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第2章:秀吉の憶えめでたくなろう
今さら、やばい事実を認識
しおりを挟む「無理だ」
「やっぱ、無理?」
「無理。1丁1年!
それだけ時間をかけなきゃライフリングは出来ない!」
おっさん臭い大男の幼馴染、冬木頼次があぐらをかき、腕を組んでそっぽを向く。
到底、俺と同じ一四歳には見えない。
そのおっさん少年が、あの冬木スペシャルライフル銃を作るのは『芸術品』を作るのと変わらないと、量産を拒んでいるのだ。
第一、 ライフリングする設備もない。この凝り性な奴の手作業で難題を可能にしたのだから。
ここは俺の新居。
信長の居城、清洲城下の足軽長屋に毛が生えたような小さい屋敷。
200貫文(年収約4000万円)も禄があれば、もう少しましな屋敷に住むのが普通だ。
だが!
銭を節約しなければ、信長の厳命である『鉄砲の量産』に必要な費用を確保できない。こう言うのって大抵持ち出し、つまり自腹なんだよね。最初は。
ここに居を構えて最初にしたことは、この冬木を呼び寄せる事だ。
「一緒にあ~そ~ぼ~♪」
「い~い~よ~♪」
という、エニグマ暗号よりも破られにくい極秘の手紙のやり取りで、美濃の国からこちらへ引っ越してもらった。
また一緒にオタク的な趣味の世界に没頭するのだ。
だが俺の場合は、主持ちになり、趣味の時間が限られてしまった。クソッ! 生活費、いや材料費を稼がねば。
短気な信長のことだ。
可及的速やかに鉄砲の量産をしないと、多分首が飛ぶ。大抵のゲームはそうなっている。
何とかしないと就職早々、クビになる。いや本当に首が飛ぶんだよな。この時代。
「ライフリング以外の改造は出来るのか? 銃床をつけたりカルカ(火薬詰め込むときの棒)を青銅にしたりとか」
「それは出来る」
「じゃ、それオーダーしていい?」
このくらいは即座にできるだろう。
「ああ。だいたい半年でできる」
「半年かよ!? 銃床付けるなら、ガリガリ・クリクリ・カチッ。できた~。とかで1日でできるだろ? お前の手際なら」
冬木の目が言っている。
それではつまらない、と。
……あ~わかったよ。こいつは俺と同じく趣味人だ。
他は適当。だが趣味には命を掛ける!
「じゃ、じゃあ。設計図描いてくれ! それなら他の鉄砲職人に複製してもらえる」
「い・や・だ」
くぅううう。
こいつはこうなるとテコでも動かないからなぁ。
そうだ! やはりいつものようにエサで釣ろう!
以前は、酒で釣れた。
となると、酒を用意だ!
俺は城下町の酒屋に駆けていく。
◇ ◇ ◇ ◇
「これはもう飽きた」
冬木の野郎。
俺の買ってきた『どぶろく』(濁り酒)を一口飲んで、ぷいっと横を向いてしまった。
この男、贅沢になったな。
いや、味をしめたのか。
俺が頼みごとをするときは、酒なんかをプレゼントするから、慣れてきやがった。
しかたない。
もっと高級なやつを。
◇ ◇ ◇ ◇
「おお! これはうまいぞ! みっちゃん。感謝!
毎日、これちょうだい」
懐の財布を開けて、逆さまにして振り振り、こいつ見せつける。
「設計図を信長さまに提出して御ほうびもらったら、そのすみ酒(清酒)、また買って来るから。好きな皿に絵付けするくらいの速さで書いてくれ」
「あ~。好きな絵は半年かかるけどいい?」
だめだ。
やはりこいつは、とことん俺とおんなじ趣味人だった。
「仕事としてやってくれ~~!
納期は3日!
半刻でも遅れれば、クビだぁ!!!!」
そうしないと俺のリアル首が飛ぶのだが……
◇ ◇ ◇ ◇
「ようやった!」
目の前に信長のご機嫌顔。
そういえばゲームのフレーバーテキストで、信長は戦功があった武将にその場で小粒金などを、すぐさま与えていたとか読んだ記憶がある。
これはもしや、このままご褒美が……
「では下がってよい」
えっ。
それだけ?
ここは小粒金1個でいいんで、欲しいです。
さすがにそれ口に出すわけにはいかないが。
「? 何か言いたそうじゃな」
どうしたものか。
「その顔、まだ出来る仕事がありそうじゃな。
申せ!」
……仕事が増えるが仕方ない。
首だけになるのは嫌だ!
あれを献策するしかない。
「はっ。
鉄砲はそれだけでは役に立ちませぬ。
一番重要なのは訓練!
それに必要なものは、火薬!
それを作る材料の硝石は、現在堺や博多から唐国(明国)の高級品を買っております。
これがネックとなり、多くの大名は鉄砲を使用しないと見ました。
ゆえに、この量産が最重要かと。
これをお任せさせてくださいませ」
さっきの設計図の紙を近習に渡した信長。
板の間に膝をついている俺をじろりと見降ろし、顔を近づけて来た。
そして、あの顔を始めて見せてくれた。
ニヤリと笑い、甲高い大声で俺を褒めた。
「よう見た!
誰かあれを持ってこい」
テンプレの『あれ』でわかる近習は凄いな。
俺には絶対に無理です。
座敷の中からではなく庭から回り込んできた小男が、信長に高級な酒の入っていそうな徳利を渡した。
信長自身で褒美を手渡してくれるなんて、結構な優遇?
「これをやる。益々励め。
硝石の製造は任せる。
必要なものは、この猿に言え。
手配する」
酒を持ってきた小男は、信長に深々と頭を下げ、こう口上した。
「はっ。
この木下藤吉郎!
一命に変えても、火薬の製造を成功させる手助けをさせていただきまする!」
へっ?
藤吉郎?
んじゃ、これ、秀吉じゃん。
俺はこちらに顔を向けて来た小男の顔を見て。
『ああ。お猿さんだ』
と、やっぱり思った。
ニコニコした、いかにも人を楽しくさせる笑顔。
こいつと仲良くすれば、憧れの働かなくてもいい城持ち大名になれるかも!?っとホワイト職場に思いを馳せるのだった。
だって信長の織田家ってブラックだから、早く秀吉の時代になってほしいよ。
あ~あ、誰か早く信長を本能寺で倒してくれないかな。
あ……
本能寺?
誰が謀反?
明智光秀って、俺じゃん!
こいつに倒される奴じゃん!!
これは、仲良くしないとヤバイ説?
俺がんばる!
秀吉君をよいしょして、無事に桃山時代でも生きてたいです!
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