独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第19章 おじさんと燻製

第241話

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煙草の葉というのは、使いきれない部分が多い。

乾燥の途中でちぎれた端切れ、発酵が偏って苦みばかり強くなった葉、香りはいいが燃焼に向かない厚手の部位。どれも吸うには向かないが、捨てるには惜しい。

棚の奥にそういう葉っぱが袋ごと積まれていて、焙煎のときに少しずつ香りを確認していた。

ある日、その葉の束を整理していて、ふと火皿のそばに置いていたときのことだ。

炉の残り火がふと風に揺れて、煙草の葉の端に熱がかすった。

すると、ふわりと、ただの木の煙とはまったく違う香りが立った。

鋭さがなく、どこか甘く、わずかに焦がした草の匂い。それは吸うための煙とはまた別種の魅力を持っていた。

試すしかない。

手持ちの端材を数種に分けた。

香りが強いが苦みの強い「セラ」、甘さが残る「マルタ」、それから渋みのある「クラシア」。

これらを細かく刻み、ナラのチップに混ぜて火皿に仕込む。

分量は通常のチップの三分の一程度。香りが立ちすぎると肉の風味を壊す可能性があるから、控えめにする。

今回の素材は、獣肉の肩ロース。

脂が少なめで、引き締まった赤身の部分。

あらかじめ塩と香草で下味をつけ、数時間寝かせておいた。

火を入れ、煙が立つのを確認する。

最初の数分は慎重に様子を見る。

煙が立ちすぎれば、煙草特有の渋みが肉に残るし、香りが立たなければ意味がない。

煙が燻製器の中に回りはじめた瞬間、いつもと違う重みのある香りが鼻に届いた。

木の煙がベースにありながら、その奥に、焦げた草のような、少し甘い草履のような、どこか懐かしい匂いがある。

燻製器の中に吊るされた肉が、その香りを全身で浴びていく。

温度は五十五度。煙の質が下がらないよう、火皿に少しずつチップを足す。

一時間後、煙の色に変化が出た。

白濁が落ち着き、やや黄色みを帯びた淡い筋に変わる。

これは、煙草の葉が芯から焦げはじめた合図。

中の肉の表面に、いつもより濃いめの色が出ていた。

さらに一時間。火を落とし、扉を開ける。

肉の表面は、黒くはないが、深い赤褐色に染まっていた。

香りがすごい。

煙草の葉特有の“甘焦げた”香りが、肉の香りと混ざり合って、まるで別の料理に変わっていた。

一本切って、端をかじる。

最初に感じたのは、意外なほどのまろやかさだった。

煙草の苦味は抑えられ、代わりに土のような、風に乾いた草のような、落ち着いた香りが広がった。

舌の奥に残る余韻が長い。

これは、単なる香り付けじゃない。

肉の中の水分が引き出されて、旨味が凝縮している。

そこに煙草の芳香が重なって、ひと口の中に、まるで時間が詰め込まれているようだった。

「……煙草ってのは、吸うだけじゃないってことか」

呟いてから、笑ってしまった。

誰がこんな食い方を思いつくか。

だが、悪くないどころか、かなりいい。

これを食うなら、酒か、しっかりしたコーヒーだ。

軽いローストじゃなく、深煎りのやつを合わせたい。

舌に残る煙の記憶を、苦味で締めるような一杯。

次は、違う葉を試してみるか。

未発酵の若葉はどうなる。逆に、熟成させた葉はどう香る。

煙の種類を変えることで、味のベースを塗り替える。

素材そのものではなく、香りで組み上げていく。

煙草というのは、やはり“嗜み”なんだろう。

吸うにも、燻すにも、手間をかけて、時間と合わせて楽しむものだ。

その奥に、面白さがある。
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