元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

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翌朝、いつものように太陽の光で目が覚めた。
窓を開けると、爽やかな風が部屋に入り込んでくる。
今日はどんな一日になるだろう。
昨日と同じように、穏やかで美味しいものに出会える一日だといいな。

身支度を整え、ギルドへと向かう。
朝の街は活気に満ちていて、道行く人々の表情もどこか明るい。
私も自然と背筋が伸びるような気分になる。

「おはようございます」

ギルドの受付カウンターに立つと、いつものように冒険者たちが依頼を求めてやってくる。
一人一人に丁寧に対応し、書類を処理していく。
時には厄介な依頼や、少し態度の悪い冒険者もいるけれど、それも日常の一部だ。
元Sランクだった頃の経験が、今の仕事にも無意識のうちに役立っているのかもしれない。
冷静に状況を判断し、的確にアドバイスをする。
それが、今の私にできること。

午前中の業務が一段落し、少しだけ休憩を取ることにした。
給湯室で温かいお茶を淹れていると、後輩のナナミちゃんがやってきた。

「佐倉さーん、お疲れ様です!」

「ナナミちゃんもお疲れ様。今日も忙しいわね」

「はいー!でも、なんだか今日はいいことありそうな予感がするんですよねー!」

ナナミちゃんはいつも元気いっぱいで、見ているこっちまで明るい気持ちになる。

「あら、そうなの?何かいいことって?」

「それがまだ分からないんですけど、なんとなくです!あ、そうだ佐倉さん、今日のお昼ってどうします?」

「お昼?そうねぇ、まだ決めてないけど……」

「じゃあ、もしよかったら、駅前に新しくできたサンドイッチ屋さん、一緒に行きませんか?すっごく美味しいって評判なんですよ!」

ナナミちゃんが目をキラキラさせながら誘ってくれる。
新しいお店か。それはちょっと気になるかもしれない。

「サンドイッチ屋さん、いいわね。どんなサンドイッチがあるの?」

「それがですね、分厚いお肉が挟まってるのとか、フルーツがたっぷり入ったデザート系とか、色々あるみたいで!私もまだ行ったことないんですけど、写真見ただけでもうヨダレが……」

ナナミちゃんの説明を聞いているだけで、確かにお腹が空いてくる。
たまにはこうして、誰かと一緒にランチをするのも悪くないかもしれない。

「ふふ、ナナミちゃんの説明が上手だから、私も行きたくなっちゃったわ。じゃあ、お昼休みになったら一緒に行きましょうか」

「本当ですか!?やったー!佐倉さんとランチなんて、すっごく嬉しいです!」

大げさなくらい喜んでくれるナナミちゃんに、私も思わず笑みがこぼれる。
今日のランチは、いつもとは少し違う楽しみがありそうだ。

昼休みになり、ナナミちゃんと一緒にギルドを出て駅前へと向かう。
普段一人で行動することが多いから、こうして誰かと並んで歩くのは少し新鮮な気分だ。
ナナミちゃんは道中もずっと楽しそうに話していて、聞いているだけでも面白い。

「あ、見えてきました!あそこです、あの可愛い看板のお店!」

ナナミちゃんが指差す先には、確かにおしゃれな外観のサンドイッチ屋さんがあった。
ガラス張りの店内からは、美味しそうなパンの香りが漂ってくる。

「わぁ、本当におしゃれなお店ね。お客さんも結構入ってるみたい」

「人気なんですよー!早くしないと売り切れちゃうかも!」

ナナミちゃんに急かされるようにして店内に入ると、ショーケースには色とりどりのサンドイッチがずらりと並んでいた。
どれも具沢山で、見ているだけで目移りしてしまう。

「うわぁ……どれにしようか迷っちゃいますね、佐倉さん!」

「本当に。どれも美味しそう……」

ナナミちゃんは目を輝かせながら、あれこれと悩んでいる。
私はショーケースをじっくりと眺め、今日の気分に合いそうな一品を探す。
ガッツリ系のミートサンドも魅力的だけど、野菜がたっぷり入ったヘルシーなものもいい。
甘いフルーツサンドも、デザート代わりに良さそうだ。

(うーん、どうしようかな……)

迷った末に、私はローストビーフと彩り野菜のサンドイッチを選んだ。
ナナミちゃんは、悩みに悩んだ結果、エビとアボカドのサンドイッチと、デザート用にいちごのフルーツサンドを選んでいた。
さすがナナミちゃん、食欲旺盛だ。

テイクアウト専門のお店のようだったので、近くの公園のベンチで食べることにした。
天気も良くて、外で食べるランチは気持ちがいい。

「じゃあ、いただきまーす!」

ナナミちゃんの元気な声とともに、私もサンドイッチの包みを開ける。
ふんわりとしたパンに、たっぷりのローストビーフとシャキシャキの野菜が挟まれている。
見た目も美しくて、食欲をそそる。

一口食べると、パンの柔らかさと、ジューシーなローストビーフの旨みが口の中に広がった。
野菜の新鮮な歯ごたえと、特製のソースの酸味も絶妙なバランスだ。

「……んっ、美味しい!」

思わず声が漏れる。
これは、確かに評判になるだけのことはある。

「でしょー!佐倉さんのも美味しそうですね!」

ナナミちゃんも、大きな口でサンドイッチを頬張りながら満足そうだ。
彼女が選んだエビとアボカドのサンドイッチも、プリプリのエビと濃厚なアボカドがたっぷりで、とても美味しそうに見える。

「ナナミちゃんのも美味しそうね。今度来た時は、そっちも試してみようかな」

「ぜひぜひ!あ、こっちのフルーツサンドも、ちょっと食べます?」

そう言って、ナナミちゃんがいちごのフルーツサンドを少し分けてくれた。
ふわふわの生クリームと甘酸っぱいいちごが、口の中でとろける。
これは、完全にデザートだ。

「ありがとう、ナナミちゃん。これもすごく美味しいわ」

「えへへー、美味しいものを共有できるって、幸せですよね!」

ナナミちゃんの言葉に、私も頷く。
一人で食べる食事も好きだけど、こうして誰かと美味しいものを分け合って食べるのも、また違った楽しさがある。
いつもは〈モンス飯亭〉で一人静かに晩酌をするのが私の定番だけど、たまにはこういう賑やかなランチもいいかもしれない。

食後には、近くのカフェでコーヒーを買って、少しだけおしゃべりを楽しんだ。
ナナミちゃんはギルドの仕事の話から、最近流行っているスイーツの話まで、話題が尽きない。
彼女と話していると、あっという間に時間が過ぎていく。

「あ、もうそろそろ時間ですね。佐倉さん、今日は本当にありがとうございました!すっごく楽しかったです!」

「こちらこそ、誘ってくれてありがとう、ナナミちゃん。私も楽しかったわ」

「またぜひ一緒に行きましょうね!」

「ええ、もちろん」

ナナミちゃんと別れてギルドに戻ると、午後の業務が待っていた。
でも、美味しいランチと楽しい会話のおかげで、心なしか体も軽く感じる。
たまには、日常の中にこういう小さな変化を取り入れるのもいいものだ。

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