独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第4章 おじさんとソロキャンプ

第67話

朝方、うっすらと目を覚ました俺は、寝袋の中でごそごそと身じろぎをした。
ひんやりとした空気が顔に触れる。
タープの隙間から差し込む光は、夜明けを告げる淡いグレーだった。

「……ふぁあ……」

大きな欠伸をひとつ。
特に急ぐ理由もないので、寝袋の中でもぞもぞと伸びをして、ゆっくりと体を起こした。

焚き火は熾きになっていたが、まだくすぶっている。
薪を数本足してやれば、すぐに火は蘇った。
温もりを取り戻した炎を前に、俺は早速、朝の一杯を準備することにした。

万能生成スキルを使い、昨日の夜とは別の豆を生成する。
今朝は、もう少し浅煎りの軽やかな香りが欲しかった。

ミルを取り出し、ゴリゴリと回す。
朝の静寂を破るのは、ミルの回転音と、時折跳ねる薪の爆ぜる音だけだった。

(……これだよ)

この、無音に近い時間。
誰にも気を使わず、誰にも気づかれず、ただ自分の感覚だけを信じて動く贅沢。

ドリッパーに粉をセットし、お湯を細く注ぐ。
コポコポと泡立つ豆の表面からは、甘酸っぱい香りが立ち上った。

「……うん」

カップに落ちたコーヒーは、昨日よりも軽やかで、朝にふさわしい爽やかさがあった。
ひと口啜ると、微かな果実味が舌を撫でる。

この世界に来てから、何度目の朝か数えたことはない。
けれど、こうして過ごす朝は、どれも俺にとって特別だった。

しばらく焚き火を眺めながら、タバコに火をつける。
ゆっくりと煙を吐き出し、目を細めた。

さて、今日の行動を決めるか。
とりあえず、軽く朝食を済ませたら、昨日思いついた湖探しに出るつもりだった。

タープの下、荷物を確認する。
持っていくべき最低限の道具を、小さなバックパックにまとめる。

・簡易タープとペグ
・焚き火セット(ファイヤースターターと折りたたみスコップ)
・水筒と非常食(生成スキル産の乾パンと干し肉)
・小型のコーヒーセット
・タバコと予備のマッチ

「あとは……」

ポーチから、万能生成スキルで作った特製の煙草を数本追加する。
これは、疲労回復効果が微弱に含まれているので、長距離歩くときに役立つ。

コーヒーを飲み干し、カップをそっと置く。

火を完全に消し、跡地を整え、ゴミひとつ残さず片付けた。
自然に敬意を払うのは、俺のささやかな流儀だった。

タープを畳みながら、ちらりと森の奥を見やる。

(さて……どんな湖なんだか)

少しだけ、胸が高鳴る。

別に冒険者気取りになるつもりはない。
ただ、あの森の奥に、俺だけの風景があるかもしれないと思うと、自然と足が動きそうになる。

荷物を背負い、軽く肩を回した。
タバコをもう一本くわえ、ゆっくりと吸い込む。

「……行くか」

独り言のように呟き、俺は焚き火跡に軽く頭を下げた。
それから、森の奥へと一歩を踏み出す。
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