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第17章 おじさんとレザークラフト
第208話
マーレ村の朝は、いつもと変わらず、ゆっくりと時間が流れていた。
木々の葉がざわめく音と、遠くで鳥が鳴く声。小屋の前の丸太に腰掛けて、湯気の立つカップを手にしながら一服するのが、いつもの日課だ。
その日は、ふとした偶然から始まった。
「……おい」
低く、乾いた声が背後からかかった。
振り返ると、そこにいたのは、頑固一徹なドワーフ職人──ドルガンだった。身長は俺の胸元ほどしかないが、がっしりした体つきと濃い灰色の髭で、威圧感は十分ある。
「珍しいな。あんたがこっちに来るなんて」
「用事があった」
そう言うなり、ずしりと重そうな袋を投げて寄越してきた。反射的に受け取ったが、予想以上に重く、思わず腰を入れる。
「なんだこれ」
「革細工の道具だ。いらんからやる」
「いらんって……」
袋の中を覗くと、渋い色合いの木箱がいくつか収まっていた。その中には、槌、刻印、カッター、糸、針、そしてコバ処理用のガラス板まで入っている。どう見ても、初心者向けのスターターセットなんかじゃない。本気の職人が使っていた道具だ。
「これは……上物だな」
「使わんものは、腐らせるより、使える奴にやるほうがましだ」
「誰が使えるって?」
「おまえだ」
そう言って、ぶっきらぼうに背を向けた。
「……コーヒーと煙草、うまかった。礼だ」
そう付け加えて、ドルガンはもう何も言わずに、林の向こうへと消えていった。
あいつが、こんなふうに礼を言うなんて、かなり珍しい。あの性格じゃ、下手すりゃ死ぬまで「ありがとう」なんて言わないんじゃないかと思ってたが……まあ、それだけ本気で評価してくれたってことだろう。
「……革細工、か」
袋を開けて、ひとつひとつの道具を手に取る。どれも、丁寧に使い込まれていた跡がある。刃は鋭く、柄は手に馴染む形に削られていた。
手の中で、革包丁の重さを確かめる。槌の柄に、わずかに汗の匂いが残っていた。こいつは、ただの道具じゃない。使い込まれた職人の時間そのものが詰まっている。
「……悪くないな」
どれだけ精巧に作られた道具も、ただ並べておくだけでは意味がない。使って、馴染ませて、自分の技として積み重ねていかなければ──。
万能生成スキルを使えば、革製品だって一瞬で最高のものを作れるかもしれない。でも、そうじゃねえんだよな。
せっかく手に入れたこの道具たち。ドルガンの手を離れた今、それをただ持ってるだけってのは、あまりに惜しい。
「ためしてみるか」
俺はそう呟いて、木箱を抱えたまま、小屋の中へと入っていった。
木々の葉がざわめく音と、遠くで鳥が鳴く声。小屋の前の丸太に腰掛けて、湯気の立つカップを手にしながら一服するのが、いつもの日課だ。
その日は、ふとした偶然から始まった。
「……おい」
低く、乾いた声が背後からかかった。
振り返ると、そこにいたのは、頑固一徹なドワーフ職人──ドルガンだった。身長は俺の胸元ほどしかないが、がっしりした体つきと濃い灰色の髭で、威圧感は十分ある。
「珍しいな。あんたがこっちに来るなんて」
「用事があった」
そう言うなり、ずしりと重そうな袋を投げて寄越してきた。反射的に受け取ったが、予想以上に重く、思わず腰を入れる。
「なんだこれ」
「革細工の道具だ。いらんからやる」
「いらんって……」
袋の中を覗くと、渋い色合いの木箱がいくつか収まっていた。その中には、槌、刻印、カッター、糸、針、そしてコバ処理用のガラス板まで入っている。どう見ても、初心者向けのスターターセットなんかじゃない。本気の職人が使っていた道具だ。
「これは……上物だな」
「使わんものは、腐らせるより、使える奴にやるほうがましだ」
「誰が使えるって?」
「おまえだ」
そう言って、ぶっきらぼうに背を向けた。
「……コーヒーと煙草、うまかった。礼だ」
そう付け加えて、ドルガンはもう何も言わずに、林の向こうへと消えていった。
あいつが、こんなふうに礼を言うなんて、かなり珍しい。あの性格じゃ、下手すりゃ死ぬまで「ありがとう」なんて言わないんじゃないかと思ってたが……まあ、それだけ本気で評価してくれたってことだろう。
「……革細工、か」
袋を開けて、ひとつひとつの道具を手に取る。どれも、丁寧に使い込まれていた跡がある。刃は鋭く、柄は手に馴染む形に削られていた。
手の中で、革包丁の重さを確かめる。槌の柄に、わずかに汗の匂いが残っていた。こいつは、ただの道具じゃない。使い込まれた職人の時間そのものが詰まっている。
「……悪くないな」
どれだけ精巧に作られた道具も、ただ並べておくだけでは意味がない。使って、馴染ませて、自分の技として積み重ねていかなければ──。
万能生成スキルを使えば、革製品だって一瞬で最高のものを作れるかもしれない。でも、そうじゃねえんだよな。
せっかく手に入れたこの道具たち。ドルガンの手を離れた今、それをただ持ってるだけってのは、あまりに惜しい。
「ためしてみるか」
俺はそう呟いて、木箱を抱えたまま、小屋の中へと入っていった。
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