独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

文字の大きさ
98 / 243
第6章 おじさんと本の虫

第98話

しおりを挟む
翌朝、湯を沸かしながら畑をひとめぐりした後、小屋に戻ると、既に扉の前に見慣れた黒衣の人影が立っていた。

「……早いな」

「……今朝は、どうしても読みたかった節があって」

ユスティナは、胸元に革張りの古文書を抱えていた。目は眠そうだったが、手元の鞄はきっちり整っている。こいつ、本当にこういうのだけは抜け目がない。

「入れ」

頷いた彼女は、いつものように椅子に腰を下ろすと、カップを待つでもなく巻物を机に広げ始めた。手順が完全に定着してやがる。

俺は万能生成スキルで新しいブレンドを生み出す。今回は昨日彼女が解読していた一節を参考にして、〈霊草グレントリム〉という薬草を軽く混ぜた焙煎にした。精神の集中力を高めるとされる成分が、読書にはうってつけらしい。

「……今日は少し濃いめにした」

「香りが深い……」

目を伏せて香りを嗅ぎ取る仕草。こいつにとっては、言葉よりも先に香りが語るんだろう。そういう感性は嫌いじゃない。

「昨日の続き、ここです」

そう言って指差された箇所には、“灰の雨を避ける器と、書かれぬ頁の封じ方”という不思議な記述が並んでいた。

「封じ方ってのは……写さないってことか?」

「おそらく……内容そのものを記録するのではなく、感覚や印象を……媒体に刻む技法。魔法言語に近い構文です」

「なるほどな。つまり──“読む”んじゃなく、“感じる”と」

「……ええ。おそらく、頁に触れることで……記憶や知識が伝達される」

ふむ、とコーヒーを一口啜る。深い苦みの中に、かすかな甘さ。思考が、妙に冴える。

「で、それが何に使われてた?」

「まだ、断定はできませんが……災害記録や、預言的な詩に、この構文が共通している節があります」

「へえ」

古文書には、場所や時代、起きた出来事が記されている──が、それは単なる記録じゃなく、未来への警告や導きとして、知識を後世に“残す”意図があるらしい。

「……その中に、“灰の雨”って表現がある。これは、火山災害の隠語か、あるいは──」

「……異常魔力の降下現象かもな。ま、俺はそこまで専門じゃねえけど」

ユスティナは、目を伏せて考え込んでいた。カップを片手に、無言で思考を巡らせるあの顔は、なぜか妙に落ち着く。

俺は煙草に火をつけ、ゆるやかに吸い込んだ。今日の一本には、昨日乾かしておいたブルナ草を少しだけ多めに混ぜてある。香りは柔らかく、味はしっかり深い。思考の糸が綺麗にほどけていく。

「──やっぱ、読書と煙草は合うな」

ぽつりと言うと、ユスティナが目だけでこちらを見た。

「分かります」

珍しく即答だった。思わず口の端が少し緩む。

「他の連中には分からねえだろな。こんな、地味な楽しみ」

「……でも、それが、贅沢だと思います」

「同感だな」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。 一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します! 大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。

処理中です...