそれを見ると安心したのか顔を拭き、いつも通り、高飛車な雰囲気を醸し出した。

「まったく、心配させないでよ!」

「えへへ、あの、すいません……」

「あいつに狙われて生き延びたんならたいしたもんだぜぇ」

「いえ、私は何もしてないんです。キリシマさんとハーディさんに助けてもらって。あ! それとカンツォーネの刑殺官さんも来てくれましたし」

「カンテラね。あの子、優しいものね」

 リップはカンテラの顔を思い浮かべる。

「オラトリオで会った女性の刑殺官とはだいぶ印象が違いました」

「本当はね、レイラも昔は話せる子だったのよ」

「あいつが変わったのはハーディの旦那がいなくなってからさぁ。刑殺官官長に任命されて、きっと重圧と戦ってんだろうぜぇ?」

 官長。それはもともとハーディの役職であった。
 ハーディがレクイエムを去り今はレイラが後を引き継いでいた。

「あ! あと廃ビルの中で一人の女の子を見つけたんです」

「女の子? レクイエムに?」

「歳は10歳くらいで……、あの、朝起きたらはぐれてしまって……、なにか知りませんか?」

「その子どころか俺っちも長くレクイエムにはいるが、子供は見たことねぇなあ。見間違いじゃねえのかぃ?」

 ポールは首を傾げたが、キャリーは必死に説明する。

「いえ、確かにいたんです。一緒に寝ていたんですが、朝になるといなくなってて、探しても見つからなくて、あの、もしかしたらオラトリオに向かったんじゃないかって」

「わかった。情報が入ったら教えるぜぇ。なんか俺っちはキャリーちゃんの知りたい事なんにも知らねえなあ」

 ポールはドレッドヘアーをガシガシ掻いた。

「それよりそろそろお昼にしましょう」

「キャリーも食べてくだろ?」

「あの、いいんですか?」

「当然でしょ。手伝いなさい」

 ドンを訪ねに行った二人は置いておいて残った三人は昼食をとることにした。
 キッチンでポールの料理をキャリーが手伝い、それらをテーブルに並べた。
 久しぶりに食べるポール謹製の料理はとても暖かく、ララがいなくなってから焦燥に疲れていたキャリーの心を潤した。
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