【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

旅する書斎(☆ほしい)

文字の大きさ
50 / 80

50

しおりを挟む
ギルドもいつもの日常を取り戻し、私は再び、受付嬢としての穏やかな日々を送っていた。
森の賢者を狙っていたならず者たちも、あれ以来ぱったりと姿を見せなくなったという。
私のささやかな魔法が、少しは効果を発揮してくれたようだ。

(これで、心置きなく美味しいご飯とお酒を楽しめるわ……!)

そんなことを考えながら、定時ぴったりに仕事を終えた私は、スキップでもしそうな軽い足取りで〈モンス飯亭〉へと向かった。
今日の私は、最高に美味しいものを食べる権利があるはずだ。
何しろ、陰ながら街の平和を守ったのだから。

「いらっしゃい、レナちゃん。なんだか、今日は一段とご機嫌じゃないか」

暖簾をくぐると、女将さんがいつものように温かい笑顔で迎えてくれた。
彼女には、私の考えていることなどお見通しなのだろう。

「ええ、まあ。今日は、ちょっとだけ良いことがあったので。だから、今夜はぱーっと、美味しいものをいただこうかと思いまして!」

「はいはい、了解したよ。それじゃあ、今日はレナちゃんのために、腕によりをかけて、とっておきの料理を振る舞ってあげようじゃないか」

女将さんの言葉に、私の期待は最高潮に達する。
一体、どんな料理が出てくるのだろうか。

カウンターに座り、まずはキンキンに冷えたビールで喉を潤す。
ぷはーっ、と息を吐き出すと、一日の疲れが綺麗に洗い流されていくようだ。
この一杯のために、私は毎日頑張っていると言っても過言ではない。

「さあ、お待たせ。まずは、前菜からね。『深海ダコと彩り野菜のマリネ~魔法のジュレを添えて~』だよ」

女将さんが差し出してくれたのは、ガラスの器に美しく盛り付けられた、涼しげな一品だった。
プリプリとした深海ダコの薄切りと、色鮮やかなパプリカやキュウリ、タマネギのマリネ。
その上には、キラキラと輝く透明なジュレがかけられている。

「うわぁ……綺麗……。食べるのがもったいないくらいですね」

「ふふ、見た目だけじゃないよ。そのジュレはね、少しだけ魔力を込めて作った、特製の柑橘風味のジュレなんだ。食べると、気分がすっきりする効果もあるんだよ」

魔力入りのジュレ……!
さすが女将さん、やることが違う。

一口食べると、まずタコの弾力のある食感と、野菜のシャキシャキ感が心地よい。
そして、魔法のジュレが口の中で溶けると、爽やかな柑橘系の香りと、ほんのりとした甘みが広がり、マリネ全体の味を一つにまとめ上げている。
これは、確かに気分がすっきりする美味しさだ。
ビールとの相性も抜群で、前菜からもう箸が止まらない。

「美味しい……!このジュレ、どうやって作ってるんですか?爽やかなのに、味に深みがあって……」

「それは、企業秘密ってやつさ。でも、レナちゃんが気に入ってくれて何よりだよ」

女将さんは悪戯っぽく笑うと、次の料理の準備に取り掛かった。
次に登場したのは、こんがりと焼き上げられた、大きな魚のグリルだった。
皮目には綺麗な焼き色がつき、身はふっくらとしていて、ハーブのいい香りが漂ってくる。

「これは、『大王イワナのハーブ塩釜焼き』。丸ごと一匹、贅沢に使ってみたよ。岩塩とハーブで包んで、じっくりと焼き上げたから、身の旨みがぎゅっと凝縮されてるはずさ」

大王イワナ……!
川の主とも呼ばれる、巨大な幻の魚だ。
その大きさは、ゆうに一メートルを超えるという。
こんな貴重な魚を、塩釜焼きでいただけるなんて。

ナイフを入れると、パリッとした皮の下から、ほかほかと湯気を立てる、真っ白な身が現れた。
一口食べると、まずその身の柔らかさと、上品な脂の乗りに驚かされる。
パサつきは一切なく、しっとりとしていて、噛むほどにイワナ本来の甘みと旨みがじゅわっと口の中に広がる。
ハーブの爽やかな香りと、岩塩の程よい塩気が、その旨みをさらに引き立てている。

「……信じられない……。魚料理で、こんなに感動したのは初めてかもしれません……」

「そうだろう?大王イワナは、その大きさと力強さから、昔から王様の魚って言われてるんだ。食べると、力がみなぎってくるってね」

女将さんの言葉通り、この大王イワナを食べていると、体の内側からエネルギーが湧いてくるような気がした。
リリアちゃんの一件で少しだけ使ってしまった力を、補充してくれるような、そんな力強い味わいだ。

魚料理に合わせて、女将さんはキリッと冷えた白ワインを出してくれた。
辛口で、フルーティーな香りのするこの白ワインは、大王イワナの上品な味わいと見事にマッチしている。
ワインを一口、そしてイワナを一口。
ああ、なんて贅沢な時間だろう。

大王イワナを夢中で堪能していると、ふと、隣の席に座っていた常連の冒険者のおじさんが、羨ましそうな顔でこちらを見ているのに気づいた。

「嬢ちゃん、そりゃあ、大王イワナじゃねえか。いいもん食ってるな、ちくしょう」

「あはは、すみません。でも、本当に美味しいですよ。おじさんも、いかがですか?」

「ばっか言え、俺みてえな貧乏冒険者に、そんな高級魚が食えるかよ。俺は、いつものモツ煮で十分だ」

そう言って、おじさんは豪快にモツ煮をかき込み、ジョッキのビールをあおった。
その姿もまた、幸せそうで、見ていてなんだか微笑ましい。
この店は、高級食材を使った特別な料理も、安くて美味しい定番の料理も、どちらも楽しめるのがいいところだ。
どんなお客さんも、自分のスタイルで、幸せな時間を過ごすことができる。

大王イワナを綺麗に平らげ、白ワインのグラスを傾けていると、女将さんが「さあ、いよいよメインディッシュだよ」と、意味深な笑みを浮かべた。
え、まだメインがあるの?
大王イワナがメインじゃなかったのか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~

向原 行人
ファンタジー
 異世界へ転生して数日。十七歳の侯爵令嬢、アリスとして目覚めた私は、早くも限界を迎えていた。  というのも、この世界……みんな食事に興味が無くて、毎食パンとハムだけとか、ハムがチーズに変わるとか、せいぜいその程度だ。  料理というより、食材を並べているだけって感じがする。  元日本人の私としては温かいご飯がたべたいので、自分で食事を作るというと、「貴族が料理など下賤なことをするのは恥だ!」と、意味不明な怒られ方をした。  わかった……だったら、私は貴族を辞める!  家には兄が二人もいるし、姉だっているから問題無いでしょ。  宛てもなく屋敷を飛び出した私は、小さな村で更に酷い食事事情を目の当たりにする。  育ち盛りの子供たちや、身体を使う冒険者たちが、それだけしか食べないなんて……よし、美味しいご飯でみんなも私も幸せになろう!  医食同源! 大食いモフモフ聖獣に、胃袋を掴んでしまった騎士隊長と一緒に、異世界で美味しくて身体に良い食材探しだ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。

彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位! 読者の皆様、ありがとうございました! 婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。 実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。 鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。 巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう! ※4/30(火) 本編完結。 ※6/7(金) 外伝完結。 ※9/1(日)番外編 完結 小説大賞参加中

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

処理中です...