ユーチューバーに転職した話する?

いずくかける

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るみのげーむじっきょうー!

21時からバイトの時間まで生配信しますー

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「私にも紹介しなさい」

 師匠から驚きの返事が返ってきた。
 予想だにしていない返事だ。
 読者の諸君。大丈夫。話を飛ばしてしまっているわけじゃない。簡易的に説明しよう。

 師匠が怒っていなかった理由。
 それは俺がここ数日上げた動画のクオリティにあった。
 しっかりとした衣装。練られた企画。そして高い編集能力。
 一体この数日間に何があったのかと尋ねられた俺は、奇妙な隣人を仲間に引き込んだ事を告げた。
 次の瞬間、師匠から帰ってきた答えがこのセリフだったのである。

「でも師匠、やめた方がいいと思うぜ? いずくは完全に性犯罪者の瞳をしているぞ?」

「それでもあの編集能力は凄いわ。私の動画も仕上げてもらいたいくらいよ」

 やったないずく! 師匠に認められるなんて大したもんじゃないか。
 恐らく師匠に会わせるといずくに告げたら、奴は小躍りするほど喜ぶだろう。
 師匠もそれを望んでいる。
 だがしかし! それはあまりにも危険だ!!
 師匠はかわいい。それは間違いない。
 恐らく後5年、10年もしたら街を歩き誰もが振り向くレベルの美女になるだろう。
 その容姿にいずくが反応しないわけがない。
 下手したらガムテープや、高価な撮影機材の詰まったハイエースを借りてきてもおかしくはない。
 俺にはわかる!!

「いやあ、やっぱりやめといた方がいいと思うぜ? 俺は友人を犯罪者になんてしたくないし、師匠を被害者にもしたくないんだよなあ……」

「なによ! あー、わかった。幸おじさん自分の動画の為に独り占めする気なんだー」

 な、なにを言う!?
 俺は師匠の身を案じて言ってやっているというのに!!

「いやいや師匠。この格好を見たらわかるだろ? 平然と家からこんなコスプレを何着も持ってくるようなやつなんだぞ?」

「じゃあわかった。幸おじさんと一緒の時しか会わない。それでいいでしょ?」

 どうやら俺は少しは師匠に信頼されているらしい。
 まあその条件なら問題ないか。
 よく考えたら今までよく働いてくれているいずくに、少しは報酬も支払っておくべきかもしれないしな。

「わかったよ師匠。ただし約束は絶対に守ってくれよ? 俺といるとき以外は会わない」

「なんかそこだけ聞くと束縛の強い彼氏みたいね……。もしかして幸おじさん。私が寝取られちゃうのが怖いの?」

「ソウダヨ。ソノトオリダヨシショー。オレハシショーガダーイスキナンダ」

 片言で答えると師匠はむすっとした顔を向けてきた。
 今日の師匠はなんだかいじらしい。

「で? どうする? 家すぐそこだけど今から行くか?」

「そうね。まだ早いし……、今日の講義は明日に回して、今から行きましょう」

 俺と師匠は荒川公園を後にして福島ハイツに向けて歩き出した。
 歩けばすぐについてしまう。
 ちょっと顔を見せる程度だったら、師匠の親も心配するような時間にはならないだろう。

「大分寒くなってきたよなー。冬服買わないとな……」

「なに。幸おじさん冬服持ってないの?」

「ああ、今まで会社のドカジャン着てたから……」

 仕事はおろかパチンコに行く時すら愛用していた俺のドカジャンは、仕事を辞めた時に会社に返却済みだ。
 さすがにこれからの季節シャツ一枚は肌身に堪える。
 まったく、金がないって言うのに……

