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第1章 おじさんと異世界の人々
第19話
馬車は、やがて高い石壁に囲まれた街へとたどり着いた。
リベール──この地域を治めるカーネル家の本拠地だ。
白い城壁と、整った街並み。王都ほどじゃねぇが、そこそこ豊かな暮らしぶりが窺える。
使者に先導され、馬車はまっすぐ、街の中心部にある館へと向かう。
「──着きました、レンジ様」
俺のことをそう呼ぶように、使者にはすでに伝えてある。
まぁ、本名を広められるよりはマシだ。
「……ふう」
馬車を降り、深く煙草を吸い込み、吐き出す。
気を引き締めたわけじゃねえ。いつものリズムだ。
門番に案内され、重厚な鉄扉をくぐる。
中は、豪奢な装飾が施された広いホール。さすが、領主様のお屋敷ってところか。
◇
待つこと数分。
「お待たせした」
現れたのは、威厳をまとった初老の男だった。
金と銀の刺繍を施した礼服。整えられた髭。誰がどう見ても、貴族中の貴族だ。
こいつが、マーレ領領主──ハロルド・カーネル。
「レンジ殿……遠路はるばる、すまなかった」
「……まあな」
気のない返事を返すと、周囲の従者たちがざわついたが、ハロルドは笑って受け流した。
「堅苦しい礼儀は要らん。わたしは、娘を救いたい。それだけだ」
「……なら、話が早くて助かる」
ハロルドは、俺を館の奥へと案内した。
◇
まずは、試供品としてコーヒーと煙草を出してほしい──それが、領主側からの要望だった。
「万が一に備え、毒味役を通していただく」
ハロルドが低く言った。
「好きにしろ」
俺は、万能生成スキルを使い、即席で最高品質のコーヒーと、香り高い煙草を生成する。
コーヒーは、香り高くも苦味を抑えたマイルドなブレンド。
煙草は、ブルナ草をアクセントに混ぜ、精神安定と体調回復効果を最大限引き出した特製品。
慎重な顔つきの毒味役が、まず一口。
そして、一服。
「……っ!」
毒味役の目が見開かれた。
「あ、ああ……っ、体が……!」
明らかに、魔力循環と身体機能が急激に上昇しているのがわかる。
周囲の従者たちがざわめく。
ハロルドも、眉をひそめたまま、コーヒーカップを手に取った。
一口、啜る。
「……っ」
堪えきれず、深く息を吐いた。
「こ、これは……っ」
すぐに煙草も試す。
一服、吸い込んだ直後。
ハロルドの顔色が、一気に明るくなる。
「驚いた……! たしかに、これなら!」
◇
満場一致で、俺は娘リリスのもとへ案内されることになった。
広い館の奥、重厚な扉の向こう。
そこに、リリスはいた。
まだ幼さの残る、金髪の少女。頬はこけ、呼吸は浅い。
医師や神官が見守るなか、俺は荷物を広げた。
まずは煙草だ。
とはいえ、病床の少女に普通の煙草を吸わせるわけにはいかない。
そこで、万能生成スキルを応用して作った《煙草用ネブライザー》を取り出す。
煙草の有効成分を水蒸気に変換し、吸いやすくした呼吸器具だ。
「これを……吸わせる」
俺が指示すると、医師たちは半信半疑で装置をリリスにセットした。
リリスが、弱々しく一息吸い込む。
──瞬間、彼女の体がぴくりと震えた。
「っ……!」
みるみるうちに、リリスの呼吸が楽になり、胸が上下する。
血色が、みるみる戻っていく。
「こ、これは……!」
「気管支系の症状は、これでクリアだ」
俺は淡々と告げた。
「──次」
万能生成スキルで、特別に調合したミルク入りコーヒーをカップに注ぐ。
苦味を抑え、胃腸に優しく、吸収効率を極限まで高めた一杯。
リリスにスプーンで一口ずつ飲ませる。
最初の一口、二口。
そして──。
リリスの瞳が、ぱちりと開いた。
「……あ」
周囲が、息を呑んだ。
リリスは、はっきりと目を開き、かすれた声で呟いた。
「──おいしい……」
その瞬間、館中に歓喜の声が広がった。
ハロルドは、膝をつき、天を仰いだ。
「……神よ……!」
違う。
神でも奇跡でもない。
コーヒーと煙草。
