独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第7章 おじさんと雨の日

第106話

「……悪くない。けど、もう少し湿気に強くて、指にまとわりつかねぇ紙がほしいな」

巻き終えた一本を手に、俺は試作中の巻紙をじっと見た。薄手の植物繊維を使った紙だったが、今の湿度じゃ若干よれが出る。巻いている途中でしっとりして、指にくっつく。吸ったあとに味は悪くないんだが、巻く時の感触がいただけない。

煙草ってのは、巻くところから“味”が始まってる。

紙の質感、張り、湿気との相性──全部、舌より前に判断される。

「異国の紙、試してみるか……」

先日、行商人が置いていった包み。その中に、“東方の紙屋から仕入れた”という触れ込みの紙があった。黄みがかった薄皮のような質感で、指を当てるとピタッと張りつく感触。

だが、その吸着感が、雨の日にはどう働くか──そこが問題だ。

試しに一本、湿った室内でその紙を巻いてみる。

……なるほど。湿気を含むと、紙自体がわずかに伸びる。だが破けねぇ。指に吸いつくのに、巻いたあとはピシッと締まる。これなら──

「巻き方を変えるか……」

いつもは、親指と人差し指で端から転がすように巻くのが基本だったが、この紙にはそれが合わない。湿気で紙がわずかにふやけるせいで、端が浮く。

そこで、指の力を“横から押し当てるように”して、内側にたるみを作らず巻く。

ほんの少しずらしながら、指の腹で押し込むように紙を進める。

……おお。いける。

手の中で、紙が“音を立てずに巻かれていく”感覚がある。

「……湿気用タッチ法、ってとこだな」

ふざけた名前だが、要は“雨の粘り”を想定した巻き方。晴れた日にやったらきっと巻けない。だが今は、完璧に仕上がった。

巻いた葉巻を火鉢であぶって乾燥させる。指先でちょいとひねって、火をつけた。

「──お、これは……」

紙が焼ける音が、他と違う。雨気を含んだ紙が、じわじわと焦げていく。その過程で立ち上がる香りに、東方茶のような渋みがある。

葉と混ざって、独特の“包み込まれるような香り”になる。

「吸ったときの密度も、ちょっと重めだな。だが、悪くない」

煙が舌の奥で溶ける。紙の渋みと葉の甘みが、交互に出てくる感触。これは確実に、雨限定。

「名前……『ヒダリ巻き』、でいいか。タッチ法も左回りだしな」

ノートに、名前と巻き方の図、紙の特徴をメモする。

異国の紙は扱いが難しい。だが、雨の季節には、“こいつじゃなきゃ出せない味”がある。

火鉢の横に座り、コーヒーと合わせてもう一口。

雨が、壁を叩く音。

火が、炭を舐める音。

吸い込んだ煙が、喉を抜ける。

「……いい日だな」

ひとりで味わうには、もったいないくらいの完成度。

でもそれでいい。

誰にも邪魔されず、誰のためでもない。

“自分のためだけに仕上げる一本”──それが、一番旨い。
感想 5

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