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第1章 おじさんと異世界の人々
第24話
新しい本が欲しくなった。
焙煎やブレンドに没頭している間に、読了していない本はすっかり底をついていた。
「──そろそろ補充するか」
カウンターに無造作に置かれた袋から、小さな革袋を取り出す。
中身は、村人たちが押し付けてきた銅貨と銀貨。
こっちは何も求めちゃいないのに、勝手に感謝の証だと言って置いていった。
「……まあ、使わずに置いといてもしょうがねぇしな」
そう呟きながら、軽く袋を振る。
チャリンと、心地いい音が鳴った。
◇
向かう先は、マーレ村から馬で半日ほどのところにある、小さな街。
交易路に面しているため、人通りも多く、物資もそれなりに豊富だ。
特に期待してるのは、古本屋。
前に村人から聞いた話では、街の裏手のほうに、年季の入った店があるらしい。
俺は荷馬車も使わず、徒歩で行くことにした。
「──街道歩くのも、悪くねぇ」
森を抜け、丘を越え、広がる青空と、なだらかな野原。
遠くには、羊の群れがもこもこと散らばっている。
煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込む。
肺に広がる香りと、鼻をくすぐる草いきれ。
「──これだよ」
心の底からそう思う。
誰にも急かされず、誰にも追われず。
一歩一歩、自分のペースで進む。
そんな贅沢が、いまの俺には何よりも大事だった。
◇
しばらく歩くと、街の門が見えてきた。
周囲には木製の柵と、簡素な見張り台。
門番に軽く会釈だけして、通してもらう。
街の中は、賑わっていた。
露店が立ち並び、行き交う人々の間を、商人たちの呼び声が飛び交う。
果物、織物、陶器、馬具、武具。
雑多な品々が所狭しと並び、買い物客がひしめいている。
「──っと、寄り道は後だな」
ぶつぶつと呟きながら、人混みを抜ける。
目指すは、裏通り。
華やかな大通りを外れ、細い路地を進むと、喧騒が徐々に遠ざかっていく。
そして──
「──あった」
ぽつりと、呟く。
古びた石造りの建物。
ひび割れた木の看板には、かすれた文字で「古書」と書かれていた。
埃っぽい空気が、微かに漂っている。
だが、その匂いが、たまらなく好きだ。
「さて──」
ドアノブをひねり、ギィ、と重たい音を立てながら扉を押し開ける。
古本屋の扉を開けた途端、鼻先をかすめる古紙の匂いに、思わず息を深く吸い込んだ。
「──たまんねぇな」
奥まった空間に、びっしりと積まれた本の山。
天井近くまで届きそうな書棚。
それぞれが微妙に傾き、今にも崩れそうに見える。
だが、この雑然とした空気にこそ、掘り出し物の気配がある。
カウンターには、白髪まじりの老人が胡座をかいて座っていたが、俺が入ってもちらりと一瞥しただけで、あとは我関せずといった風だった。
「……ゆっくり見させてもらうか」
そう呟きながら、棚の間を歩き出す。
◇
書棚には、あらゆるジャンルがごちゃまぜに並んでいた。
農業技術書、魔法理論書、薬草学、冒険譚、古い神話集、商業契約のマニュアルまで。
「へぇ……」
指先で背表紙をなぞりながら、興味を引かれるタイトルを探す。
年代も、筆者も、保存状態もバラバラだ。
だが、だからこそ──。
こういう場所でこそ、思わぬ出会いがある。
「──お、これなんか」
一冊、古ぼけた革表紙の本を引き抜く。
『実践薬草活用大全』
薬草の栽培法から加工法、保存技術、さらには応用療法まで、実用的な内容がびっしり詰まっている。
ぱらぱらとめくりながら、思わず口元が緩んだ。
「……当たりだな」
今後、自家栽培を増やす予定だった俺には、うってつけの一冊だった。
◇
さらに棚を漁っていく。
古い文字で書かれた地図集。
精霊についての民間伝承をまとめた資料。
王国の初期法制を記録した巻物。
「……ほう」
興味深い品が、ごろごろと出てくる。
結局、棚を端から端までじっくりと見て回り、十冊近くの本を抱えることになった。
「──さて」
カウンターに本を置き、老人に声をかける。
「これ、まとめて買う」
老人は面倒くさそうに眉をひそめたが、ぱらぱらと本をめくって状態を確認すると、ぼそぼそと金額を告げた。
提示された値段は──思ったよりも安かった。
「……助かる」
小さく礼を言い、銀貨を数枚渡す。
釣り銭を受け取り、布袋に本を詰め込む。
◇
「──いい買い物だったな」
古本屋を出ると、すでに日が傾きかけていた。
街の喧騒も、昼間の活気が嘘のように静まりかえり、夕暮れ色に染まった通りを、ゆるやかな風が吹き抜けていく。
──さて、帰るか。
