独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第4章 おじさんとソロキャンプ

第66話

夜が更けるにつれ、焚き火の勢いも徐々に落ち着き、熾火となった。
火の揺らぎをぼんやりと眺めながら、俺は新たなタバコに火をつける。
煙を吐き出し、深く息を吸い込むと、体の中からゆっくりと緊張がほどけていくのがわかる。

「……これだよな」

誰に聞かせるでもなく、口をついて出た声。
日々の喧騒や、些細な面倒ごと。
そういったものをすべて脇に置いて、何も考えず、自分だけの時間に没頭できる贅沢。

俺はゆっくりと立ち上がり、薪を一、二本くべた。
ぱちり、とまた火の粉が飛び、温もりが蘇る。

「さて……もう一杯、やるか」

万能生成スキルで仕込んでおいた豆袋を取り出し、手挽きミルでゴリゴリと豆を砕く。
この作業もまた、俺にとっては立派な儀式みたいなものだった。
手を動かしながら、意識を一点に集中する。
雑念を振り払い、ただ、今に向き合う。

挽き終わった豆は、コンパクトなドリッパーにセットする。
湯を沸かし、細い細い湯の線で、じっくりと蒸らす。

「……いい香りだ」

思わず鼻をくすぐるその香ばしさに、自然と顔がほころぶ。
たっぷりとお湯を注ぎ終える頃には、カップの中に琥珀色の液体が満たされていた。

「……うん」

ひと口。
舌の上でふわりと広がる、苦みと甘みと、微かな酸味。
体が目覚めるような、そんな一杯だった。

そのまま、タープの下に腰を下ろす。
焚き火の明かりが、ちょうどよく周囲を照らしている。
星空は、見上げるまでもなく、俺の視界いっぱいに広がっていた。

「……贅沢すぎるな」

再びつぶやく。
だが、これが俺にとっての理想の夜だった。
誰にも邪魔されない、一人だけの世界。

カップを両手で包み込み、しばらくはただ、星を見て過ごした。
こうしていると、不思議と、自分がこの世界にちゃんと存在していることを実感できる。

ふと、ポケットからもう一本、タバコを取り出す。
火をつけ、煙を吐き出しながら思う。

(……明日は、もう少し奥まで行ってみるか)

森の中には、小さな湖があると聞いた。
地図にも載っていない、村の古老たちしか知らないような場所。
今なら、そこまで足を伸ばしてもいい気がする。

思考を巡らせながら、カップを傾ける。

冷めたコーヒーも悪くない。
夜露がタープに落ちる音を聞きながら、俺はもう一度、深く煙を吸い込んだ。

何も急ぐことはない。
誰も俺を急かす者はいない。

焚き火の火が小さくなるのを見届けてから、俺は重い体を起こし、最後にもう一度、薪を足してやった。

「……よし」

タープの下に戻り、寝袋に潜り込む。
星空を仰ぎ見ながら、目を閉じる。

遠くでフクロウが鳴いた。
森の夜は、生きていた。

俺は、その中で小さな安心を得ながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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