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第14章 おじさんと頑固なドワーフ
第177話
午後の二時を少し過ぎた頃だった。朝の慌ただしさも一段落し、常連の顔ぶれもちらほらと帰っていったあとの時間。店内は、焙煎を終えた豆の香りと、風に揺れるカーテンの音だけが支配していた。
ギィ……と、古びた扉がゆっくりと軋んだ音を立てた。
「……お?」
顔を上げると、背が低く、ずんぐりとした体格の男が立っていた。分厚い眉に、顔の半分を覆うような顎鬚。鼻は潰れたように大きく、手には重厚な革の手袋を嵌めたままだ。鋲の打たれた古いコートを着ていて、どこか鉱山の労働者のような雰囲気がある。
ドワーフだな──とすぐに察した。
彼は目線を一切合わせず、まっすぐ店の左手、入口近くの席へと向かい、無言のままどっかりと腰を下ろした。
「……なるほど」
言葉こそないが、態度ははっきりしている。“飲む気で来た”と、それだけは分かる。
カウンターの中から、俺はひとつ頷いてカップを選び、昨日焙煎したエルスの豆を使って珈琲を淹れた。香りは甘く、後味にかすかな苦味が残る、どこか土を思わせる風味。
テーブルにそっと置くと、男は無言のまま手を伸ばし、ゆっくりとカップを口へと運んだ。
ひと口、ふた口、そして──
表情は変わらない。眉一つ動かさないまま、男は淡々と飲み干した。音も立てず、ただ静かに、カップを最後まで傾けた。
飲み終えたあと、彼は一瞬だけ視線をこちらに向けた。言葉ではなく、首も動かさない。だが、その目だけがほんのわずかに柔らかくなっていた。
「……ごちそうさん、ってとこか」
呟いた俺の声に反応はなかったが、それで十分だった。男は立ち上がると、また無言で店を出ていった。
翌日、同じ時間、同じ音を立てて店の扉が開いた。
「……またか」
昨日とまったく同じ格好、同じ歩調、同じ無言。あのドワーフが再び店に現れた。今度は俺も何も言わずに珈琲を淹れた。
違う豆を使ってみるか──とも思ったが、結局昨日と同じエルスにした。反応がないなら、変化も要らない。
席に置くと、男はまた同じように飲み干し、同じように視線だけをよこしてから去っていった。
その翌日も、そのまた翌日も、変わらぬ時間に、同じように現れる。誰とも口をきかず、俺の淹れた珈琲を飲み、そして去っていく。
他の常連客たちも、その存在に気づかざるを得なくなっていた。
「あの人さ、声出るのかな?」
「おれ、昨日話しかけてみたんだけどよ、無視されたわ」
「怖いっていうより、なんか……鉄みたいな人だな」
噂はあっという間に広がったが、本人はまるで気にしていない。俺も、それでいいと思っていた。
「まぁ、飲みに来るならそれでいい」
誰にも合わせず、言葉すら交わさないが、毎日きっちりと時間を守り、律儀に飲んで帰る。
そういう筋の通し方は、俺は嫌いじゃない。
その日、記録帳の端に一行だけ書き加えた。
──無口の常連、定時来店。エルス好む傾向あり。
ギィ……と、古びた扉がゆっくりと軋んだ音を立てた。
「……お?」
顔を上げると、背が低く、ずんぐりとした体格の男が立っていた。分厚い眉に、顔の半分を覆うような顎鬚。鼻は潰れたように大きく、手には重厚な革の手袋を嵌めたままだ。鋲の打たれた古いコートを着ていて、どこか鉱山の労働者のような雰囲気がある。
ドワーフだな──とすぐに察した。
彼は目線を一切合わせず、まっすぐ店の左手、入口近くの席へと向かい、無言のままどっかりと腰を下ろした。
「……なるほど」
言葉こそないが、態度ははっきりしている。“飲む気で来た”と、それだけは分かる。
カウンターの中から、俺はひとつ頷いてカップを選び、昨日焙煎したエルスの豆を使って珈琲を淹れた。香りは甘く、後味にかすかな苦味が残る、どこか土を思わせる風味。
テーブルにそっと置くと、男は無言のまま手を伸ばし、ゆっくりとカップを口へと運んだ。
ひと口、ふた口、そして──
表情は変わらない。眉一つ動かさないまま、男は淡々と飲み干した。音も立てず、ただ静かに、カップを最後まで傾けた。
飲み終えたあと、彼は一瞬だけ視線をこちらに向けた。言葉ではなく、首も動かさない。だが、その目だけがほんのわずかに柔らかくなっていた。
「……ごちそうさん、ってとこか」
呟いた俺の声に反応はなかったが、それで十分だった。男は立ち上がると、また無言で店を出ていった。
翌日、同じ時間、同じ音を立てて店の扉が開いた。
「……またか」
昨日とまったく同じ格好、同じ歩調、同じ無言。あのドワーフが再び店に現れた。今度は俺も何も言わずに珈琲を淹れた。
違う豆を使ってみるか──とも思ったが、結局昨日と同じエルスにした。反応がないなら、変化も要らない。
席に置くと、男はまた同じように飲み干し、同じように視線だけをよこしてから去っていった。
その翌日も、そのまた翌日も、変わらぬ時間に、同じように現れる。誰とも口をきかず、俺の淹れた珈琲を飲み、そして去っていく。
他の常連客たちも、その存在に気づかざるを得なくなっていた。
「あの人さ、声出るのかな?」
「おれ、昨日話しかけてみたんだけどよ、無視されたわ」
「怖いっていうより、なんか……鉄みたいな人だな」
噂はあっという間に広がったが、本人はまるで気にしていない。俺も、それでいいと思っていた。
「まぁ、飲みに来るならそれでいい」
誰にも合わせず、言葉すら交わさないが、毎日きっちりと時間を守り、律儀に飲んで帰る。
そういう筋の通し方は、俺は嫌いじゃない。
その日、記録帳の端に一行だけ書き加えた。
──無口の常連、定時来店。エルス好む傾向あり。
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