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第5章 おじさんと農業
第79話
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森を抜けたとき、ふっと気が抜けた。
テントも片づけたし、道具も背負った。小さなリュック一つでのソロキャンプ、荷物も心も軽いもんだ。
村への道を歩きながら、煙草をくわえ、火を点ける。くゆる煙が鼻腔を満たして、体の芯までほぐれていく。
「……ふぅ」
いつもと変わらない、このルーティン。
それだけで、俺は満たされている。
ふと、視界の端に、広がる畑が見えた。
このあたりの農家たちは、規模は小さいが、手間ひま惜しまず作物を育てている。
ざっと見ただけでも、麦畑、豆畑、トマトの棚……小さいながらも整った畑が、風に揺れていた。
俺は歩みを止めた。
煙草を指で軽くつまみ、じっとその光景を眺める。
「……いいもんだな」
ぽつりと、独り言が漏れた。
作物の緑は濃く、土はふかふかと柔らかそうだ。
そこに立ちこめる、湿った土と葉っぱの匂い――焙煎直前の生豆にも似た、生命の匂い。
俺は煙草をもう一度くゆらせながら、考える。
キャンプで自然に触れ、体を動かし、獲った食材で飯を作った。
それはそれで最高だった。
だが――ふと思ったのだ。
『たまに、自分で野菜を育てるのも悪くないかもしれない』と。
「まあ、趣味程度でな……」
自分に向かって、苦笑しながら言う。
俺は別に、農家になりたいわけじゃない。
大それたことをするつもりもない。
ただ、ほんの少しだけ。
コーヒーに添えるハーブとか。
朝食のサラダにちょっと加えるトマトとか。
そういう、自分のためだけの作物を、自分の手で育てられたら――。
「……コーヒーも、飯も、質が上がる」
それは、悪くない。
むしろ、かなりいい。
想像してみる。
朝、淹れたての珈琲に、自家栽培のフレッシュミントを浮かべる。
昼、店の裏で摘んだ野菜を使った、即席のサンドイッチ。
夜、煙草を燻らせながら、自分で育てた野菜スープを啜る。
それはきっと、贅沢でもあり、ささやかな誇りでもある。
俺はゆっくりと煙を吐き出し、目を細めた。
村の畑はよく手入れされている。
だが、別に、同じ規模を目指す必要はない。
俺は俺のペースで、俺のためだけに、やればいい。
「自分で食う分だけ……な」
それ以上でも、それ以下でもない。
売る気もなければ、人に振る舞うつもりもない。
見栄も、体裁も、俺には不要だ。
一口、煙草を吸い、肺に軽く満たしてから吐き出す。
風が草を撫で、畑の葉っぱたちを、さわさわと揺らした。
ああ――この匂いだ。
この湿った土の匂い。
生きてる匂い。
悪くない。
むしろ、最高だ。
畑の向こうを、牛を引く農夫が歩いていく。
俺に気づいた様子はない。
それでいい。
俺は煙草を地面に軽くもみ消し、再び歩き出した。
リュックを背負い直しながら、ひとりごちる。
「さて……帰ったら、畑を探してみるか」
たぶん、村の外れに、使われてない土地がある。
そこを借りるなり、勝手に開墾するなりすればいい。
必要な道具は、俺の万能生成スキルがあれば、まあ、なんとかなる。
それに――
どうせなら、育てる野菜も、ちょっとこだわってみたい。
普通の大根や人参でもいいが、どうせやるなら、コーヒーや煙草に合う香草やハーブを育てるのもアリだ。
バジル、タイム、ミント、ローズマリー――
想像するだけで、鼻先に香りが広がる気がする。
「ふふ……」
自分でも珍しいくらい、口元が緩んだ。
ただ、俺は自分をよく知っている。
やりすぎはしない。
求めすぎもしない。
俺がほしいのは、『生活の質』であって、『成果』じゃない。
だから、農業を極める気もないし、誰かに自慢する気もない。
自分のためだけに、静かに、ゆるく育てる。
それで十分だ。
帰り道、村の子どもたちが駆けていく横を、俺は歩いた。
笑い声が聞こえる。
犬が吠える。
畑の中に、カカシが立っている。
この村は、のんびりしている。
俺にとっては、それが何よりありがたい。
家まで、あと少し。
リュックの中のキャンプ道具が、背中で軽く揺れる。
