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第17章 おじさんとレザークラフト
第212話
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薪割り用のナイフが、ずっと気になっていた。
元々は市場の道具屋で買った、小ぶりな鉄製の刃物。全長二十センチほど、柄は滑り止めの麻紐巻きで、刃自体は短くて分厚い。手斧ほどの力はないが、乾いた薪を割るにはちょうどいい相棒だ。
問題は、その収納だった。
布でぐるぐる巻きにして、作業台の端に立てかけてあるだけ。何か作業している拍子に落ちて、刃先が床に刺さる──そんな場面が二度三度続いたあたりで、さすがに考えるようになった。
「……やっぱり、鞘がいるか」
どうせなら、腰に吊るせるようにしておいた方がいい。使うときはすっと抜けて、仕舞うときは吸い込まれるように収まる、そんなホルスターがひとつあれば、それだけで気分が変わる。
革細工の棚から、適度に厚みのあるタンニンなめしの一枚を引っ張り出す。色は濃いめの赤茶、使い込むほど艶が出るタイプ。刃物と合わせるには悪くない。
「収まりが命だからな」
ニヤつきながら、型紙を手にとって、ナイフの形に合わせて輪郭を写す。刃渡りぴったりの幅に、少しだけ余裕を持たせて、全体を包む構造に。
厚みがあるぶん、切り出しにはやや力がいる。革包丁を手に取り、しっかりと角度をつけて、一気に刃を滑らせる。ざく、と音がして、手応えが手首に残る。
切り出した革を手にとって、指先でなぞる。
「いい……な」
しっとりと吸い付くような質感。まるで、手のひらに馴染むような感触。ナイフを乗せてみると、ぴたりと形が合った。
縫い目用に目打ちを入れ、革用の接着剤を薄く塗る。合わせて、仮止め。針にリネン糸を通し、ゆっくりと縫い合わせていく。
革が重なっているぶん、針の通りは硬い。だが、その抵抗もまた、物を作っている実感に変わる。革と糸が引き合い、やがて一体になる瞬間は、何度体験しても飽きない。
「さて、ベルトループだな」
腰に吊るすためのベルト通しを裏側に取り付ける。革の強度を考えて、少し幅広に。真鍮のリベットを使い、補強もしておく。これで多少引っ張ってもびくともしない。
ホルスターの先端に小さな飾り刻印を打ち込む。特に意味はないが、こういう遊び心があると、持ち物に「愛着」が生まれる。使い捨てではなく、ずっと傍に置いておきたくなるような──そんな物に仕上げたかった。
コバを磨き、蜜蝋を染み込ませ、表面を丁寧にブラッシングする。革の色が、ぐっと深みを増していく。光の当たり方で、艶が波打つように見えた。
完成したホルスターに、ナイフを差し込んでみる。
スッと、まるで吸い込まれるように刃が収まり、革がそれを優しく受け止める。無駄なガタつきはない。しっかりと包み込みながらも、抜くときは滑らかに出てくる。
「……ほう」
試しに腰に巻いたベルトに通し、立ち上がってみた。ナイフの重みが腰に伝わる感触、歩くときに揺れる革の動き、そのどれもが悪くない。
鏡はないが、きっと傍目にはそれなりに様になっているはずだ。
それだけで少し、背筋が伸びた。
「切れ味も大事だが……やっぱり、収まりがな」
独りごちて、またニヤリと笑う。
壁に設けたフックにもぴたりと掛かるように、ベルトループの幅は調整済み。作業中、腰に吊るしてもいいし、店の壁に飾っておいてもいい。
誰に見せるでもない、自分だけの満足。そのためにここまで丁寧に作り込んだのだ。
タバコを取り出し、火をつけて一口吸う。
紫煙が鼻を抜け、ナイフシースの革の香りと混ざり合った。
煙の中に立ち上るその匂いが、なんとも心地よかった。
元々は市場の道具屋で買った、小ぶりな鉄製の刃物。全長二十センチほど、柄は滑り止めの麻紐巻きで、刃自体は短くて分厚い。手斧ほどの力はないが、乾いた薪を割るにはちょうどいい相棒だ。
問題は、その収納だった。
布でぐるぐる巻きにして、作業台の端に立てかけてあるだけ。何か作業している拍子に落ちて、刃先が床に刺さる──そんな場面が二度三度続いたあたりで、さすがに考えるようになった。
「……やっぱり、鞘がいるか」
どうせなら、腰に吊るせるようにしておいた方がいい。使うときはすっと抜けて、仕舞うときは吸い込まれるように収まる、そんなホルスターがひとつあれば、それだけで気分が変わる。
革細工の棚から、適度に厚みのあるタンニンなめしの一枚を引っ張り出す。色は濃いめの赤茶、使い込むほど艶が出るタイプ。刃物と合わせるには悪くない。
「収まりが命だからな」
ニヤつきながら、型紙を手にとって、ナイフの形に合わせて輪郭を写す。刃渡りぴったりの幅に、少しだけ余裕を持たせて、全体を包む構造に。
厚みがあるぶん、切り出しにはやや力がいる。革包丁を手に取り、しっかりと角度をつけて、一気に刃を滑らせる。ざく、と音がして、手応えが手首に残る。
切り出した革を手にとって、指先でなぞる。
「いい……な」
しっとりと吸い付くような質感。まるで、手のひらに馴染むような感触。ナイフを乗せてみると、ぴたりと形が合った。
縫い目用に目打ちを入れ、革用の接着剤を薄く塗る。合わせて、仮止め。針にリネン糸を通し、ゆっくりと縫い合わせていく。
革が重なっているぶん、針の通りは硬い。だが、その抵抗もまた、物を作っている実感に変わる。革と糸が引き合い、やがて一体になる瞬間は、何度体験しても飽きない。
「さて、ベルトループだな」
腰に吊るすためのベルト通しを裏側に取り付ける。革の強度を考えて、少し幅広に。真鍮のリベットを使い、補強もしておく。これで多少引っ張ってもびくともしない。
ホルスターの先端に小さな飾り刻印を打ち込む。特に意味はないが、こういう遊び心があると、持ち物に「愛着」が生まれる。使い捨てではなく、ずっと傍に置いておきたくなるような──そんな物に仕上げたかった。
コバを磨き、蜜蝋を染み込ませ、表面を丁寧にブラッシングする。革の色が、ぐっと深みを増していく。光の当たり方で、艶が波打つように見えた。
完成したホルスターに、ナイフを差し込んでみる。
スッと、まるで吸い込まれるように刃が収まり、革がそれを優しく受け止める。無駄なガタつきはない。しっかりと包み込みながらも、抜くときは滑らかに出てくる。
「……ほう」
試しに腰に巻いたベルトに通し、立ち上がってみた。ナイフの重みが腰に伝わる感触、歩くときに揺れる革の動き、そのどれもが悪くない。
鏡はないが、きっと傍目にはそれなりに様になっているはずだ。
それだけで少し、背筋が伸びた。
「切れ味も大事だが……やっぱり、収まりがな」
独りごちて、またニヤリと笑う。
壁に設けたフックにもぴたりと掛かるように、ベルトループの幅は調整済み。作業中、腰に吊るしてもいいし、店の壁に飾っておいてもいい。
誰に見せるでもない、自分だけの満足。そのためにここまで丁寧に作り込んだのだ。
タバコを取り出し、火をつけて一口吸う。
紫煙が鼻を抜け、ナイフシースの革の香りと混ざり合った。
煙の中に立ち上るその匂いが、なんとも心地よかった。
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