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今夜は昼間に残った鯛のあらを使い、こっくりとした味のあら炊きを作った。良太が炊いてくれた玉響のご飯も、つやつやと輝いている。
「……やっぱり、おし乃さんのあら炊きは絶品ですね。甘辛い味が、白いご飯と本当によく合います」
「ふふ、良太の炊くご飯が美味しいからよ。この玉響は本当に素晴らしいお米ね」
そんな穏やかな会話を交わしていると、ふと、良太が真面目な顔で私に向き直った。
「おし乃さん。俺、もっともっと料理が上手くなりたいです。そのためなら、どんな厳しい修行でもします」
その瞳には、熱い決意の光が宿っていた。この数々の出来事を通して、彼の中で料理人としての自覚と誇りが、確かなものとして育っているのだろう。
「まあ、殊勝な心がけね。でも、修行というのは何も、厳しいばかりが能ではないのよ」
「え……?」
「大切なのは、楽しむ心。そして、食べる人のことを想う心。その二つさえ忘れなければ、あなたの料理はもっともっと美味しくなるわ」
「楽しむ心と、想う心……」
「ええ。さあ、明日はどんなお客様がいらして、どんな物語が生まれるかしらね。それを楽しみに、今夜はゆっくり休みましょう」
「はい!」
良太の元気な返事を聞きながら、私はこのやわらぎ亭の未来が、ますます明るく輝いていくような、そんな温かい予感に包まれていた。
***
翌日の昼下がり。
店の賑わいも少し落ち着き、私と良太が昼餉の片付けをしていると、店の戸がからりと開いた。
入ってきたのは、がっしりとした体つきの、人の良さそうな男だった。年の頃は四十を少し過ぎたあたりだろうか。日に焼けた顔には深い皺が刻まれ、そのごつごつとした大きな手は、彼が腕利きの職人であることを物語っていた。
「いらっしゃいませ」
私が声をかけると、男は少しばつの悪そうな顔で、頭を掻いた。
「よう、女将さん。すまねえな、昼飯どきはとっくに過ぎちまってるってのに」
「いいえ、お気になさらず。どうぞ、こちらへ」
私は男を席へと案内した。その歩き方から、彼が船乗りか、あるいは船大工のような、水の上で生きる人間だということが窺える。
「何か召し上がりますか? 今なら、鯵のなめろうならすぐにご用意できますが」
「なめろうか。そいつは良いな。……じゃあ、それと飯と汁を頼む。あと、冷や酒も一本つけてくれ」
「はい、かしこまりました」
私はすぐに支度に取り掛かった。朝、市場で仕入れたばかりのぴかぴかの鯵。これを手早く三枚におろし、皮を引いて、小骨を丁寧に抜き取っていく。そして、粘りが出るまで包丁で細かく、細かく叩いていく。そこに刻んだ葱と生姜、そして少し甘めの江戸味噌を加えて、さらに叩き合わせる。鯵の脂と味噌のコクが一体となり、とろりとした極上のなめろうが出来上がっていく。
炊きたての白いご飯に、豆腐と油揚げの味噌汁。そして、きりりと冷えた酒。
男の前に膳を置くと、彼は「おう」と短く応え、まずは酒をぐいっと一口煽った。
「ぷはーっ……染みるねえ……」
そして、なめろうを箸でつまみ、じっと見つめている。何かを思い出しているような、そんな遠い目をしていた。
「……女将さん」
「はい」
「江戸中の飯屋を、探し歩いてるんだ」
男はぽつりと、そう切り出した。
「探し歩いている、とは?」
「ああ。忘れられねえ味があってな。もう十年も前に死んだ、うちのかかあが作ってくれた、ある料理の味が……」
その声には、深い愛情と、そして今もなお色褪せることのない寂しさの色が滲んでいた。
「どんなお料理ですの?」
「……里芋の、味噌煮っころがしだ」
「煮っころがし、ですか」
「ああ。どこの家でも作るような、なんてことねえ料理さ。だが、かかあの作る煮っころがしは、何かが違った。甘くて、こっくりとしてて……。それを食うと、どんなに仕事で疲れてても、海の時化で気が滅入ってても、不思議と心が安らいだもんだ」