俺が求めた、ただそれだけの道楽の産物だ。
リベール──この地域を治めるカーネル家の本拠地だ。
白い城壁と、整った街並み。王都ほどじゃねぇが、そこそこ豊かな暮らしぶりが窺える。
使者に先導され、馬車はまっすぐ、街の中心部にある館へと向かう。
「──着きました、レンジ様」
俺のことをそう呼ぶように、使者にはすでに伝えてある。
まぁ、本名を広められるよりはマシだ。
「……ふう」
馬車を降り、深く煙草を吸い込み、吐き出す。
気を引き締めたわけじゃねえ。いつものリズムだ。
門番に案内され、重厚な鉄扉をくぐる。
中は、豪奢な装飾が施された広いホール。さすが、領主様のお屋敷ってところか。
◇
待つこと数分。
「お待たせした」
現れたのは、威厳をまとった初老の男だった。
金と銀の刺繍を施した礼服。整えられた髭。誰がどう見ても、貴族中の貴族だ。
こいつが、マーレ領領主──ハロルド・カーネル。
「レンジ殿……遠路はるばる、すまなかった」
「……まあな」
気のない返事を返すと、周囲の従者たちがざわついたが、ハロルドは笑って受け流した。
「堅苦しい礼儀は要らん。わたしは、娘を救いたい。それだけだ」
「……なら、話が早くて助かる」
ハロルドは、俺を館の奥へと案内した。
◇
まずは、試供品としてコーヒーと煙草を出してほしい──それが、領主側からの要望だった。
「万が一に備え、毒味役を通していただく」
ハロルドが低く言った。
「好きにしろ」
俺は、万能生成スキルを使い、即席で最高品質のコーヒーと、香り高い煙草を生成する。
コーヒーは、香り高くも苦味を抑えたマイルドなブレンド。
煙草は、ブルナ草をアクセントに混ぜ、精神安定と体調回復効果を最大限引き出した特製品。
慎重な顔つきの毒味役が、まず一口。
そして、一服。
「……っ!」
毒味役の目が見開かれた。
「あ、ああ……っ、体が……!」
明らかに、魔力循環と身体機能が急激に上昇しているのがわかる。
周囲の従者たちがざわめく。
ハロルドも、眉をひそめたまま、コーヒーカップを手に取った。
一口、啜る。
「……っ」
堪えきれず、深く息を吐いた。
「こ、これは……っ」
すぐに煙草も試す。
一服、吸い込んだ直後。
ハロルドの顔色が、一気に明るくなる。
「驚いた……! たしかに、これなら!」
◇
満場一致で、俺は娘リリスのもとへ案内されることになった。
広い館の奥、重厚な扉の向こう。
そこに、リリスはいた。
まだ幼さの残る、金髪の少女。頬はこけ、呼吸は浅い。
医師や神官が見守るなか、俺は荷物を広げた。
まずは煙草だ。
とはいえ、病床の少女に普通の煙草を吸わせるわけにはいかない。
そこで、万能生成スキルを応用して作った《煙草用ネブライザー》を取り出す。
煙草の有効成分を水蒸気に変換し、吸いやすくした呼吸器具だ。
「これを……吸わせる」
俺が指示すると、医師たちは半信半疑で装置をリリスにセットした。
リリスが、弱々しく一息吸い込む。
──瞬間、彼女の体がぴくりと震えた。
「っ……!」
みるみるうちに、リリスの呼吸が楽になり、胸が上下する。
血色が、みるみる戻っていく。
「こ、これは……!」
「気管支系の症状は、これでクリアだ」
俺は淡々と告げた。
「──次」
万能生成スキルで、特別に調合したミルク入りコーヒーをカップに注ぐ。
苦味を抑え、胃腸に優しく、吸収効率を極限まで高めた一杯。
リリスにスプーンで一口ずつ飲ませる。
最初の一口、二口。
そして──。
リリスの瞳が、ぱちりと開いた。
「……あ」
周囲が、息を呑んだ。
リリスは、はっきりと目を開き、かすれた声で呟いた。
「──おいしい……」
その瞬間、館中に歓喜の声が広がった。
ハロルドは、膝をつき、天を仰いだ。
「……神よ……!」
違う。
神でも奇跡でもない。
コーヒーと煙草。
俺が求めた、ただそれだけの道楽の産物だ。
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