「師匠なんかだと服一つとっても商品レビューが出来るからいいよな。俺がやっても需要ないだろうし」

「わかってきたじゃない。そうよ。私と幸おじさんはすでに求められているものが違うのよ」

「なんか損した気分だなあ。それにしてもこんだけ寒いと鍋が食べたくなってくるな……」

「じゃあ私とコラボしましょうよ。鍋パーティ。幸おじさんの家でね」

 師匠とのコラボか。
 これはまた再生数が跳ね上がりそうだぜ。

「コラボって言えばさ、またこの辺でユーチューバー見つけたんだよ。ゲーム実況者」

「ふーん。どれくらいチャンネル登録者がいるの?」

「10万人」

「ふーん。10万人ねえ、大したこと……10万人!?」

 師匠は驚愕して立ち止まった。

「幸おじさん!! それ本当なの!?」

「あ、ああ。同じバイト先でさ……。ルミって言うんだけど……」

「是非一緒に動画を作りたいわね! 後でその人も紹介してよ!!」

 ルミはどう思うんだろうな。
 あまり交友関係は持ってそうにないが、でも、だからこそ師匠みたいな人と関わってた方がいいのかもしれないな。
 後でルミに聞いてみよう。





 師匠と話していると福島ハイツに辿り着いた。
 俺と師匠はカンカンと音を立てながら階段を上る。
 俺の部屋を通り過ぎ、隣の部屋をノックした。チャイム? そんな先進的な機能、このオンボロアパートについているわけがないだろう。


ドンドンドン


「おーい。いずくー。開けろー」


ドンドンドン


「いずくー。寝てんのかー?」

 反応がない。
 まさか死んでるのか?


ドンドンドン


「警察だ!! ここを開けろ!!」


 俺がそう言うと野生のいずくが慌てて飛び出てきた。

「す、すいません!! もうしません!!」

「よう。いずく」

「なんだ幸か……。驚かせないでくれよ」

 ちょっとした冗談のつもりだったんだが、俺は底知れぬ闇を感じてしまった。
 だが、人間には知らない方がいい事もあるのだ。深く聞かない事にしよう。

「あれ? その子は?」

 いずくはどうやら師匠の存在に気付いたようだ。

「始めましていずくさん。私、まらちゃんねるを運営しているまらと言います!」

 愛想よく師匠は自己紹介をした。
 俺はその笑顔を見たことがある。
 YouTubeの中でな!!

「ああ! くまさんパンツの子か! どうしたの幸? 絶対に紹介しないって言ってたのに」

「いやあ、師匠がいずくの編集見てさ。まらちゃんねるの編集もお願いしたいらしいんだよ」

「なんだ。そう言う事? なんかちょっと嬉しいなあ。僕は別に構わないよ? ……あれ? どうしたの?」

 ん?
 俺は師匠に視線を落とした。
 わなわなと震えている。
 顔を覗くと、いつの間にかまらチャンネルモードから師匠モードへと変貌していた。

「ど……どうしたの? 師匠。やっぱ辞める?」

「……んで知ってんだ……」

「え?」

「なんで私がくまさんパンツって知ってんだあああああああああああ!!!」

 師匠は覗き込んでいた俺の顔面に拳骨をめり込ませた。
 メキョメキョメキョッ!!
 っと不快音を上げる俺の鼻。
 鼻の骨が複雑骨折した。鼻血が一気に吹き出てくる。

 世の諸君。
 不正は必ず暴かれる時が来る。
 いいか。一度しか言わないぞ?
 決して女子小学生のパンチラ動画を報酬に動画の撮影協力者を募ろうとするな。
 コメディ小説じゃなかったら病院ものだ。





 結局、師匠はいずくのパソコンのHDDから例の動画を探し出し削除した。
 いずくは涙を流しながらその様子を見ているしかできなかった。
 だがもとはと言えばいずくの失言が原因である。ざまあみろ!!

 いずくは師匠の動画の仕上げも担当することになった。
 やり方としては俺が講義の際に師匠からSDカードを受け取ってそれを編集して仕上げる形だ。
 学校の無い土日祝日や速さが命の新商品レビューなどでは使えない手だが、師匠はそれでも構わないと普通に撮影した回だけはお願いすることにしたらしい。
 いずくの仕事が増えたことに懸念した俺だがその心配はどうやら無用だった。
 誰よりも早く師匠の動画を見れることをいずくが早くも生きがいにしてしまっているからだ。

