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第19章 おじさんと燻製
第239話
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甘いものを燻す、という発想は、たぶん燻製を始めたころの俺なら思いつかなかった。
保存目的でもなければ、塩気や旨味のある素材でもない。ただ香りを乗せるだけのために、煙を通すのか──そう考えたら、遠回りに思える。
だが実際にナッツに煙を当ててみたとき、考えが変わった。
あれはたまたま、魚の燻製を終えた後の余熱を利用して、残りの煙の中にアーモンドを転がしてみただけだった。
それが思いのほか香りよく仕上がった。
火に当ててないはずなのに、焼き菓子のような香ばしさと、口の中でじんわり広がるほのかな甘味が生まれていた。
じゃあ、いっそ本物の甘味と合わせてみたらどうなるか──そう思って、蜂蜜と合わせた。
まずはナッツの準備だ。
クルミ、アーモンド、カシュ。炒りすぎず、しっとりとした食感を残してあるものを選ぶ。
それらを一度、軽く乾煎りしてから冷ます。
次に、蜂蜜を用意する。
森の養蜂家から分けてもらったもので、粘り気が強く、色が濃い。味見をすると、花の香りが立つような濃密な甘さがある。
鍋に蜂蜜を少しだけ温めて、ナッツをくぐらせる。
たっぷりと絡めすぎず、薄く全体にコーティングするように。
これを網の上に並べる。べたつきやすいから、間隔はしっかり開ける。
今回は、煙にクルミのチップと一部リンゴの枝を混ぜた。甘みの強い煙を作るためだ。
火皿にゆっくりと火を入れ、温燻でじっくりと香りを当てていく。
煙が上がると、蜂蜜とナッツの匂いが混ざり合い、店の裏まで甘くて香ばしい空気が漂った。
煙草を吸っていても、それにかき消されないほど強い香りだ。
温度は五十度弱を維持。
途中でナッツの表面を確認しながら、焦げない程度に位置を調整する。
煙の当たり具合が強すぎると、蜂蜜が黒くなる。
時間は三時間。
じっくりと、煙が甘味の中に沈んでいくのを待った。
終わったあと、燻製器の扉を開けると、思わず笑みが漏れた。
ナッツの表面はうっすらと飴色をしていて、指で摘むとほんのり柔らかい。
それを皿に移し、一本つまんで口に放る。
カリッとした音とともに、最初に広がるのは蜂蜜の甘さ。
だがすぐに、煙の香りが舌に乗る。
木の香り、火の気配、そしてわずかに残る果実の甘さが、ナッツの脂と絡んで広がる。
「……なるほど。これは……悪くないどころか、やみつきだな」
甘さに煙の苦みを少しだけ重ねることで、味に奥行きが出る。
ただのデザートじゃなく、舌に残る“余韻”ができている。
その余韻を味わいながら、俺は革のトレイにナッツを乗せてカウンターに出した。
誰に出すわけでもない。だが、たまにふらりと来る奴に「何か甘いもんはないか」と聞かれたときに、これを出せばちょうどいい。
煙草のあとにひとつまみ。
コーヒーの横にひとつまみ。
そういう距離感の食い物は、悪くない。
煙でいじれる甘味ってのは、まだまだある。
干し果物、シロップ漬け、もしくは砂糖菓子の外側だけを薄く燻してみるとか。
アイデアは次々に湧いてくる。
煙が通る道に、甘さを引っ掛けていく。
それだけで、味が変わる。
こんなふうに香りと甘味を重ねていくのは、たぶん焙煎とは別の遊びだが、同じくらい奥が深い。
保存目的でもなければ、塩気や旨味のある素材でもない。ただ香りを乗せるだけのために、煙を通すのか──そう考えたら、遠回りに思える。
だが実際にナッツに煙を当ててみたとき、考えが変わった。
あれはたまたま、魚の燻製を終えた後の余熱を利用して、残りの煙の中にアーモンドを転がしてみただけだった。
それが思いのほか香りよく仕上がった。
火に当ててないはずなのに、焼き菓子のような香ばしさと、口の中でじんわり広がるほのかな甘味が生まれていた。
じゃあ、いっそ本物の甘味と合わせてみたらどうなるか──そう思って、蜂蜜と合わせた。
まずはナッツの準備だ。
クルミ、アーモンド、カシュ。炒りすぎず、しっとりとした食感を残してあるものを選ぶ。
それらを一度、軽く乾煎りしてから冷ます。
次に、蜂蜜を用意する。
森の養蜂家から分けてもらったもので、粘り気が強く、色が濃い。味見をすると、花の香りが立つような濃密な甘さがある。
鍋に蜂蜜を少しだけ温めて、ナッツをくぐらせる。
たっぷりと絡めすぎず、薄く全体にコーティングするように。
これを網の上に並べる。べたつきやすいから、間隔はしっかり開ける。
今回は、煙にクルミのチップと一部リンゴの枝を混ぜた。甘みの強い煙を作るためだ。
火皿にゆっくりと火を入れ、温燻でじっくりと香りを当てていく。
煙が上がると、蜂蜜とナッツの匂いが混ざり合い、店の裏まで甘くて香ばしい空気が漂った。
煙草を吸っていても、それにかき消されないほど強い香りだ。
温度は五十度弱を維持。
途中でナッツの表面を確認しながら、焦げない程度に位置を調整する。
煙の当たり具合が強すぎると、蜂蜜が黒くなる。
時間は三時間。
じっくりと、煙が甘味の中に沈んでいくのを待った。
終わったあと、燻製器の扉を開けると、思わず笑みが漏れた。
ナッツの表面はうっすらと飴色をしていて、指で摘むとほんのり柔らかい。
それを皿に移し、一本つまんで口に放る。
カリッとした音とともに、最初に広がるのは蜂蜜の甘さ。
だがすぐに、煙の香りが舌に乗る。
木の香り、火の気配、そしてわずかに残る果実の甘さが、ナッツの脂と絡んで広がる。
「……なるほど。これは……悪くないどころか、やみつきだな」
甘さに煙の苦みを少しだけ重ねることで、味に奥行きが出る。
ただのデザートじゃなく、舌に残る“余韻”ができている。
その余韻を味わいながら、俺は革のトレイにナッツを乗せてカウンターに出した。
誰に出すわけでもない。だが、たまにふらりと来る奴に「何か甘いもんはないか」と聞かれたときに、これを出せばちょうどいい。
煙草のあとにひとつまみ。
コーヒーの横にひとつまみ。
そういう距離感の食い物は、悪くない。
煙でいじれる甘味ってのは、まだまだある。
干し果物、シロップ漬け、もしくは砂糖菓子の外側だけを薄く燻してみるとか。
アイデアは次々に湧いてくる。
煙が通る道に、甘さを引っ掛けていく。
それだけで、味が変わる。
こんなふうに香りと甘味を重ねていくのは、たぶん焙煎とは別の遊びだが、同じくらい奥が深い。
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