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第5章 おじさんと農業
第87話
「……さて、今日はどうするか」
タバコの煙をふっと吐きながら、俺は畑を眺めていた。
裏手にある“例の区画”は、すでに育ちきったハーブや豆の葉で青々と覆われていて、まるで異国の庭園のような趣がある。
実の重みで枝がしなるコーヒーの木。かすかな芳香を漂わせる特殊なハーブ。
異世界素材に俺のスキルが合わさった結果、味も効果も突き抜けた逸品になっている。
……その分、厄介ごとも増えつつある。
「“レンジさんの畑、すげえ”とか、“見学させてくれ”とか、村の連中も騒がしくなってきやがった」
もちろん、直接俺の畑に踏み込んでくる奴はいない。
だが、あちこちで聞こえる噂話や視線は、さすがに気にならないわけじゃない。
こっちは、のんびり飯とコーヒーの質を上げたいだけなんだがな……。
* * *
新しい挑戦もしていた。
たとえば、“コーヒーと一緒に吸った時に最も香りが引き立つ”タバコ用の葉。
あるいは、飲む直前に数滴だけ加えると味わいが劇的に変わる“香りづけの果実”。
表に出すにはまだ試行錯誤が必要な代物ばかりだが、自分で使う分には問題ない。
「……よし」
今日の作業は、その中でも“焙煎前に漬け込む用の樹液”の採取だ。
一本だけ育てている特殊な樹──外見はほとんど見慣れたクルミの木に近いが、樹液は淡い紫色をしている。
小刀で樹皮を割り、じっくり滲み出す雫を陶器の小瓶に受ける。
「うん、これだ。香りに甘さが加わって、余韻が伸びる」
この調子なら、次の新作ブレンドにも使えそうだ。
誰に試すでもなく、自分の口でひとつずつ検証し、記録し、試作し──
やってることは、現役時代の製品開発と大して変わらない。
「……結局、好きなんだろうな、こういうのが」
やりたいからやる。ただそれだけだ。
* * *
その日の午後、いつものように珈琲を数杯分だけ仕込んだ。
村の人間がぽつぽつ訪れるが、こちらが話を広げなければ、向こうも無理に踏み込んではこない。
「レンジさん、この前の豆、またある?」
「ああ。ちょっと香りが違うけど、試すか?」
「もちろん!」
ふわりと立ちのぼる香気に、目を細める客。
そういう姿を見ると、多少なりとも気分は悪くない。……が、それ以上は望まない。
情報を抑える。興味を煽りすぎない。
必要以上に関わらない。深入りさせない。
いまの暮らしを守るには、それが一番だ。
「……明日は、もう少し酸味寄りの調整を試すか」
焙煎室の隅にある小棚に、こっそり作った“秘密試作素材”を数本並べて、俺は思案した。
誰にも知られないように、こっそりと、でも確実に。
俺は今日も、“世界最高の自己満足”を目指している。
タバコの煙をふっと吐きながら、俺は畑を眺めていた。
裏手にある“例の区画”は、すでに育ちきったハーブや豆の葉で青々と覆われていて、まるで異国の庭園のような趣がある。
実の重みで枝がしなるコーヒーの木。かすかな芳香を漂わせる特殊なハーブ。
異世界素材に俺のスキルが合わさった結果、味も効果も突き抜けた逸品になっている。
……その分、厄介ごとも増えつつある。
「“レンジさんの畑、すげえ”とか、“見学させてくれ”とか、村の連中も騒がしくなってきやがった」
もちろん、直接俺の畑に踏み込んでくる奴はいない。
だが、あちこちで聞こえる噂話や視線は、さすがに気にならないわけじゃない。
こっちは、のんびり飯とコーヒーの質を上げたいだけなんだがな……。
* * *
新しい挑戦もしていた。
たとえば、“コーヒーと一緒に吸った時に最も香りが引き立つ”タバコ用の葉。
あるいは、飲む直前に数滴だけ加えると味わいが劇的に変わる“香りづけの果実”。
表に出すにはまだ試行錯誤が必要な代物ばかりだが、自分で使う分には問題ない。
「……よし」
今日の作業は、その中でも“焙煎前に漬け込む用の樹液”の採取だ。
一本だけ育てている特殊な樹──外見はほとんど見慣れたクルミの木に近いが、樹液は淡い紫色をしている。
小刀で樹皮を割り、じっくり滲み出す雫を陶器の小瓶に受ける。
「うん、これだ。香りに甘さが加わって、余韻が伸びる」
この調子なら、次の新作ブレンドにも使えそうだ。
誰に試すでもなく、自分の口でひとつずつ検証し、記録し、試作し──
やってることは、現役時代の製品開発と大して変わらない。
「……結局、好きなんだろうな、こういうのが」
やりたいからやる。ただそれだけだ。
* * *
その日の午後、いつものように珈琲を数杯分だけ仕込んだ。
村の人間がぽつぽつ訪れるが、こちらが話を広げなければ、向こうも無理に踏み込んではこない。
「レンジさん、この前の豆、またある?」
「ああ。ちょっと香りが違うけど、試すか?」
「もちろん!」
ふわりと立ちのぼる香気に、目を細める客。
そういう姿を見ると、多少なりとも気分は悪くない。……が、それ以上は望まない。
情報を抑える。興味を煽りすぎない。
必要以上に関わらない。深入りさせない。
いまの暮らしを守るには、それが一番だ。
「……明日は、もう少し酸味寄りの調整を試すか」
焙煎室の隅にある小棚に、こっそり作った“秘密試作素材”を数本並べて、俺は思案した。
誰にも知られないように、こっそりと、でも確実に。
俺は今日も、“世界最高の自己満足”を目指している。
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