そして、心の中には――
自分だけの小さな畑への、ささやかな期待が、芽吹き始めていた。
テントも片づけたし、道具も背負った。小さなリュック一つでのソロキャンプ、荷物も心も軽いもんだ。
村への道を歩きながら、煙草をくわえ、火を点ける。くゆる煙が鼻腔を満たして、体の芯までほぐれていく。
「……ふぅ」
いつもと変わらない、このルーティン。
それだけで、俺は満たされている。
ふと、視界の端に、広がる畑が見えた。
このあたりの農家たちは、規模は小さいが、手間ひま惜しまず作物を育てている。
ざっと見ただけでも、麦畑、豆畑、トマトの棚……小さいながらも整った畑が、風に揺れていた。
俺は歩みを止めた。
煙草を指で軽くつまみ、じっとその光景を眺める。
「……いいもんだな」
ぽつりと、独り言が漏れた。
作物の緑は濃く、土はふかふかと柔らかそうだ。
そこに立ちこめる、湿った土と葉っぱの匂い――焙煎直前の生豆にも似た、生命の匂い。
俺は煙草をもう一度くゆらせながら、考える。
キャンプで自然に触れ、体を動かし、獲った食材で飯を作った。
それはそれで最高だった。
だが――ふと思ったのだ。
『たまに、自分で野菜を育てるのも悪くないかもしれない』と。
「まあ、趣味程度でな……」
自分に向かって、苦笑しながら言う。
俺は別に、農家になりたいわけじゃない。
大それたことをするつもりもない。
ただ、ほんの少しだけ。
コーヒーに添えるハーブとか。
朝食のサラダにちょっと加えるトマトとか。
そういう、自分のためだけの作物を、自分の手で育てられたら――。
「……コーヒーも、飯も、質が上がる」
それは、悪くない。
むしろ、かなりいい。
想像してみる。
朝、淹れたての珈琲に、自家栽培のフレッシュミントを浮かべる。
昼、店の裏で摘んだ野菜を使った、即席のサンドイッチ。
夜、煙草を燻らせながら、自分で育てた野菜スープを啜る。
それはきっと、贅沢でもあり、ささやかな誇りでもある。
俺はゆっくりと煙を吐き出し、目を細めた。
村の畑はよく手入れされている。
だが、別に、同じ規模を目指す必要はない。
俺は俺のペースで、俺のためだけに、やればいい。
「自分で食う分だけ……な」
それ以上でも、それ以下でもない。
売る気もなければ、人に振る舞うつもりもない。
見栄も、体裁も、俺には不要だ。
一口、煙草を吸い、肺に軽く満たしてから吐き出す。
風が草を撫で、畑の葉っぱたちを、さわさわと揺らした。
ああ――この匂いだ。
この湿った土の匂い。
生きてる匂い。
悪くない。
むしろ、最高だ。
畑の向こうを、牛を引く農夫が歩いていく。
俺に気づいた様子はない。
それでいい。
俺は煙草を地面に軽くもみ消し、再び歩き出した。
リュックを背負い直しながら、ひとりごちる。
「さて……帰ったら、畑を探してみるか」
たぶん、村の外れに、使われてない土地がある。
そこを借りるなり、勝手に開墾するなりすればいい。
必要な道具は、俺の万能生成スキルがあれば、まあ、なんとかなる。
それに――
どうせなら、育てる野菜も、ちょっとこだわってみたい。
普通の大根や人参でもいいが、どうせやるなら、コーヒーや煙草に合う香草やハーブを育てるのもアリだ。
バジル、タイム、ミント、ローズマリー――
想像するだけで、鼻先に香りが広がる気がする。
「ふふ……」
自分でも珍しいくらい、口元が緩んだ。
ただ、俺は自分をよく知っている。
やりすぎはしない。
求めすぎもしない。
俺がほしいのは、『生活の質』であって、『成果』じゃない。
だから、農業を極める気もないし、誰かに自慢する気もない。
自分のためだけに、静かに、ゆるく育てる。
それで十分だ。
帰り道、村の子どもたちが駆けていく横を、俺は歩いた。
笑い声が聞こえる。
犬が吠える。
畑の中に、カカシが立っている。
この村は、のんびりしている。
俺にとっては、それが何よりありがたい。
家まで、あと少し。
リュックの中のキャンプ道具が、背中で軽く揺れる。
そして、心の中には――
自分だけの小さな畑への、ささやかな期待が、芽吹き始めていた。
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