独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第10章 おじさんと妖狐

第141話

店内に漂う煙の中、美女がぽつりと語り始めた。

「実は、あの時わたし、冒険者に追われておったんです。」

その言葉に、俺は目を細める。

「傷、そこで負ったのか。」

「まあな、あんたが手当てしてくれたおかげで、命拾いしたけどな。」

俺は煙を吐きながら、しばらく彼女の話に耳を傾ける。普通の人間なら、ここまで何も考えずに助けることはできないだろう。しかし、俺にとってはそれが当然だった。

「それにしても、どうしてあんたは、あんな目の前で助けようと思ったん?」

「別に…見過ごすわけにはいかんと思っただけだ。けがをしてる生き物が目の前にいたら、放っておけないだろう。」

彼女は微笑んだ。それは優しい笑顔だったが、どこか物悲しさを感じる。

「それが、わたしには嬉しかったんです。誰かに助けられた記憶が…長いこと、なかったもんで。」

その言葉に、俺は何も言えずに黙った。なぜだろう、彼女の言葉が、ひどく胸に響いた。俺の中にある“普通”の感覚は、どうやら彼女にはないものらしい。彼女にとって、助けてもらうことが、ひどく特別なことだったんだろう。

「妖狐ってのは、基本的には自由に生きてきたけど、どうしても他の存在との衝突が避けられない。人間の世界にも関わらない方がいいと思っていたんです。」

「そうか。」

俺は煙草を手に取る。煙を深く吸い込み、目を閉じる。彼女の言葉に、少しだけ共感を覚えた。

俺も、常に自由でいたいと思って生きてきたからだ。何も束縛されることなく、自分のペースで、思うように生きたい。そう思うと、彼女の言葉が少しだけ理解できる気がした。

「でも、こうして話すのは初めてかも。わたし、あんたのように、ただ普通に過ごしている人と話すのは。」

その言葉に、俺は少し驚いた。普通に過ごしている、か。そんな風に自分のことを言われることが、少し照れくさい。でも、考えてみると、そうだろうなと思う。

「確かに、俺も普通に過ごしているだけだ。特別に何かがあるわけじゃない。」

「それが、羨ましいんです。」

美女は煙をくゆらせながら、視線を遠くに向けた。その表情は、どこか遠い記憶を思い出すように見えた。

「あんたのように、ただ自分のペースで生きてることが、私にはすごく憧れるんです。自由って、意外と難しいもんで…」

「自由って、確かに難しいよな。」

俺はそれだけ返すと、煙草をもう一度吸った。その時、ふと彼女の表情が変わった。彼女は少し考えるように黙り込むと、静かに言った。

「わたし、もっと色々な話をしてみたくて。」

「話を?」

「そう、あなたのような普通の人の話を、もっと聞きたくて。」

俺は少し驚いた。普通の人?俺はただの店主だ。普通の、つもりだったけど。

「それじゃ、少しだけ話してみるか。」

そう言いながら、俺は新しいタバコを取り出した。彼女もそれに気づいて、微笑みながらキセルに手を伸ばす。

「お互い、煙を吹かしてゆっくり話していくのも、いいもんですね。」

「そうだな。」

俺は彼女と静かに煙を交換しながら、色々な話をしていった。
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