 そこまで決定して俺たちは解散していた。
 俺はと言うとそれから風呂に入り、飯を食い、軽く仮眠をとって着替えを済ませていた。
 そう、そろそろ夜勤の時間である。

 家から出ると空に星が瞬いている。
 夕暮れの時点ですでに寒かったが、今はそれ以上だ。

 カンカンと階段を降りた俺はルミの存在を思い出した。
 あれだけ泥酔していたのである。もしかしてまだ寝てるんじゃないのか?
 俺はルミの部屋の戸を叩くことにした。


ドンドンドン


「ルミ―。起きてるか―? 仕事の時間だぞー?」

「……」

「まだ行かないのかー? 遅刻するぞー!!」

「……」

 返事は返ってこなかった。
 やっぱり寝てるのか……。
 俺は起こしてやろうと思い、戸を開けた。

 電気は点いている。
 なにやら物音もする。

「おーい。ルミ―。時間だぞー?」

「……」

 まさか死んでるのか。
 そう思った俺は靴を脱いで中に上がった。

 ルミは起きていた。
 耳にヘッドフォンを付けてパソコンをいじっている。
 俺の存在にはまだ気づかないようだ。

「おーーーーーい!! ルミーーーーー!!」

 耳元で叫んだらビクッと肩を震わせて俺の方に振りむいた。
 耳からヘッドフォンを取り外す。

「びっくりしたー! どうしたの幸ちゃん?」

「どうしたのじゃなくて。仕事の時間だってのに返事がないから心配して上がってきたんだよ」

「え!? もうそんな時間!?」

 ルミは置いてあった目覚まし時計を見て慌てている。
 パソコンを覗くと、なにやら小さいキャラが戦っている。
 手を離したルミのキャラクターは敵にやられて死んでしまった。

「くっそーーー!! 今いいとこなのにーーー!!」

「ゲーム実況か? 帰ってきて撮ればいいだろう。ほら、用意しろよ。本当に遅刻するぞ?」

「生配信なんだよー。チーム戦だしさー。最低でもあと10分はかかっちゃうよー」

「生配信? なんだそれ?」

 ルミに聞くところによると、それはYouTubeのまた違う配信方法らしい。
 YouTube Liveと呼ばれるその機能は、まあ簡単に言えばテレビの生放送のようなものだ。

「ほらこれ見て幸ちゃん。コメントが張られていくでしょ?」

 俺はルミに言われた通りパソコンのモニターを覗いた。


――――――――――――――――――――――――――
おい、今男の声がしなかったか!?
ありえん。永久処女のルミプロに男など
今のデス痛すぎだろ。相手に完全にバロン獲られたろ
親フラとみた
www
GG
――――――――――――――――――――――――――

 モニターにはコメントが絶え間なく張られ続けている。
 リアルタイムで張られるコメントは臨場感というか、皆で話しているような一体感があった。
 なんだろう。風、吹いている。確実に。って感じだ。

「へえ、おもしろいな」

「でしょでしょ? 2525とかとぅいっちとかの方が有名だけどYouTubeにもあるんだよ」

「それはそうとルミ、もう時間ないけどどうすんの?」

「んんんんん!! 先行ってて幸ちゃん!! 私のせいで幸ちゃんまで遅刻したら悪いよ!!」

「おいおいゲームの為に仕事を見捨てる気か!?」

 ルミは言った。
 その時のルミの表情は印象的で、今でも鮮明的に脳に焼き付いている。
 全てを諦め、全てを悟り、全てを放り投げたような表情だった。

「うちの人生は、常にゲーム優先なのさっ……」

 そう言うとルミは再びキャラクターを操作しだした。

「おいおいまじかよ……」

「大丈夫だよー。すでにうちより幸ちゃんの方が仕事できるし」

「まだ一日しか働いてないんだが!?」

「とりあえずこれ終わったらうちも向かうからさー。先行っててよー」

 俺はスマホを取り出し時間を確認する。
 もう、結構本格的にヤバい時間だ。

「それじゃあ先行くからな!!」

「あいおー。ここはうちに任せて先に行けぇ!!」

 俺はルミを残しバイト先へと走り出した。
 俺は忘れない。
 ルミと言う同僚がいた事を。
 ルミと言う先輩がいた事を。
 ルミと言う友人がいた事を。



 ……なんだこれ?
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