独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第4章 おじさんとソロキャンプ

第72話

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朝の光が森を淡く染めるなか、俺は寝袋から抜け出して、大きく伸びをした。
昨日はたっぷり食って、たっぷり煙を燻らせた。
そのせいか、体はずいぶん軽い。

湯を沸かして、まず一杯。
コーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込んでから、今日の予定を考える。
──まあ、特に何かするわけじゃない。
狩りでもして、夜用の食材を確保すればいい。

手早く荷をまとめて、森へと踏み入った。

獣道をたどりながら、適度に耳を澄ませ、目を凝らす。
今日の狩りは、できれば鳥類がいい。
軽いし、調理も楽だ。
炭火で炙るだけでも、十分うまい。

そう考えていた時だった。

「……」

背後に、かすかな気配を感じた。

息を殺して、周囲を見回す。
しかし、視界には何も映らない。
ただ、誰かがこちらを見ている気配だけが、ひたひたと背中に絡みついていた。

数分、膠着が続いたあと──

「あなた」

森の影から、ひとりの女性が姿を現した。

長い銀髪、冷たい湖のような青い瞳。
耳はすらりと尖り、透き通る肌は、まるで光そのものを宿しているかのようだった。

エルフ。

しかも、ただのエルフじゃない。
ひと目で分かる。
この女、相当できる。

「……俺になんか用か?」

俺は特に警戒もせず、淡々と声を掛けた。

「監視していました。あなたが、森に害を成さないか確かめるため」

女は感情を込めない口調で言った。
高飛車さもなければ、敵意もない。
本当にただ、必要だから言った、そんな感じだった。

「……で、俺は、どうだった?」

「問題なし」

それだけ言うと、女はわずかに視線を逸らす。
そして、少しだけ──ほんの少しだけ、頬を染めた。

「……その、香りが……気になった」

「香り?」

「あなたが、昨夜吸っていた煙草と、淹れていた飲み物」

なるほど、そういうことか。
森で煙を焚けば、そりゃ誰かの目にも鼻にも留まる。
ましてや、あのキャンプ用に特製したタバコとコーヒーだ。
人間でも惹きつけるんだ、感覚の鋭いエルフならなおさらだろう。

「……ふむ」

俺は少し考えてから、口を開いた。

「なら、交渉だ。夕飯の準備を手伝ってくれたら、コーヒーとタバコを振る舞う」

女はきょとんとした顔をした。
たぶん、予想外だったんだろう。
警戒されるか、拒絶されるか、どちらかだと思っていたはずだ。

「……いい」

短く答えると、彼女はすっと俺の隣に並んだ。

「食材は、何が必要?」

「鳥か、小型の獣がいい。あとは、野草かきのこがいくつか」

「分かった」

それだけ言って、女は弓を手に取り、素早く森の奥へと消えていった。
動きに一片の無駄もない。
あれなら、狩りも期待できそうだ。

俺も、腰のナイフを握り直して、別方向へ向かう。

コーヒーとタバコをエサにエルフを釣るとはな……と、苦笑しながら。
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