独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第1章 おじさんと異世界の人々

第27話

カウンターに肘をつきながら、俺は新たに手に入れた本を一冊ずつ手に取った。

「さて、どれから読むか──」

目の前に並んでいるのは、古い文字で書かれた地図集、精霊に関する民間伝承の資料、王国初期の法制を記録した巻物、そしてこの世界の神話集だ。

どれも分厚く、手間がかかりそうなものばかり。

だが、それこそが楽しい。

「よし、まずは……これだな」

俺は地図集を選び、パラリとページをめくった。

黄ばんだ羊皮紙に、手書きの地形図がびっしりと描かれている。

現代的な緻密さはないが、むしろ味がある。

「湖の位置……今とちょっと違うな」

湖、森、村の配置。

現代の地図とは微妙に異なる点が散見された。

つまり、地形そのものが変動しているわけだ。

「……このあたり、埋もれた遺跡でもあるかもしれないな」

まあ、探しに行くつもりはないけど。

興味深くページをめくりながら、頭の隅でそんなことを考える。

コーヒーを一口啜る。

香り高い苦味が、脳を心地よく刺激した。

次に手に取ったのは、精霊についての民間伝承をまとめた資料だった。

こちらは地図集以上にクセがある。

文字の癖もバラバラ、文体も統一されていない。

「……つまり、色んな村の古老が適当に語った話をまとめたってわけか」

精霊は森に宿るとか、川に棲むとか。

草花を守る精霊、火を操る精霊。

あるいは、見たこともない存在に人々が名前をつけた、そんな話ばかりだった。

だが中には、妙に具体的な記述も混じっている。

──『ブルナの森の東、失われた祭壇には、水晶の精霊が今も祈りを続けている』

「ブルナの森……聞いたことあるな」

たしか、マーレ村からそう遠くない場所だった気がする。

適当に流し読みするつもりだったのに、思わず前のめりになってページを繰る。

──『精霊は、清らかな水と、祈りの煙草を好む』

その一節を読んだ瞬間、思わず吹き出しそうになった。

「煙草かよ……」

俺が作った煙草には、確かに浄化作用もある。

あれを精霊への供物として使っていた、なんて話があったら、さすがに笑う。

だが、何か引っかかるものもあった。

民間伝承なんて、たいてい脚色と妄想の産物だ。

けれど、何割かは真実が混じっている。

この世界に来てから、俺はそれを痛感している。

「……まあ、気が向いたら、試しに行ってみてもいいか」

そう呟きながら、三冊目の巻物に手を伸ばした。

王国の初期法制を記した古巻。

文字は、現代とはまるで違う古語体だが、万能生成スキルで読むのは苦ではない。

「うん、やっぱり……」

昔の王国は、案外ゆるい統治だったらしい。

領主の自治権が強く、農民たちも今より自由だったようだ。

ところが、何度かの戦乱と王権強化を経て、今のような中央集権体制に至ったらしい。

「……面倒な構造だな」

王族、貴族、領主。

それぞれの力関係をなんとなく把握できたのは、今後のためにも役立ちそうだ。

下手に関われば、面倒事に巻き込まれる。

だが、逆に言えば、適度な距離感さえ保てば、好きに生きられる。

「やっぱ、深入り無用だな」

一人頷きながら、最後の一冊──この世界の神話集に手を伸ばす。

これがまた、とんでもなくぶ厚い。

しかも内容は、神々の誕生から、人間への祝福、魔族との戦争、英雄たちの叙事詩に至るまで、延々と続く大河物語だ。

「……読むだけで何日かかるんだ」

思わず額を押さえた。

とはいえ、内容自体は嫌いじゃない。

特に興味を引かれたのは、創世期に登場する『全てを生み出す力』の話だった。

──『全てを生み出し、全てを癒やす力。それは神々が与えし祝福のひとつにして、選ばれし者のみが手にする。』

「──万能生成、か?」

思わず小さく呟いた。

もちろん、俺が持っているスキルは、神様の手違いで押し付けられたものだ。

だが、この神話の記述を見る限り、少なくともこの世界にも似た概念は存在していたらしい。

「……妙な縁だな」

コーヒーを啜り、煙草に火をつける。

読書と嗜好品。

至福の時間だった。

誰にも邪魔されない、俺だけの世界。

「──さて、続きといくか」

再びページをめくりながら、夜は更けていく。
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