袋を肩にかけ、俺は再び街道へと向かった。
焙煎やブレンドに没頭している間に、読了していない本はすっかり底をついていた。
「──そろそろ補充するか」
カウンターに無造作に置かれた袋から、小さな革袋を取り出す。
中身は、村人たちが押し付けてきた銅貨と銀貨。
こっちは何も求めちゃいないのに、勝手に感謝の証だと言って置いていった。
「……まあ、使わずに置いといてもしょうがねぇしな」
そう呟きながら、軽く袋を振る。
チャリンと、心地いい音が鳴った。
◇
向かう先は、マーレ村から馬で半日ほどのところにある、小さな街。
交易路に面しているため、人通りも多く、物資もそれなりに豊富だ。
特に期待してるのは、古本屋。
前に村人から聞いた話では、街の裏手のほうに、年季の入った店があるらしい。
俺は荷馬車も使わず、徒歩で行くことにした。
「──街道歩くのも、悪くねぇ」
森を抜け、丘を越え、広がる青空と、なだらかな野原。
遠くには、羊の群れがもこもこと散らばっている。
煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込む。
肺に広がる香りと、鼻をくすぐる草いきれ。
「──これだよ」
心の底からそう思う。
誰にも急かされず、誰にも追われず。
一歩一歩、自分のペースで進む。
そんな贅沢が、いまの俺には何よりも大事だった。
◇
しばらく歩くと、街の門が見えてきた。
周囲には木製の柵と、簡素な見張り台。
門番に軽く会釈だけして、通してもらう。
街の中は、賑わっていた。
露店が立ち並び、行き交う人々の間を、商人たちの呼び声が飛び交う。
果物、織物、陶器、馬具、武具。
雑多な品々が所狭しと並び、買い物客がひしめいている。
「──っと、寄り道は後だな」
ぶつぶつと呟きながら、人混みを抜ける。
目指すは、裏通り。
華やかな大通りを外れ、細い路地を進むと、喧騒が徐々に遠ざかっていく。
そして──
「──あった」
ぽつりと、呟く。
古びた石造りの建物。
ひび割れた木の看板には、かすれた文字で「古書」と書かれていた。
埃っぽい空気が、微かに漂っている。
だが、その匂いが、たまらなく好きだ。
「さて──」
ドアノブをひねり、ギィ、と重たい音を立てながら扉を押し開ける。
古本屋の扉を開けた途端、鼻先をかすめる古紙の匂いに、思わず息を深く吸い込んだ。
「──たまんねぇな」
奥まった空間に、びっしりと積まれた本の山。
天井近くまで届きそうな書棚。
それぞれが微妙に傾き、今にも崩れそうに見える。
だが、この雑然とした空気にこそ、掘り出し物の気配がある。
カウンターには、白髪まじりの老人が胡座をかいて座っていたが、俺が入ってもちらりと一瞥しただけで、あとは我関せずといった風だった。
「……ゆっくり見させてもらうか」
そう呟きながら、棚の間を歩き出す。
◇
書棚には、あらゆるジャンルがごちゃまぜに並んでいた。
農業技術書、魔法理論書、薬草学、冒険譚、古い神話集、商業契約のマニュアルまで。
「へぇ……」
指先で背表紙をなぞりながら、興味を引かれるタイトルを探す。
年代も、筆者も、保存状態もバラバラだ。
だが、だからこそ──。
こういう場所でこそ、思わぬ出会いがある。
「──お、これなんか」
一冊、古ぼけた革表紙の本を引き抜く。
『実践薬草活用大全』
薬草の栽培法から加工法、保存技術、さらには応用療法まで、実用的な内容がびっしり詰まっている。
ぱらぱらとめくりながら、思わず口元が緩んだ。
「……当たりだな」
今後、自家栽培を増やす予定だった俺には、うってつけの一冊だった。
◇
さらに棚を漁っていく。
古い文字で書かれた地図集。
精霊についての民間伝承をまとめた資料。
王国の初期法制を記録した巻物。
「……ほう」
興味深い品が、ごろごろと出てくる。
結局、棚を端から端までじっくりと見て回り、十冊近くの本を抱えることになった。
「──さて」
カウンターに本を置き、老人に声をかける。
「これ、まとめて買う」
老人は面倒くさそうに眉をひそめたが、ぱらぱらと本をめくって状態を確認すると、ぼそぼそと金額を告げた。
提示された値段は──思ったよりも安かった。
「……助かる」
小さく礼を言い、銀貨を数枚渡す。
釣り銭を受け取り、布袋に本を詰め込む。
◇
「──いい買い物だったな」
古本屋を出ると、すでに日が傾きかけていた。
街の喧騒も、昼間の活気が嘘のように静まりかえり、夕暮れ色に染まった通りを、ゆるやかな風が吹き抜けていく。
──さて、帰るか。
袋を肩にかけ、俺は再び街道へと向かった。
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