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《報告の三》
しおりを挟む「そうか、下手人は芥川三茶であったか!」
力原野心様が、興奮した様子で叫ぶ。
「しかし、謎時よ。おぬしが腕っぷしの強い若武者であったとは。ふらつかせておくのはもったいないな。どうだ、その隠密ともども、儂に抱えられんか」
「いや、そういうのは、ちょっと……」
烏丸様が、横目で力原様を睨んだ。
「勧誘はあとにされよ。……しかし、噂好きの力原殿が、浮気刀を知らんとは思わなんだ。番付には載らんが、道場荒らしの悪名については、それなりに有名だろうに」
荒らしてないです。出稽古です。
「儂とて、全ての噂を知り尽くしているわけではないとも。ともあれ、よくやった、榊原謎時よ。これよりは、芥川三茶への沙汰を急ぐとしよう。連れてきたのであろう? 今は榊原屋敷か?」
「お待ちください、力原様」
ここからだ、と気合いを入れ直す。
「まだ、全ての報告が終わっておりません」
力原様が片眉を上げ、烏丸様はかすかに目を見開いた。当然か。大目付を呼び止めるなど、なかなかの無礼だ。
「これまでの話では、まだ、解けていない謎があるのでございます」
「かんぬきの謎か。それがどうしたというのだ」
力原様は片眉を上げたまま、伺うように自分の目を見た。
「自白に勝る証拠はなく、芥川には殺害が可能だったんだろう? 打ち首は免れんが、なに、先代への忠心に免じて、他の侵入者については不問とし、黒姫様についても余生を良い寺で過ごせるよう、便宜を図るとしようじゃないか」
「まあ、待たれよ」
話を終わらせようとする力原様を再度止めたのは、烏丸様だ。
「拙者にはどうも、芥川殿が下手人だとは思えん。あれほどの忠義者、主に義が無いと感じたならば、正面から討ち、しかるのちに腹を召すだろう」
力原様が鼻を鳴らした。
「烏丸殿が知っているのは、十年以上も前の芥川三茶だろう? 人の心が変わるのに、それだけあれば十分だとも。だいたい、町奉行上がりの烏丸殿と話せば、誰だって勇猛な言を吐きたくなるものよ」
壮絶な嫌味である。たしかに、烏丸様の目を見ながら「主に義が無いならこっそり暗殺しときますよ」とは、なかなか言えないだろうが。
「儂は勘定所の統括もある。烏丸殿ほど暇ではないのだ。おい、謎時。すぐに榊原屋敷に遣いを送るから、芥川三茶を引き渡す準備にかかれ」
力原様が立ち上がる。まずい。
「お、お待ちください。ええと、ですから、話はこれからで……」
「くどい。自白が出たのであれば、それで終いだ」
「ならば、謁見の時間まで暇な拙者が、ひとりで続きをすべて聞くが……、構わんか?」
座ったまま、飄々と烏丸様が言った。力原様が顔をしかめる。
「それはどういう意味かな、烏丸殿」
「そのままの意味だ。構わんのか? 若武者一人が、大目付を呼び止めてまで語ろうとする話だ。拙者と力原殿、いわば犬猿の仲である我らに聞かせたい話だぞ」
烏丸殿は、そのしかつめらしい顔で、じっと自分を見つめた。
「拙者は聞きたい。下手人が芥川で決まりだとしても、このお勤め嫌いの腑抜けた十一郎が、わざわざここまで言うておるのだ。最後まで聞かねば、武士の名折れというものよ」
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