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第1章 おじさんと異世界の人々
第26話
店の扉を閉め、荷物を棚に置く。
特に汚れるようなこともなかったが、習慣みたいなもので、軽く手を洗ってからカウンターの椅子に腰を下ろした。
「──やれやれ」
深く背もたれに寄りかかり、ひと息つく。
ほんの数時間の外出だったはずだが、色々と濃い時間を過ごしてきた。
だが、不思議と疲労感はない。
転移で帰ったこともあるが、たぶん──誰かの役に立ったという満足感が、心地よく体に広がっている。
「……ま、悪くないか」
ぼそっと呟き、煙草を一本取り出す。
火を点けると、香ばしい香りが店内に漂った。
一服しながら、棚に置いた古本を手に取る。
街の古本屋で見つけた、年代物の農業書と、錬金術に関する手記だ。
どちらも表紙はボロボロだったが、中身は意外としっかりしていた。
パラパラとページをめくる。
「ふむ……こっちは薬草の交配についてか」
文字は滲んで読みにくかったが、万能生成スキルを活かして脳内補完すれば、内容は難なく理解できた。
「こっちは……発酵か」
興味を引かれた。
今、ちょうど特殊な発酵を試している最中だったからだ。
書かれているのは、微生物を使った発酵管理のコツや、温度調整の技法、さらに発酵中に起こる魔素変質についての考察だった。
「へえ……」
思わず唸る。
異世界らしい要素も混じっていたが、基本は俺の世界でも通用しそうな理屈だ。
これを応用すれば、オリジナルブレンドの発酵工程に一味加えられるかもしれない。
「やるか」
そう呟いて、立ち上がった。
棚から空の瓶を取り出し、発酵用のベース液を仕込む。
元々、万能生成スキルを使えば完成品を即座に作ることもできる。
けれど──こういう工程は、じっくり手間暇かけるほうが面白い。
「焦る必要はない」
誰に言うでもなく、そう口にして、瓶を日の当たる窓辺に並べた。
明日からは、こまめに様子を見ながら育てていこう。
気長な仕事だが、それもまた悪くない。
◇
一段落ついたところで、ふとカウンターの奥を見やる。
まだ試作段階のブレンド豆が、数種類、並んでいる。
「……そろそろ、こっちも手をつけるか」
ブレンドの配合を微調整しながら、試飲を繰り返す。
甘みを重視したもの、酸味を強めたもの、香ばしさを際立たせたもの──。
一杯、一杯、丁寧にドリップしては味を確かめ、ノートに感想を書き留めていく。
「うーん……これだと後味が強すぎるな」
「こっちは逆に、物足りないか」
眉をひそめたり、肩をすくめたり。
完全に趣味の世界だ。
けれど、これがたまらなく楽しい。
コーヒーと煙草、そして本。
それさえあれば、俺には十分だった。
誰に認められるでもなく、誰に縛られるでもなく。
自分のためだけに、最高の一杯を追い求める。
それが──俺の望んだ異世界生活だった。
特に汚れるようなこともなかったが、習慣みたいなもので、軽く手を洗ってからカウンターの椅子に腰を下ろした。
「──やれやれ」
深く背もたれに寄りかかり、ひと息つく。
ほんの数時間の外出だったはずだが、色々と濃い時間を過ごしてきた。
だが、不思議と疲労感はない。
転移で帰ったこともあるが、たぶん──誰かの役に立ったという満足感が、心地よく体に広がっている。
「……ま、悪くないか」
ぼそっと呟き、煙草を一本取り出す。
火を点けると、香ばしい香りが店内に漂った。
一服しながら、棚に置いた古本を手に取る。
街の古本屋で見つけた、年代物の農業書と、錬金術に関する手記だ。
どちらも表紙はボロボロだったが、中身は意外としっかりしていた。
パラパラとページをめくる。
「ふむ……こっちは薬草の交配についてか」
文字は滲んで読みにくかったが、万能生成スキルを活かして脳内補完すれば、内容は難なく理解できた。
「こっちは……発酵か」
興味を引かれた。
今、ちょうど特殊な発酵を試している最中だったからだ。
書かれているのは、微生物を使った発酵管理のコツや、温度調整の技法、さらに発酵中に起こる魔素変質についての考察だった。
「へえ……」
思わず唸る。
異世界らしい要素も混じっていたが、基本は俺の世界でも通用しそうな理屈だ。
これを応用すれば、オリジナルブレンドの発酵工程に一味加えられるかもしれない。
「やるか」
そう呟いて、立ち上がった。
棚から空の瓶を取り出し、発酵用のベース液を仕込む。
元々、万能生成スキルを使えば完成品を即座に作ることもできる。
けれど──こういう工程は、じっくり手間暇かけるほうが面白い。
「焦る必要はない」
誰に言うでもなく、そう口にして、瓶を日の当たる窓辺に並べた。
明日からは、こまめに様子を見ながら育てていこう。
気長な仕事だが、それもまた悪くない。
◇
一段落ついたところで、ふとカウンターの奥を見やる。
まだ試作段階のブレンド豆が、数種類、並んでいる。
「……そろそろ、こっちも手をつけるか」
ブレンドの配合を微調整しながら、試飲を繰り返す。
甘みを重視したもの、酸味を強めたもの、香ばしさを際立たせたもの──。
一杯、一杯、丁寧にドリップしては味を確かめ、ノートに感想を書き留めていく。
「うーん……これだと後味が強すぎるな」
「こっちは逆に、物足りないか」
眉をひそめたり、肩をすくめたり。
完全に趣味の世界だ。
けれど、これがたまらなく楽しい。
コーヒーと煙草、そして本。
それさえあれば、俺には十分だった。
誰に認められるでもなく、誰に縛られるでもなく。
自分のためだけに、最高の一杯を追い求める。
それが──俺の望んだ異世界生活だった。
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