独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第1章 おじさんと異世界の人々

第9話

コーヒーを飲み終えた四人は、何度も礼を言いながら、名残惜しそうにカップを置いた。

「……これほどのもの、タダでいただくわけにはいきません!」

リーダー格の戦士が、きっぱりと言った。

「いや、いい」

俺はあっさりと断った。

「いえ、それは困ります!」

魔法使いも必死な顔で食い下がる。

「そうです! こんなに素晴らしい効果、正当な対価を払うべきです!」

僧侶まで乗っかってくる始末。

弓使いの女も、そわそわと財布を取り出し始めた。

「……ったく、しつけえな」

ため息をつきながら、俺は考えた。

金はいらない。欲しいものなんて、ほとんどない。

だが──。

「……本、持ってねえか?」

ふと、口から出たのは、そんな言葉だった。

冒険者パーティなら、旅の途中で色々拾ったりしてるだろう。読書は俺の数少ない趣味の一つだ。もし面白い本でも手に入れば、暇つぶしになる。

俺の申し出に、四人は顔を見合わせた。

「本、ですか……?」

「持ってたっけ……」

弓使いが、荷物袋をごそごそと漁り出す。

「……あった!」

彼女が取り出したのは、分厚い革表紙の本だった。

「これ、薬草学の本です! 王都で買ったんですけど……私たち、読む暇もないし、誰も詳しくないし……」

さらに、魔法使いがもう一つ、薄汚れた巻物を差し出した。

「こちらは……クエストで発見した古文書?だと思います。どこの国のものかも分からないし、文字も読めなくて……」

「ほう」

俺は興味をそそられて、それらを受け取った。

革表紙の本は、確かに薬草学について詳しく記されていた。挿絵も豊富で、かなり本格的だ。

巻物のほうは──古い文字でびっしりと書き込まれている。

普通なら、読解に苦労するところだろう。

だが。

万能生成スキルには、付随する【完全理解】効果がある。

つまり──俺には、どんな文字でも自然に意味が流れ込んでくる。

「……ふむ」

巻物を広げた瞬間、古代語で書かれた内容が頭に入ってきた。

高位の錬金術式、失われた調合法、特殊な栽培法──。

どれも、俺にとっては垂涎ものだった。

「……読めるのか?」

魔法使いが、おそるおそる聞いてきた。

「ああ」

「ま、まさか……」

僧侶も目を丸くしている。

リーダー格の戦士すら、驚愕した顔で俺を見ていた。

「なんで、そんな……」

「たまたまさ」

肩をすくめて、煙草に火をつけた。

万能生成スキルは、物を作るだけじゃない。作るために必要な知識や理解力まで完璧に補完される。

だから、異世界だろうが古代文明だろうが、関係ない。

「……本当に、何者なんですか、あなた」

弓使いが、ぽつりと呟いた。

「コーヒー屋だよ」

適当に流して、俺はまた一口、コーヒーを啜った。



夜。

小屋の中で、ランプの明かりを頼りに薬草学の本を読みふけった。

ページをめくるたびに、新しい知識が頭に入ってくる。

コーヒーと煙草の栽培にも、応用できそうな技術が山ほど載っていた。

「……悪くねえな」

久しぶりに、心から落ち着く時間だった。

読書という、小さな贅沢。

これがあれば、またしばらくは、満たされた気分で生きていける。

──ああ、やっぱり、俺はこれでいい。

世界がどう騒ごうが、俺の暮らしは変わらない。

ただ、うまいコーヒーと煙草と、本があればいい。
感想 5

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