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犯罪者達の前奏曲(プレリュード)
夢語を抱く英雄3
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「おい! まだなのか!? 早くしろ!!」
電話を受け、直ぐにレクイエムからヘリで飛び立っていたセルゲイは、そのままグラミー市内にある大学病院へと向かった。ヘリの中で電話を通して話を詳しく聞くうち、宿舎内で被害に巻き込まれたマリアが、一時前にそこに緊急搬送されたと聞かされたからだ。
息子のハルゲイの方はというと、学校帰りに友達の家に遊びに行っていたらしく、宿舎には帰っていなかった。そのままその家に連絡とり、預かってもらっていた。
病院の屋上に停まろうとするヘリをセルゲイは急かした。
バタバタとうるさいヘリのプロペラ音が、一層セルゲイの不安と、絶望と、焦燥を掻き立てる。
ヘリが着陸すると、屋上で待ち構えていた部下たちがセルゲイをマリアのところへと案内する。
「セルゲイ様、どうぞこちらへ」
「マリアは……マリアは、無事なのか!?」
部下たちはばつの悪そうな顔をしていた。
それを見てセルゲイは、状況は最悪だと感じ取った。全身から冷や汗が出るのを止められない。表情が不安に歪まされていく。
「セルゲイ様、どうか落ち着いて聞いてください。マリア様は……」
手をかざし、部下の口を止めるとセルゲイはもう何も聞かなかった。
*** *** ***
マリアのいる病室に着くと、セルゲイの目に入ったのは、医者たちに囲まれ、ベッドで横たわるマリアの姿だった。
全身を延命用の医療器具に繋がれ包帯で巻かれる中、かろうじて目と口が見えている。そんな状態でも、セルゲイにはそれがマリアだと一目でわかった。
「マリア!!」
病室に入るなり、セルゲイはマリアに駆け寄った。
その声に気付いたのか、マリアは視線だけをセルゲイに送った。
「ああ、マリア……、どうして……、こんなことに……」
マリアの瞳から涙がこぼれた。マリアは今までセルゲイを待っていた。
ただ、それだけの為に、自分の消えかかる命の灯を絶やさない様に耐えていた。その涙は、安堵の涙か、絶望の涙か、セルゲイには知る由もなかった。
セルゲイは周りでただただ見ているだけの医者に向かって怒鳴り散らした。
「お前ら何してる! 早くマリアを治療しろ!!」
怒りに染まるセルゲイに、医者の一人が顔色を窺うように答えた。
「セルゲイ様、マリア様はほぼ全身に三度のやけどを負っていまして、これ以上の治療は――」
「そんな事は聞いていない! 金ならいくらでも払う! いますぐマリアを治せ!!」
病院中にセルゲイの怒声が響き渡った。だが、周りの事に気を配らせる余裕もない程、セルゲイは必死だった。
「……あなた、お医者様はよくしてくれましたよ……」
か細い声で、マリアはセルゲイに話しかけた。
「マリア!! 安心しろマリア! お前は絶対に治してみせる!!」
セルゲイはそう言って励ましたが、もう自分に残された時間は長くないと、マリアは気付いていた。
これだけそうそうたる名医達が匙を投げるほどの重症であるにもかかわらず、マリア本人は体の痛みをほとんど感じていなかったからだ。
セルゲイも、心の奥ではすでに悟っていたのかもしれない。あふれる涙を止めることが出来なかった。
「……私は、最後の時にあなたの顔が見れて、本当に幸せです……」
「何を言ってるんだマリア!? 最後だなんて、そんな事を言うな……」
「あなた、私の手を……握ってくれませんか?」
「ああ、手なんかいくらでも握ってやる。お前の望むことならなんでもしてやる。だから死ぬな! 死なないでくれマリア!」
「暖かいあなたの手……あなたと過ごした日々は……私の人生で最も……幸福な時間でした……」
「ああ、私もだマリア。これからだってそうさ……。そうだ! 三人で遊園地に行くんだろう!? ハルゲイも、きっと楽しみにしているぞ!! 一緒にパレードを見よう。弁当を作るのもいい! 私の料理を、久しく食べて無いだろう!?」
「ふふ……覚えていますよ……あまり……おいしくなかったです……」
「ハハ、今度は大丈夫さ! ちゃんとレシピ通りに作るよ、マリア」
「あなた……そんなに悲しい顔をしないでください……」
「何言ってるんだマリア、私がおまえと話していてそんな顔をするわけないじゃないか。ほら! 笑っているだろう!?」
「あなたの…… そういう…… 優しいところが…… 好きでした……」
「マリア、お願いだ! 私を一人にしないでくれ! お前がいなかったら…… 私は……」
「あなたは…… 一人じゃありませんよ……」
「わかってる。わかっているよ、マリア……」
「ハルゲイを…… よろしくお願いします……」
「わかっているよマリア…… あの子は必ず立派に育てて見せる。私とお前の子供だぞ?」
「ハルゲイは、どんな大人に育つだろう…… ハハ、政治家になるなんて言ったら止めないといけないな。私と違い、家族との時間を充分に過ごしてほしいからな」
「あの子が大人になる前に、もっといろんなところに連れてってやろう。遊園地だけじゃなく、海水浴とか、キャンプとか……。これからはもっと休みをとるようにするよ。マリア、私の生まれ育った村にも行ってないだろう? 嫌な思い出もあるが、自然が豊かで暖かい人がたくさんいるんだ」
「議員を引退したら……。ハルゲイが家を出たら、二人でそこに引っ越すのもいいな。空気はきれいだし、きっとのんびり過ごすことができるさ……」
「マリア……?」