男は、本当に幸せそうにそう語った。その目には、今は亡き妻の面影がはっきりと映っているのだろう。
「かかあが死んじまってから、色んな店で煮っころがしを食ったよ。京料理の上品なやつも、武家屋敷で出されるような立派なやつもな。どれも美味かった。だが、違うんだ。かかあのあの味とは、何かが違う。……だから、諦めきれなくてな。もしかしたら、この江戸のどこかには、あの味を思い出させてくれる店があるんじゃねえかと……馬鹿みてえだが、そう思って探しちまうんだ」
私は、ただ黙って彼の話を聞いていた。
一杯の、里芋の煮っころがし。
それは、彼にとってただの料理ではない。
妻との愛の記憶そのものなのだ。
「……女将さん。あんたの店は、人の心を解きほぐす飯を食わせるって、港の連中の間で噂になってた。……もし、あんたなら……」
すがるような、その瞳。
私は、ごくりと喉を鳴らした。これは、並大抵の仕事ではない。
人の記憶の中にある、絶対的な「思い出の味」。それを再現することほど、難しいことはないのだから。
けれど。
「……かしこまりました」
私は、静かに、しかし力強く頷いた。
「私でよろしければ、その奥様との思い出の味、再現してご覧にいれましょう」
「ほ、本当かい!?」
男の顔が、ぱっと輝いた。
「ええ。ただし、少しだけお時間をいただけますか? それから、いくつか質問をさせてくださいな」
私は男を炊き場の近くの席へ案内すると、じっくりと話を聞き始めた。
奥様の出身地はどこか。
どんな味付けを好む人だったか。
里芋以外の具材は何を入れていたか。
隠し味に、何か特別なものを加えてはいなかったか。
男は、一つ一つ丁寧に、記憶をたぐり寄せながら答えてくれた。
奥様は上州の出身で、少し甘めの味付けが好きだったこと。
具は里芋とこんにゃくだけで、とてもシンプルだったこと。
そして、隠し味……。
「そういやあ……かかあは時々、味噌を溶く時に、ほんの少しだけ、あれを入れてたっけな……」
「あれ、とは?」
「……すりおろした、胡桃だよ」
胡桃。それだ。
上州は、胡桃の名産地でもある。
その土地ならではの工夫。それがきっと、彼の記憶に残る「あの味」の秘密に違いない。
「……わかりました。明日の昼、もう一度この店にお越しいただけますか。私が、必ずやあなた様を唸らせる、最高の煮っころがしをご用意しておきますわ」
私の自信に満ちた言葉に、男は何度も、何度も頷いてくれた。その目には、大きな期待の光が灯っていた。
***
翌日。
私は朝一番で、最上等の里芋と上州の胡桃味噌を手に入れた。
そして、心を込めて調理に取り掛かる。
里芋は丁寧に泥を落として六方むきにし、米のとぎ汁で下茹でしてぬめりとアクを完全に取り去る。鍋に出汁を張り、里芋とこんにゃくを入れて落し蓋をし、ことことと煮込んでいく。砂糖とみりんで優しい甘みを含ませ、味が染み込んできたところでいよいよ味噌を加える。信州の白味噌をベースに、ほんの少しだけ八丁味噌でコクを出し、隠し味の胡桃味噌を加えると、ふわりと香ばしく豊かな香りが立ち上った。煮汁がとろりとして、里芋に照りよく絡んだら、もう出来上がりだ。
昼過ぎ。
約束通り、船大工の男が、緊張した面持ちで店にやってきた。
「さあ、どうぞ。お待たせいたしましたわ」
私は、湯気の立つ里芋の煮っころがしを、彼の前にそっと置いた。
男はごくりと喉を鳴らし、その一皿をじっと見つめている。
そして、おずおずと里芋を一口、口に運んだ。
その瞬間。
男の大きな体が、びくりと震えた。
そして、その目から堰を切ったように、涙が溢れ出す。
「……かかあ……かかあの、味だ……」
それは、心の底からの、歓喜の声だった。
「なんで……なんで、分かったんだい……。この甘さ、このコク……そして、この胡桃の香り……。間違いねえ……。かかあの、煮っころがしだ……!」
男は、子供のようにわんわんと泣きじゃくりながら、それでも夢中で煮っころがしを頬張っている。
