独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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第14章 おじさんと頑固なドワーフ

第178話

それからの一週間、無口なドワーフは一日も欠かさずやって来た。季節の変わり目で気温の波も激しいというのに、彼の服装も、動きも、反応もまったく変わらない。まるで鍛冶場で打ち直された鋼のような男だ。客たちも最初の物珍しさこそあったが、今では“毎日現れる無言の人”として、特に誰も騒がなくなった。俺の方も、すっかり彼のルーティンを受け入れていた。

「今日もエルスでいいかね」

そう独り言のように呟きながら、豆を挽く。粉を湿らせて蒸らし、注湯は細く、途切れず、ゆっくりと。香りが立ち上がる頃には、彼はもういつもの席に座っている。

椅子の軋む音も、カップを置くときの沈黙も、全部が毎日の流れに溶け込んでいた。

不思議と、心地よさはあった。

言葉が交わされない分、こちらも余計な気遣いをする必要がない。俺はただ、求められた一杯を最上の形で提供する。それだけの、奇妙な関係。

ある日、いつもと違うものが目に入った。

彼がポケットから取り出した煙草。それが、手製だった。

葉の質は悪くないが、巻き紙が見慣れない。異国の文様が織り込まれた厚手の紙。装飾的というより、用途に即した堅牢さを感じる。

「あんた、それ……自分で巻いたのか?」

声をかけてみたが、案の定返事はなかった。ただ、カップの縁に視線を落としたまま、ゆっくりと火を点けた。

一口吸って、ゆるやかに煙を吐く。

それを見て、俺は興味を覚えた。

煙草も珈琲も嗜好品だ。どこで誰がどう楽しむかは自由だが、それにしても妙に渋い素材を使っている。面白い。

「ちょっと見せてもらっていいか?」

声をかけ、手を出すと、彼は一瞬だけ眉を動かした。が、それ以上の拒絶も見せず、無言で巻き煙草を一本差し出してくる。

手に取って確認する。紙は獣皮の繊維を漉いたもののようで、ざらりとした手触り。薬草の香りがわずかに混ざっている。

俺の店で扱っている煙草とは、方向性がまったく違うが……嫌いじゃない。

「ちょっと、作り直してみるか」

呟いて、カウンターの奥に引っ込んだ。

万能生成スキルを使うには“本当に作りたい”という意思が必要だ。俺は煙草が好きだし、この巻き紙にも惹かれるものがあった。だから、自然と力が湧いてくる。

紙には麻と獣皮のバランスを見直した独自素材を、葉はエルス南方の湿地で採れる芳香種をベースに、香料は加えず、乾燥と圧縮を丁寧に。

仕上がったそれを一本、彼の前にそっと置く。

「吸ってみろ。合うと思う」

彼は一瞬、目を細めたように見えたが、やはり無言でそれを取り、火を点けた。

ひと口吸い、ふっと吐く。

わずかに顎が上がり、目線が俺の方に寄った。口は開かない。だが、数秒間、じっと見つめられた。

それが、彼なりの“返答”だったのかもしれない。

翌日から、彼はいつもの珈琲と、昨日の煙草を無言で待つようになった。口はきかないが、カウンターに腰を下ろす前に一瞥だけよこすようになり、俺が準備を始めると、安心したように椅子へ腰を落とす。

そんな様子を見ていた他の客が言った。

「……なんか、あの人、少し丸くなった?」

「目がちょっと優しくなった気がするんだけど……気のせいか?」

「いや、俺も思った。前は金属の塊みたいだったけど、今は……なんつーか、燻された鉄って感じ?」

言いたいことはなんとなく分かる。無言のまま、珈琲と煙草の香りに包まれて過ごすあの姿は、どこか“馴染んだ”印象を与える。

言葉はなくとも、分かり合えることはある。嗜好品は、その橋渡しになる──そう思わせる日々が続いていた。

その日の記録帳には、こう書いた。

──煙草、交換成功。名も知らぬまま、常連度増す。
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