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第1章 おじさんと異世界の人々
第11話
その日の午後。
古文書を読み進めながら、俺はふと顔を上げた。
「……客か?」
扉の向こうから、人の気配がする。
だが、いつもの村人たちのそれとは、少し違った。
気配が妙に張り詰めている。まるで、場違いな緊張感が漂っていた。
「なんだってんだ……」
腰を上げ、のんびりと扉を開ける。
そこにいたのは──甲冑に身を包んだ、見知らぬ男だった。
歳は二十代後半、鋭い目をしているが、粗野な感じはない。背後には、もう数人、それらしい連中が控えていた。
「ああ、すまん」
男は、意外にも礼儀正しく頭を下げた。
「ここに、伝説級の珈琲と煙草を出す店があると聞いてきた」
「……誰に聞いた」
「王都のギルドだ」
「……」
なるほどな。
〈蒼月の剣姫隊〉が帰ったばかりだし、噂が広まるのも当然か。
ため息をつきながら、俺は肩を竦めた。
「飲むか?」
「ぜひ」
男たちは簡素に答えた。
仕方なく、カップをいくつか生成し、手慣れた手つきでコーヒーを淹れる。
彼らは、息を呑みながらその香りを吸い込んでいた。
一口、啜った瞬間──。
「……っ」
全員の体が、ほのかな光に包まれる。
例によって、最高位支援魔法級の効果が自然発動したらしい。
「す、すごい……これが、噂に聞く……」
「魔力の巡りが……全然違う……!」
ざわつく連中を横目に、俺は煙草をふかした。
◇
しばらくして。
男たちは、丁寧に礼を言って去っていった。
「──ったく」
コーヒーカップを片付けながら、ぼそりと呟く。
噂が広まるのは面倒だが、仕方がない。断ったところで、どうせ勝手に広められる。
せめて、ここに押し寄せる奴らが増えすぎないことを祈るしかなかった。
◇
夜。
また一人、小屋の前に人影が現れた。
今度は、見覚えのある顔だった。
村の若い娘、マリナだ。
「こんばんは……」
遠慮がちに挨拶してくる。
「なんだ」
「えっと……その……」
マリナは手に小さな包みを抱えていた。
「これ、村のみんなから……お礼です」
差し出された包みを開くと、中には野菜や果物がぎっしり詰まっていた。
「別に、礼なんていらねえぞ」
「でも……本当に、助かってるんです」
マリナは、はにかみながら言った。
村人たちの体調が良くなり、仕事の能率も上がったらしい。何より、気持ちが明るくなったと。
──まあ、悪い話じゃない。
「もらっとくか」
そう言って包みを受け取ると、マリナはぱっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
「おう。気をつけて帰れよ」
軽く手を振ると、マリナはぺこりと頭を下げて帰っていった。
◇
小屋の中。
野菜を簡単に調理し、ささやかな晩飯にする。
コーヒーを淹れ、煙草をふかし、膝の上には古文書。
──うん。
これが、俺の求めていた日常だ。
騒がしさも、称賛も、いらない。
ただ、こうして、好きなように生きていければ、それでいい。
古文書を読み進めながら、俺はふと顔を上げた。
「……客か?」
扉の向こうから、人の気配がする。
だが、いつもの村人たちのそれとは、少し違った。
気配が妙に張り詰めている。まるで、場違いな緊張感が漂っていた。
「なんだってんだ……」
腰を上げ、のんびりと扉を開ける。
そこにいたのは──甲冑に身を包んだ、見知らぬ男だった。
歳は二十代後半、鋭い目をしているが、粗野な感じはない。背後には、もう数人、それらしい連中が控えていた。
「ああ、すまん」
男は、意外にも礼儀正しく頭を下げた。
「ここに、伝説級の珈琲と煙草を出す店があると聞いてきた」
「……誰に聞いた」
「王都のギルドだ」
「……」
なるほどな。
〈蒼月の剣姫隊〉が帰ったばかりだし、噂が広まるのも当然か。
ため息をつきながら、俺は肩を竦めた。
「飲むか?」
「ぜひ」
男たちは簡素に答えた。
仕方なく、カップをいくつか生成し、手慣れた手つきでコーヒーを淹れる。
彼らは、息を呑みながらその香りを吸い込んでいた。
一口、啜った瞬間──。
「……っ」
全員の体が、ほのかな光に包まれる。
例によって、最高位支援魔法級の効果が自然発動したらしい。
「す、すごい……これが、噂に聞く……」
「魔力の巡りが……全然違う……!」
ざわつく連中を横目に、俺は煙草をふかした。
◇
しばらくして。
男たちは、丁寧に礼を言って去っていった。
「──ったく」
コーヒーカップを片付けながら、ぼそりと呟く。
噂が広まるのは面倒だが、仕方がない。断ったところで、どうせ勝手に広められる。
せめて、ここに押し寄せる奴らが増えすぎないことを祈るしかなかった。
◇
夜。
また一人、小屋の前に人影が現れた。
今度は、見覚えのある顔だった。
村の若い娘、マリナだ。
「こんばんは……」
遠慮がちに挨拶してくる。
「なんだ」
「えっと……その……」
マリナは手に小さな包みを抱えていた。
「これ、村のみんなから……お礼です」
差し出された包みを開くと、中には野菜や果物がぎっしり詰まっていた。
「別に、礼なんていらねえぞ」
「でも……本当に、助かってるんです」
マリナは、はにかみながら言った。
村人たちの体調が良くなり、仕事の能率も上がったらしい。何より、気持ちが明るくなったと。
──まあ、悪い話じゃない。
「もらっとくか」
そう言って包みを受け取ると、マリナはぱっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
「おう。気をつけて帰れよ」
軽く手を振ると、マリナはぺこりと頭を下げて帰っていった。
◇
小屋の中。
野菜を簡単に調理し、ささやかな晩飯にする。
コーヒーを淹れ、煙草をふかし、膝の上には古文書。
──うん。
これが、俺の求めていた日常だ。
騒がしさも、称賛も、いらない。
ただ、こうして、好きなように生きていければ、それでいい。
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