その一皿に込められた、今は亡き妻の愛情を、全身で味わうかのように。
私は、そんな彼の姿を、ただ黙って、温かい気持ちで見守っていた。
一杯の煮っころがしが、時を越えて、夫婦の心を再び結びつけてくれた。
料理の力とは、本当に不思議で、そして偉大なものだ。
「……やっぱり、おし乃さんのあら炊きは絶品ですね。甘辛い味が、白いご飯と本当によく合います」
「ふふ、良太の炊くご飯が美味しいからよ。この玉響は本当に素晴らしいお米ね」
そんな穏やかな会話を交わしていると、ふと、良太が真面目な顔で私に向き直った。
「おし乃さん。俺、もっともっと料理が上手くなりたいです。そのためなら、どんな厳しい修行でもします」
その瞳には、熱い決意の光が宿っていた。この数々の出来事を通して、彼の中で料理人としての自覚と誇りが、確かなものとして育っているのだろう。
「まあ、殊勝な心がけね。でも、修行というのは何も、厳しいばかりが能ではないのよ」
「え……?」
「大切なのは、楽しむ心。そして、食べる人のことを想う心。その二つさえ忘れなければ、あなたの料理はもっともっと美味しくなるわ」
「楽しむ心と、想う心……」
「ええ。さあ、明日はどんなお客様がいらして、どんな物語が生まれるかしらね。それを楽しみに、今夜はゆっくり休みましょう」
「はい!」
良太の元気な返事を聞きながら、私はこのやわらぎ亭の未来が、ますます明るく輝いていくような、そんな温かい予感に包まれていた。
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店の賑わいも少し落ち着き、私と良太が昼餉の片付けをしていると、店の戸がからりと開いた。
入ってきたのは、がっしりとした体つきの、人の良さそうな男だった。年の頃は四十を少し過ぎたあたりだろうか。日に焼けた顔には深い皺が刻まれ、そのごつごつとした大きな手は、彼が腕利きの職人であることを物語っていた。
「いらっしゃいませ」
私が声をかけると、男は少しばつの悪そうな顔で、頭を掻いた。
「よう、女将さん。すまねえな、昼飯どきはとっくに過ぎちまってるってのに」
「いいえ、お気になさらず。どうぞ、こちらへ」
私は男を席へと案内した。その歩き方から、彼が船乗りか、あるいは船大工のような、水の上で生きる人間だということが窺える。
「何か召し上がりますか? 今なら、鯵のなめろうならすぐにご用意できますが」
「なめろうか。そいつは良いな。……じゃあ、それと飯と汁を頼む。あと、冷や酒も一本つけてくれ」
「はい、かしこまりました」
私はすぐに支度に取り掛かった。朝、市場で仕入れたばかりのぴかぴかの鯵。これを手早く三枚におろし、皮を引いて、小骨を丁寧に抜き取っていく。そして、粘りが出るまで包丁で細かく、細かく叩いていく。そこに刻んだ葱と生姜、そして少し甘めの江戸味噌を加えて、さらに叩き合わせる。鯵の脂と味噌のコクが一体となり、とろりとした極上のなめろうが出来上がっていく。
炊きたての白いご飯に、豆腐と油揚げの味噌汁。そして、きりりと冷えた酒。
男の前に膳を置くと、彼は「おう」と短く応え、まずは酒をぐいっと一口煽った。
「ぷはーっ……染みるねえ……」
そして、なめろうを箸でつまみ、じっと見つめている。何かを思い出しているような、そんな遠い目をしていた。
「……女将さん」
「はい」
「江戸中の飯屋を、探し歩いてるんだ」
男はぽつりと、そう切り出した。
「探し歩いている、とは?」
「ああ。忘れられねえ味があってな。もう十年も前に死んだ、うちのかかあが作ってくれた、ある料理の味が……」
その声には、深い愛情と、そして今もなお色褪せることのない寂しさの色が滲んでいた。
「どんなお料理ですの?」
「……里芋の、味噌煮っころがしだ」
「煮っころがし、ですか」
