犯罪者達の鎮魂曲(レクイエム)

いずくかける

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犯罪者達の前奏曲(プレリュード)

孤独を抱く少女

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 男たちに連れられたララが、次に目を覚ましたのは暗い部屋の中だった。
 縦横4mほどの四角い部屋。ドアが一つ。そのドアの隙間からわずかに明かりが入り込み、部屋の形を浮かび上がらせている。
 周りを見渡し、ララは部屋から出ようと試みたが、ドアにはカギがかけられていた。
 ララは結局、その場にうずくまる事しかできなかった。うずくまり、そして血を流し倒れるドドを思い出して、静かに泣いた。

 いつも通りの1日だった。決して人に恨まれる様な事はしていない。なんであんなことに……。ララは何度も何度も考えたが、結論など出るはずもない。

 ララが一人泣いていると、ドアの外からカツカツと人の歩く音がする。ララは怯えながら、部屋の隅にピットリと張り付いた。
 ゆっくりとドアが開いて光が入る。ララはその光のシルエットで一人の男が部屋に入ってきたと理解した。男が部屋の電気をつけると、顔がしっかりと見える。男は60代くらいだが、威圧感を感じさせる老人だった。

 老人はララにチラリと目を落とすと、右手に付けた機械を操作しだし、次にはその機械になにやら話し始めた。

「貴様の娘はこちらで確保した。少々みすぼらしいが……、可愛らしい子じゃないか」

『…………』

 老人が話しかけても機械からは何の返事もない。老人は小さく舌打ちすると、今度はララに向かって語りかけた。

「これに向かって自分の名前を言いなさい」

 老人はララに右手を近づける。ララを睨み付ける老人の目は徹底的に冷酷で、怯えるララはそれに従うしかなかった。

「ララ……、ララ・ゴシック……」

 ララに名乗らせると、老人は再び機械に話し始める。

「娘の命が惜しければ、今すぐあれを返してもらおうか」

 ララには老人が何を言ってるのかわからなかった。

 自分の事を娘だと呼ぶ。

 母はもう死んだと、ドドにそう聞かされていたララには何の話だかわからない。
 暫くの沈黙の後、機械から静かに声が聞こえた。

『これは絶対に渡さないわ。その娘は好きにしなさい』

 機械からは冷酷な返事が返る。
 ララは恐る恐る尋ねた。

「おかあさん……なの?」

 ララが話しかけても返事は返ってこなかった。
 返事をせぬ機械に代わり、老人がララに答える。

「ああそうだ。お前の生みの親だ。だがかわいそうに。こいつは君の事を何とも思ってないらしい」

 老人は機械の先にいる女を挑発するようにそう言い放ったが、それは無駄だった。
 女の決意は娘の命がかかろうと変わる事はなかったから。
 対して、ララにとっても顔も覚えていない母親が今更生きていたとしてもどうでもよかった。自分の親はドド唯一人。ララは長年そう思ってきたからだ。

「まあいい。渡さないと言うのならもう用済みだ。お前の娘には死んでもらおう」

 そう言うと老人はなにかを思いついたのか、不気味な笑みでニヤリと笑った。

「レクイエムの中でな……」

 老人はそう言い終わると機械を操作する。どうやら、女との通話を切ったようだ。

「あなたが……、ドドおじさんを殺したの? なんで……こんな事をしたの? 私達が……何をしたの?」

 ララにとっては、機械の先にいる相手などどうでも良かった。老人が誰であろうとどうでも良かった。ただ、大切な人が奪われた理由だけは何としてでも聞き出したかった。
 ため息をつくと、老人は悪びれもなく答える。

「君の母親をおびき寄せるために君が必要だったからだ。結局、君にそれだけの価値は無かったがな……」

 ララはそれを聞くと怒りで震え、抑えられず叫んだ。

「ドドおじさんも私も関係ないじゃない!!」

 ララは老人の手に噛みついた。
 老人の手からは血が流れ出る。

「なにをする!」

 老人はララを跳ね飛ばし、部屋から出ようとした。

「待て! 私をここから出せ!」

 叫び、再び噛みつこうとしたララを再度跳ね飛ばし、男は部屋の外で待機していた男に話しかける。

「こいつを入れるのは後だ。先にあいつを入れる」

「ハッ!」

 待機していた男は部屋から出た老人に敬礼をし、部屋を固く閉ざすと鍵を閉めた。

 生まれた時からララは母親に何もされてこなかった。
 それならまだしも、こんな事に巻き込み、さらには自分の命を簡単に見捨てた母親を、ララは親の仇の如く嫌悪した。嫌、機械の先の女は、ララにとって肉親であろうとドドを殺した親の仇であったのだ。

 ララは悔しさと悲しさで気がおかしくなりそうだった。
 今まで2人が積み上げてきたものが、歴史が、思いが、自分の母親を呼び出すなんてどうでもいい事の為にすべて壊され、踏みにじられた。許せなかった。だがしかし、ララには復讐する力など無い。

 部屋の隅でララは泣き続けた。ドドを思い出し、そして泣きつかれ、眠りにつき、また目が覚めると、ララの頭は少し冷静になっていた。
 ララにはもう何も残ってなかった。この部屋の外に出てもすることがない。行くところがない。知っている人間もいない。
 ララにとってドドが全てであり、それが失われた今、ララには希望が無くなった。

 数時間後、部屋の扉が空き、また知らない男が中に入り食料をララへと渡す。
 彼らはここではなく、レクイエムの内部でララに死んでもらわなければ後々面倒だと知っていた。
 故にララにはちゃんと食事を与え続けたが、生きる気力を失ったララはそれらを口にすることは無かった。


*** *** ***


 ララが部屋に入れられてから4日が過ぎる。
 気付けばララは男たちに連れられて部屋の外へと出されていた。
 栄養を取っていなかったララはふらふらと何度も倒れ、その度に男たちはララを起こす。

 部屋の外にはひたすら長い廊下が続いていた。
 廊下を歩いて行くと小さなドアに行き当たる。男がそのドアを開けると、長く、暗い通路が先まで続いている。
 ララは男たちに支えられながら、ひたすらその通路を歩かされた。

 暗く、狭く、長い通路の終点。
 小さな扉の前にララは立たされた。
 男の一人はララに話しかける。

「悪く思わないでくれ。命令なんだ……」

 ララはそれを聞いても何も考えず、何も答えなかった。
 自分は殺されると、本能的には感じていた。だが別にそれでもいい。ララはそう思っていた。

 扉が開き始める。大きな音が鳴り響き、扉が開ききると男は辛そうに口を開ける。

「さあ、行け!」

 ララは男に背中を押され、ふらふらと扉の外へと歩き出した。ララが外へ出たと同時に扉は締まり始める。
 背後からすまない、と聞こえたが、ララは振り向きもせず歩き続ける。
 扉を抜けると屋外に出る。見上げると空は暗く、星が出ていた。ララは死に場所を求めて前に進み続ける。






 ララが連れてこられた場所はレクイエム。







 あらゆる凶悪犯罪を犯し、投獄された受刑者達。
 その受刑者達を管理する無慈悲な刑殺官。
 さらに刑殺官ですら手が出せない3人の要注意人物。
 見渡す限り危険人物だらけのこの国で、
 母のいない少女は出会う。

 ワフク姿に刀を下げた天下無双の用心棒と
 二丁の拳銃を構え何者も寄せ付けない復讐者に。
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