独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第17章 おじさんとレザークラフト

第216話

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カウンターの隅に、鍵とマッチ、それに巻き煙草を無造作に放っていた。

いつものことだが、ふとした拍子にそれが転がって落ちたり、探す手間が増えたりすると、小さな不便が積み重なる。

「……だったら、受け皿を作るか」

呟いた声に誰も返事はしないが、それで十分だった。

選んだのは、厚手のヌメ革。明るめのキャメルブラウンで、使い込むほど飴色に深まっていくタイプ。小物用としては文句なしの素材だ。

サイズは手のひらふたつ分。四隅を持ち上げてリベットで留める構造にする。中に煙草を放り込んでも、角が立たず、見た目にも柔らかい印象になる。

革を裁ち、四角く整える。

エッジを軽く丸め、コバを磨く。表面には薄く蜜蝋を馴染ませ、艶が出る程度にブラッシング。何かを盛るわけじゃない。ただ、置いておくだけ。それでも質感にはこだわる。

「使うときより、使わないときに洒落てるほうが、性に合う」

角を持ち上げ、リベットを通す。ぎゅっと締めると、自然と立ち上がった革が、ふわりとした柔らかい形を作った。

しっかりと自立し、底にはわずかなクッション性がある。

試しにマッチを入れてみる。軽く放っても、音がしない。煙草と鍵も並べて、指先で位置を調整する。

それだけで、場が整ったような気がした。

読書机の隅にもう一つ。こちらには、文鎮代わりの小石と、紙片、それに使いかけのペンが入っている。

二つ、三つと作るうち、革の色合いや形にも違いが出てきた。少し大きめのもの、四角よりも丸みを帯びたもの。柔らかな革の折り返しが、それぞれ違う表情を見せている。

ある日、ふらりとやってきた旅人がカウンターに腰掛け、煙草をくゆらせながら言った。

「この小物置き、洒落てるな」

俺はコーヒーを淹れながら、特に顔も上げずに答えた。

「そうかい」

それだけ言って、ミルから挽いた豆をドリッパーに落とす。客はそれ以上深く聞いてこなかったが、視線だけは、しばらくその革トレイに留まっていた。

見せびらかすつもりはない。ただ、使いたいと思う自分のために作った。それが誰かの目に止まって、何か感じるなら、それはそれでいい。

レザートレイは、置くだけで空間が整う。

何も言わず、何も主張しないのに、不思議とその場に「あるべきもの」として落ち着く。まるで、長くそこにあったように。

指先でトレイの縁をなぞると、革がしっとりと手に馴染む。放っておいても気にならないが、手に取ると安心する。

そういう道具が、俺は好きだ。

コーヒーを飲み終えたあと、使い終えたマッチをそっとトレイに戻す。

それだけで、どこか満たされるような気がする。

道具がきちんと帰る場所を持つというのは、それだけで暮らしが整う。

革のトレイは、今日も何も語らず、黙って受け止めてくれている。
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