「頼むマリア、返事をしてくれ…… 目を開けてくれ……」
「マリア…… お願いだ…… マリア……」
「 ……リア…… 」
電話を受け、直ぐにレクイエムからヘリで飛び立っていたセルゲイは、そのままグラミー市内にある大学病院へと向かった。ヘリの中で電話を通して話を詳しく聞くうち、宿舎内で被害に巻き込まれたマリアが、一時前にそこに緊急搬送されたと聞かされたからだ。
息子のハルゲイの方はというと、学校帰りに友達の家に遊びに行っていたらしく、宿舎には帰っていなかった。そのままその家に連絡とり、預かってもらっていた。
病院の屋上に停まろうとするヘリをセルゲイは急かした。
バタバタとうるさいヘリのプロペラ音が、一層セルゲイの不安と、絶望と、焦燥を掻き立てる。
ヘリが着陸すると、屋上で待ち構えていた部下たちがセルゲイをマリアのところへと案内する。
「セルゲイ様、どうぞこちらへ」
「マリアは……マリアは、無事なのか!?」
部下たちはばつの悪そうな顔をしていた。
それを見てセルゲイは、状況は最悪だと感じ取った。全身から冷や汗が出るのを止められない。表情が不安に歪まされていく。
「セルゲイ様、どうか落ち着いて聞いてください。マリア様は……」
手をかざし、部下の口を止めるとセルゲイはもう何も聞かなかった。
*** *** ***
マリアのいる病室に着くと、セルゲイの目に入ったのは、医者たちに囲まれ、ベッドで横たわるマリアの姿だった。
全身を延命用の医療器具に繋がれ包帯で巻かれる中、かろうじて目と口が見えている。そんな状態でも、セルゲイにはそれがマリアだと一目でわかった。
「マリア!!」
病室に入るなり、セルゲイはマリアに駆け寄った。
その声に気付いたのか、マリアは視線だけをセルゲイに送った。
「ああ、マリア……、どうして……、こんなことに……」
マリアの瞳から涙がこぼれた。マリアは今までセルゲイを待っていた。
ただ、それだけの為に、自分の消えかかる命の灯を絶やさない様に耐えていた。その涙は、安堵の涙か、絶望の涙か、セルゲイには知る由もなかった。
セルゲイは周りでただただ見ているだけの医者に向かって怒鳴り散らした。
「お前ら何してる! 早くマリアを治療しろ!!」
怒りに染まるセルゲイに、医者の一人が顔色を窺うように答えた。
「セルゲイ様、マリア様はほぼ全身に三度のやけどを負っていまして、これ以上の治療は――」
「そんな事は聞いていない! 金ならいくらでも払う! いますぐマリアを治せ!!」
病院中にセルゲイの怒声が響き渡った。だが、周りの事に気を配らせる余裕もない程、セルゲイは必死だった。
「……あなた、お医者様はよくしてくれましたよ……」
か細い声で、マリアはセルゲイに話しかけた。
「マリア!! 安心しろマリア! お前は絶対に治してみせる!!」
セルゲイはそう言って励ましたが、もう自分に残された時間は長くないと、マリアは気付いていた。
これだけそうそうたる名医達が匙を投げるほどの重症であるにもかかわらず、マリア本人は体の痛みをほとんど感じていなかったからだ。
セルゲイも、心の奥ではすでに悟っていたのかもしれない。あふれる涙を止めることが出来なかった。
「……私は、最後の時にあなたの顔が見れて、本当に幸せです……」
「何を言ってるんだマリア!? 最後だなんて、そんな事を言うな……」
「あなた、私の手を……握ってくれませんか?」
「ああ、手なんかいくらでも握ってやる。お前の望むことならなんでもしてやる。だから死ぬな! 死なないでくれマリア!」
「暖かいあなたの手……あなたと過ごした日々は……私の人生で最も……幸福な時間でした……」
「ああ、私もだマリア。これからだってそうさ……。そうだ! 三人で遊園地に行くんだろう!? ハルゲイも、きっと楽しみにしているぞ!! 一緒にパレードを見よう。弁当を作るのもいい! 私の料理を、久しく食べて無いだろう!?」
「ふふ……覚えていますよ……あまり……おいしくなかったです……」
「ハハ、今度は大丈夫さ! ちゃんとレシピ通りに作るよ、マリア」
「あなた……そんなに悲しい顔をしないでください……」
「何言ってるんだマリア、私がおまえと話していてそんな顔をするわけないじゃないか。ほら! 笑っているだろう!?」
「あなたの…… そういう…… 優しいところが…… 好きでした……」
「マリア、お願いだ! 私を一人にしないでくれ! お前がいなかったら…… 私は……」
「あなたは…… 一人じゃありませんよ……」
「わかってる。わかっているよ、マリア……」
「ハルゲイを…… よろしくお願いします……」
「わかっているよマリア…… あの子は必ず立派に育てて見せる。私とお前の子供だぞ?」
「ハルゲイは、どんな大人に育つだろう…… ハハ、政治家になるなんて言ったら止めないといけないな。私と違い、家族との時間を充分に過ごしてほしいからな」
「あの子が大人になる前に、もっといろんなところに連れてってやろう。遊園地だけじゃなく、海水浴とか、キャンプとか……。これからはもっと休みをとるようにするよ。マリア、私の生まれ育った村にも行ってないだろう? 嫌な思い出もあるが、自然が豊かで暖かい人がたくさんいるんだ」
「議員を引退したら……。ハルゲイが家を出たら、二人でそこに引っ越すのもいいな。空気はきれいだし、きっとのんびり過ごすことができるさ……」
「マリア……?」
「頼むマリア、返事をしてくれ…… 目を開けてくれ……」
「マリア…… お願いだ…… マリア……」
「 ……リア…… 」
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