【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

文字の大きさ
20 / 80

20

しおりを挟む
日もすっかり落ちて、街の灯りがキラキラと輝き始めた頃、私はまた別のバーに足を運んでいた。
その名は「ヴァルムール」。ここは、あのモンス飯亭とは違って、静かで落ち着いた雰囲気のカクテルバーだ。
薄暗い照明の下、赤いカーテンが優しく揺れている。オーナーが厳選したオリジナルカクテルがメインの、隠れ家のような店だ。

「いらっしゃいませ、レナさん。今日は何をお作りしましょうか?」

店主のラルフさんが、いつもの穏やかな笑顔で迎えてくれる。
ラルフさんは私がこの店に来る度、少しずつ新しいカクテルを考えてくれているのだ。
どうしてもお酒のことになると、ついつい長くなってしまうけれど、今日も何か新しいものをお願いしよう。

「こんばんは、ラルフさん。今日も美味しいカクテル、楽しみにしてます!」

「ありがとうございます。では、今日は少し変わったものを。
“フェアリー・ガーデン”というカクテルを作りましょう。
この街でも、あまり見かけない、特別なフルーツを使います。」

「わぁ、気になる! それに“フェアリー・ガーデン”って名前も可愛いですね!」

ラルフさんが言う通り、私はその名前から感じる、少し夢のある感じに惹かれていた。
とても楽しみだ。

しばらくして、ラルフさんが新しいカクテルを持ってきてくれた。
グラスには薄い緑色が美しく映え、そこに細かくカットされた金色の果実が浮かんでいる。
果実の甘い香りと、草花のような爽やかな香りがふわりと漂って、すぐにその魅力に引き込まれた。

「これは……? まるでお花畑の中にいるみたい!」

「その通りです。これは“フェアリー・ガーデン”です。
フルーツの“ライム・ブロッサム”をベースにして、花の香りを加えたシロップを使っています。
ライムのさっぱりとした味わいに、華やかな花の香りが広がります。」

私はグラスを持ち上げ、一口含んだ。
その瞬間、舌先で広がる爽やかさと共に、甘い花の香りがふわっと広がって、まるで緑の野原に寝転んでいるかのような感覚に包まれる。

「うん、すごくフレッシュ! 花の香りがこんなに強いカクテル、初めてかも。」

「ありがとうございます。私もこのカクテルは、少し思い切って花の成分を濃くしてみました。
それに、少しだけシナモンを加えることで、後味にちょっとした深みも加わっているんですよ。」

「あ、シナモン! ほんのりスパイスが効いてて、後から追いかけてくる感じがたまりません。」

満足そうに微笑んで、私はまた一口カクテルを楽しんだ。
その時、店主ラルフさんが、もう一つの新しいおつまみを持ってきてくれる。

「おつまみも新しく考えてみました。“エルフの森風カナッペ”です。
乾燥したドライフルーツと、ゴルゴンゾーラチーズを使ったおつまみです。甘さと塩気がちょうどよく、カクテルとの相性も抜群です。」

「エルフの森風!? それって、なんだかワクワクしますね!」

ちょっと大げさに目を輝かせながらカナッペをつまむと、ドライフルーツの甘さとチーズの塩気が絶妙に絡み合って、意外にもカクテルとよく合う。
口に入れた瞬間、芳醇な味わいが広がり、さらにカクテルが引き立つような感じがした。

「これは、予想以上に……!」

「自分で言うのもなんですが、これ、結構いけるんですよ。チーズとドライフルーツの相性を試した結果、
ちょっと変わった味わいに仕上がりました。」

「本当にすごい! 甘いけど、少しスパイシーで……何度でもつまみたくなる!」

すっかり満足して、カクテルとおつまみを交互に味わいながら、私はほっとした息をつく。
こんな時間が一番幸せだな、と思う。

店の隅のテーブルから流れてくる、ジャズのメロディも、今の私にはぴったりだ。
外の世界がどうなっているかなんて、全く気にならない。
ただ、ここでこの瞬間を楽しんでいたいと思う。
そのうち、ラルフさんがまたカクテルを作り始めて、私はその様子を楽しみながら、口にしたばかりのカクテルの余韻を感じていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...