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第3話 崩壊するSランクの日常
王都へと帰還した勇者パーティ、黄金の夜明けの面々は、これまでにない屈辱と困惑の中にいた。
彼らが根城にしている高級宿舎の談話室には、重苦しい沈黙と、隠しきれない苛立ちが充満している。
「おい、ミレーヌ。このポーションはどういうことだ。全く傷が治らねえぞ」
重戦士のボルグが、右腕の切り傷を抑えながら、空になった小瓶を床に投げ捨てた。
いつもなら、アクスが差し出すポーションを一飲みすれば、どんな深い傷も数秒で塞がっていた。だが、今彼らが手元に持っているのは、ギルドの売店で購入した市販の最高級品だ。
「そんなこと私に言われても困るわよ! 処置が遅かったんじゃないの? それより私の魔導ローブを見てよ。裾がボロボロじゃない。アクスなら一晩で元通りにしてくれたのに、街の職人に持っていったら一週間はかかるって言われたわ!」
魔導師のミレーヌもまた、ヒステリックに声を荒らげた。
彼女の着ているローブは、特殊な魔糸で編まれた一級品だ。アクスはこれを、倉庫から取り出した謎の液体に浸し、独自の工具でこまめに手入れしていた。彼らはそれを、ただの洗濯だと思い込んでいたのだ。
リーダーのゼクスは、窓際で一人、奪い取った革袋を睨みつけていた。
どれほど魔力を流し込んでも、口を広げようとしても、袋は沈黙を貫いている。
「……あいつだ。あのアクスの野郎、去り際に何か呪いでもかけていきやがったんだ」
ゼクスの指が、悔しさで白くなるほど袋を強く握りしめる。
彼らが失ったのは、単なる荷物持ちではない。
装備の永続的な維持、鮮度の落ちない食料の供給、そして戦場での完璧なバックアップ。
それら全てが、アクスというフィルターを通さなければ機能しない、ロストテクノロジーの恩恵だった。
「ゼクス、明日の依頼はどうするの? Sランク指定の魔獣討伐よ。今の私たちの装備じゃ、万全とは言えないわ」
「……行くに決まっているだろう。俺たちはSランクだぞ。あんな無能一人がいなくなったところで、何も変わらないことを証明してやる」
ゼクスの瞳には、傲慢さと、それ以上に深い焦燥が宿っていた。
彼らはまだ理解していなかった。
自分たちがこれまで歩んできた栄光の道は、アクスが事前に障害を排除し、整え、舗装していたからこそ存在したのだということを。
彼らが根城にしている高級宿舎の談話室には、重苦しい沈黙と、隠しきれない苛立ちが充満している。
「おい、ミレーヌ。このポーションはどういうことだ。全く傷が治らねえぞ」
重戦士のボルグが、右腕の切り傷を抑えながら、空になった小瓶を床に投げ捨てた。
いつもなら、アクスが差し出すポーションを一飲みすれば、どんな深い傷も数秒で塞がっていた。だが、今彼らが手元に持っているのは、ギルドの売店で購入した市販の最高級品だ。
「そんなこと私に言われても困るわよ! 処置が遅かったんじゃないの? それより私の魔導ローブを見てよ。裾がボロボロじゃない。アクスなら一晩で元通りにしてくれたのに、街の職人に持っていったら一週間はかかるって言われたわ!」
魔導師のミレーヌもまた、ヒステリックに声を荒らげた。
彼女の着ているローブは、特殊な魔糸で編まれた一級品だ。アクスはこれを、倉庫から取り出した謎の液体に浸し、独自の工具でこまめに手入れしていた。彼らはそれを、ただの洗濯だと思い込んでいたのだ。
リーダーのゼクスは、窓際で一人、奪い取った革袋を睨みつけていた。
どれほど魔力を流し込んでも、口を広げようとしても、袋は沈黙を貫いている。
「……あいつだ。あのアクスの野郎、去り際に何か呪いでもかけていきやがったんだ」
ゼクスの指が、悔しさで白くなるほど袋を強く握りしめる。
彼らが失ったのは、単なる荷物持ちではない。
装備の永続的な維持、鮮度の落ちない食料の供給、そして戦場での完璧なバックアップ。
それら全てが、アクスというフィルターを通さなければ機能しない、ロストテクノロジーの恩恵だった。
「ゼクス、明日の依頼はどうするの? Sランク指定の魔獣討伐よ。今の私たちの装備じゃ、万全とは言えないわ」
「……行くに決まっているだろう。俺たちはSランクだぞ。あんな無能一人がいなくなったところで、何も変わらないことを証明してやる」
ゼクスの瞳には、傲慢さと、それ以上に深い焦燥が宿っていた。
彼らはまだ理解していなかった。
自分たちがこれまで歩んできた栄光の道は、アクスが事前に障害を排除し、整え、舗装していたからこそ存在したのだということを。
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