サハギンに転生した俺、最弱から進化して海の覇王になりました

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第57話

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谷底にさらに口を開けた暗闇があった。
深海渓谷のさらに奥、地獄の入口みたいな裂け目。
そこから、ぞわりとした嫌な気配が漂ってくる。

(行くぞ)

手を振って部隊を進めた。
フィンがすぐ横に寄ってきて言った。

(王、深入りしすぎでは?)

(問題ない。敵の本拠地を叩かずして、支配は成らん)

(……了解)

兵たちは緊張を滲ませながらも、俺についてくる。
忠誠心と恐怖心が入り混じった、いい顔をしていた。

裂け目に近づくと、空気が変わった。
重い。まとわりつく。
感知スキルが、無数の小さな存在を探知している。

(フィン、周囲に警戒網を敷け)

(了解!)

指示一つで、遊撃隊が散開する。
数秒後、報告が飛び込んできた。

(王、前方に大群!)

(数は?)

(ざっと百を超えます!)

(よし、まとめて狩る)

俺は骨槍を構え、前へ出た。
数で圧すつもりなら、相応の覚悟を見せてもらおうか。

闇の中から現れたのは、小型の深海種たちだった。
腐敗した魚のような体に、異様に発達した牙。
目は濁り、理性など欠片もない。

「ギャアアア!」

「ググググッ!」

不協和音みたいな叫び声を上げながら、群れが突進してくる。

(フィン、突撃許可!)

(突撃! 突撃ィィィ!!)

咆哮と共に、俺たちも突っ込んだ。

俺は真っ先に先頭の一匹を叩き潰した。
骨槍を突き刺し、肉を裂き、体液を撒き散らしながら進む。

兵たちも負けていない。

「斬れぇぇぇ!」

「まとめてぶち殺せぇ!」

「潰せ! 潰せぇぇ!」

重なり合う叫び声と血飛沫が、海底を赤黒く染めた。

敵は数だけなら多かった。
だが、質が違う。
訓練を積んだ俺たちと、腐った群れとでは、戦闘にならない。

一匹、二匹、三匹──
俺は骨槍を折った後、牙と爪に切り替え、無双した。

一閃。
肉が飛び、骨が砕ける。

一撃。
水泡と共に、敵が絶命する。

フィンが叫んだ。

(王、後方に回り込もうとする個体が!)

(任せた)

(了解ッ!)

遊撃隊がすぐに動き、背後を狙った敵を切り裂いた。
それを横目に見ながら、俺はさらに前へ。

闇の奥、強い波動が近づいてくる。
今までとは比べ物にならない、強烈な圧。

(来たな)

裂け目の中心から、異様な存在が現れた。

巨大なクラゲに似た、ぬめった触手を無数に持つ怪物。
核のような黒い珠が中心に浮かび、そこから瘴気が滲み出している。

俺は目を細めた。

(あれが本体か)

核を破壊すれば勝ちだ。
理屈は簡単だが、近づくのが問題だ。

クラゲ型の怪物は、周囲に強烈な電撃を撒き散らしていた。

ビリビリと海水が震え、兵たちが呻き声を上げる。

「ぐっ……!」

「痺れるっ……!」

(全兵、距離を取れ! 俺がやる!)

命令を飛ばし、俺は一気に加速した。
水流支配、高速遊泳、硬鱗化、すべてを総動員する。

クラゲ型の電撃をギリギリでかわしながら、核を目指す。
触手が襲い掛かってくるが、全部避けた。

そして、一撃。
硬鱗化した爪で、核に向かって叩き込んだ。

ガギィッ!!

手応え。だが、砕けない。

(クソ、硬いか!)

触手がまとわりついてきた。
俺は水圧噴射を使って一気に振り払った。

フィンが援護に来た。

(王、援護します!)

(いい、下がれ! こいつは俺がやる)

クラゲ型の怪物が怒り狂ったように暴れる。
電撃が迸り、触手が嵐のように吹き荒れる。

だが、俺は止まらない。
何度でも核を狙う。
何度でも叩き込む。

ガン、ガン、ガン──

核にヒビが入った。

(割れる)

最後の一撃。
力を込め、渾身の一撃を叩き込んだ。

グシャアアアアア!!

核が砕けた瞬間、クラゲ型の怪物が爆散した。
瘴気が消え、海底に静寂が戻った。

フィンが駆け寄ってくる。

(王! 勝利です!)

(当然だ)

兵たちが歓声を上げた。

「王の勝利だ!」

「深海の魔物を倒したぞ!」

「我らが王に、栄光あれぇ!」

だが、俺はまだ満足していなかった。

この奥に、もっと強い存在がいる。
深海種の王。
それを叩き潰さなければ、この戦いは終わらない。

俺は振り返り、命じた。

(進軍を続行する)

兵たちが力強く応じた。

(オオオオオオ!!)

血と鉄の匂いを纏いながら、俺たちはさらに深くへと進んだ。
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