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第5章 おじさんと農業
第85話
「もっと、香りを引き出せたらな……」
焙煎直後の豆から立ち昇る香気を鼻先でゆるやかに吸い込みながら、俺はぽつりと呟いた。
香りは十分に芳醇。味わいも申し分ない。
だが、どこかひと匙、物足りない。
贅沢な悩みだってのは、わかってる。
だが、この異世界で俺は“万能生成スキル”という、チートの極みみたいな力を持ってる。
それに見合う味を追求したいという気持ちは、わがままじゃない。
「──となりゃ、次は、原材料のほうに手を加えるしかないな」
そう結論づけた俺は、珈琲豆を一粒手に取って指で転がす。
この豆に、もうひとつ何か……香りを高めるハーブや、風味を支える樹木成分でも加えられたら。
実験的に始めた畑は、今や村でちょっとした評判になってしまった。
それが面倒で、最近は訪問客を適当にあしらってるくらいだ。
だからこそ、次の一手はひっそりと進めたい。
村の目の届くところで、目立つような育成は避ける。
そう考えた俺は、家の裏手、森へと繋がる小道の奥に目をやった。
あそこなら、ちょっとしたスペースもあるし、日当たりも悪くない。
「……やるか」
* * *
翌日、俺は荷車にスコップや鍬──もちろん万能生成スキルで最高品質のものを作った──を載せて、裏手の茂みをかき分けていった。
途中、少し傾斜のある斜面があるが、土は肥えており、何より風通しがいい。
「ここなら……バレずに済むな」
雑草を刈り、石を除き、地面を整える。
やることは地味だが、この手間すら俺にとっては“珈琲の一杯のため”だと思えば、悪くない。
「よし……」
深呼吸とともにタバコに火をつけ、ひと息つく。
そして、スキルを発動させた。
『万能生成スキル発動──“香気強化型コーヒー専用ハーブ種”生成』
掌に現れたのは、繊細な光沢を持つ細長い種。
芳香の芯を感じさせる独特な香りが、すでに微かに立ち上る。
「こいつを育てて、珈琲に使えたら──」
そう呟きながら、俺は手際よく種を植えた。
次いで、土壌の調整用に“香り保持型栄養木炭”を撒き、水は“風味定着型霊水”を少量だけ。
これらも、すべて俺のスキルで生成したものだ。
農学なんぞ学んでいなくても、必要な知識と材料は、“やる気”さえあれば勝手に揃ってくる。
「さて、どうなるか……」
腰を下ろし、再びタバコをくゆらせる。
視界の端にちらりと動く何かが映ったが、気にしない。
ここまで来る奴はまずいない。
いても、狐か鳥か、せいぜい小動物だ。
「……珈琲のためだけにここまでやるやつなんて、俺くらいのもんだろ」
そう呟くと、少しだけ笑みが浮かんだ。
* * *
数日後──。
発芽したハーブは、驚くほどの勢いで成長を始めていた。
濃い緑に赤紫が混じったその葉は、既存のハーブとは明らかに異質だ。
それでいて、手に取ると柔らかく、指に触れるとすぐにほのかな甘い香りを残す。
「……これは、いける」
俺は慎重に数枚の葉を摘み取り、乾燥させ、挽いた珈琲豆と共にドリップにかけた。
抽出された一杯は、香ばしさの中にごく淡いハーバルの余韻が漂い、後味には微かな清涼感が残った。
「──これは、アリだな」
満足げに一口含み、俺は頷いた。
あくまで“ひっそりと”。
だが、これが俺だけの珈琲を、また一段階上に押し上げてくれるのなら、惜しむ理由はない。
焙煎直後の豆から立ち昇る香気を鼻先でゆるやかに吸い込みながら、俺はぽつりと呟いた。
香りは十分に芳醇。味わいも申し分ない。
だが、どこかひと匙、物足りない。
贅沢な悩みだってのは、わかってる。
だが、この異世界で俺は“万能生成スキル”という、チートの極みみたいな力を持ってる。
それに見合う味を追求したいという気持ちは、わがままじゃない。
「──となりゃ、次は、原材料のほうに手を加えるしかないな」
そう結論づけた俺は、珈琲豆を一粒手に取って指で転がす。
この豆に、もうひとつ何か……香りを高めるハーブや、風味を支える樹木成分でも加えられたら。
実験的に始めた畑は、今や村でちょっとした評判になってしまった。
それが面倒で、最近は訪問客を適当にあしらってるくらいだ。
だからこそ、次の一手はひっそりと進めたい。
村の目の届くところで、目立つような育成は避ける。
そう考えた俺は、家の裏手、森へと繋がる小道の奥に目をやった。
あそこなら、ちょっとしたスペースもあるし、日当たりも悪くない。
「……やるか」
* * *
翌日、俺は荷車にスコップや鍬──もちろん万能生成スキルで最高品質のものを作った──を載せて、裏手の茂みをかき分けていった。
途中、少し傾斜のある斜面があるが、土は肥えており、何より風通しがいい。
「ここなら……バレずに済むな」
雑草を刈り、石を除き、地面を整える。
やることは地味だが、この手間すら俺にとっては“珈琲の一杯のため”だと思えば、悪くない。
「よし……」
深呼吸とともにタバコに火をつけ、ひと息つく。
そして、スキルを発動させた。
『万能生成スキル発動──“香気強化型コーヒー専用ハーブ種”生成』
掌に現れたのは、繊細な光沢を持つ細長い種。
芳香の芯を感じさせる独特な香りが、すでに微かに立ち上る。
「こいつを育てて、珈琲に使えたら──」
そう呟きながら、俺は手際よく種を植えた。
次いで、土壌の調整用に“香り保持型栄養木炭”を撒き、水は“風味定着型霊水”を少量だけ。
これらも、すべて俺のスキルで生成したものだ。
農学なんぞ学んでいなくても、必要な知識と材料は、“やる気”さえあれば勝手に揃ってくる。
「さて、どうなるか……」
腰を下ろし、再びタバコをくゆらせる。
視界の端にちらりと動く何かが映ったが、気にしない。
ここまで来る奴はまずいない。
いても、狐か鳥か、せいぜい小動物だ。
「……珈琲のためだけにここまでやるやつなんて、俺くらいのもんだろ」
そう呟くと、少しだけ笑みが浮かんだ。
* * *
数日後──。
発芽したハーブは、驚くほどの勢いで成長を始めていた。
濃い緑に赤紫が混じったその葉は、既存のハーブとは明らかに異質だ。
それでいて、手に取ると柔らかく、指に触れるとすぐにほのかな甘い香りを残す。
「……これは、いける」
俺は慎重に数枚の葉を摘み取り、乾燥させ、挽いた珈琲豆と共にドリップにかけた。
抽出された一杯は、香ばしさの中にごく淡いハーバルの余韻が漂い、後味には微かな清涼感が残った。
「──これは、アリだな」
満足げに一口含み、俺は頷いた。
あくまで“ひっそりと”。
だが、これが俺だけの珈琲を、また一段階上に押し上げてくれるのなら、惜しむ理由はない。
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