「ああ。どこの家でも作るような、なんてことねえ料理さ。だが、かかあの作る煮っころがしは、何かが違った。甘くて、こっくりとしてて……。それを食うと、どんなに仕事で疲れてても、海の時化で気が滅入ってても、不思議と心が安らいだもんだ」
男は、本当に幸せそうにそう語った。その目には、今は亡き妻の面影がはっきりと映っているのだろう。
「かかあが死んじまってから、色んな店で煮っころがしを食ったよ。京料理の上品なやつも、武家屋敷で出されるような立派なやつもな。どれも美味かった。だが、違うんだ。かかあのあの味とは、何かが違う。……だから、諦めきれなくてな。もしかしたら、この江戸のどこかには、あの味を思い出させてくれる店があるんじゃねえかと……馬鹿みてえだが、そう思って探しちまうんだ」
私は、ただ黙って彼の話を聞いていた。
一杯の、里芋の煮っころがし。
それは、彼にとってただの料理ではない。
妻との愛の記憶そのものなのだ。
「……女将さん。あんたの店は、人の心を解きほぐす飯を食わせるって、港の連中の間で噂になってた。……もし、あんたなら……」
すがるような、その瞳。
私は、ごくりと喉を鳴らした。これは、並大抵の仕事ではない。
人の記憶の中にある、絶対的な「思い出の味」。それを再現することほど、難しいことはないのだから。
けれど。
「……かしこまりました」
私は、静かに、しかし力強く頷いた。
「私でよろしければ、その奥様との思い出の味、再現してご覧にいれましょう」
「ほ、本当かい!?」
男の顔が、ぱっと輝いた。
「ええ。ただし、少しだけお時間をいただけますか? それから、いくつか質問をさせてくださいな」
私は男を炊き場の近くの席へ案内すると、じっくりと話を聞き始めた。
奥様の出身地はどこか。
どんな味付けを好む人だったか。
里芋以外の具材は何を入れていたか。
隠し味に、何か特別なものを加えてはいなかったか。
男は、一つ一つ丁寧に、記憶をたぐり寄せながら答えてくれた。
奥様は上州の出身で、少し甘めの味付けが好きだったこと。
具は里芋とこんにゃくだけで、とてもシンプルだったこと。
そして、隠し味……。
「そういやあ……かかあは時々、味噌を溶く時に、ほんの少しだけ、あれを入れてたっけな……」
「あれ、とは?」
「……すりおろした、胡桃だよ」
胡桃。それだ。
上州は、胡桃の名産地でもある。
その土地ならではの工夫。それがきっと、彼の記憶に残る「あの味」の秘密に違いない。
「……わかりました。明日の昼、もう一度この店にお越しいただけますか。私が、必ずやあなた様を唸らせる、最高の煮っころがしをご用意しておきますわ」
私の自信に満ちた言葉に、男は何度も、何度も頷いてくれた。その目には、大きな期待の光が灯っていた。
***
翌日。
私は朝一番で、最上等の里芋と上州の胡桃味噌を手に入れた。
そして、心を込めて調理に取り掛かる。
里芋は丁寧に泥を落として六方むきにし、米のとぎ汁で下茹でしてぬめりとアクを完全に取り去る。鍋に出汁を張り、里芋とこんにゃくを入れて落し蓋をし、ことことと煮込んでいく。砂糖とみりんで優しい甘みを含ませ、味が染み込んできたところでいよいよ味噌を加える。信州の白味噌をベースに、ほんの少しだけ八丁味噌でコクを出し、隠し味の胡桃味噌を加えると、ふわりと香ばしく豊かな香りが立ち上った。煮汁がとろりとして、里芋に照りよく絡んだら、もう出来上がりだ。
昼過ぎ。
約束通り、船大工の男が、緊張した面持ちで店にやってきた。
「さあ、どうぞ。お待たせいたしましたわ」
私は、湯気の立つ里芋の煮っころがしを、彼の前にそっと置いた。
男はごくりと喉を鳴らし、その一皿をじっと見つめている。
そして、おずおずと里芋を一口、口に運んだ。
その瞬間。
男の大きな体が、びくりと震えた。
そして、その目から堰を切ったように、涙が溢れ出す。
「……かかあ……かかあの、味だ……」
それは、心の底からの、歓喜の声だった。
「なんで……なんで、分かったんだい……。この甘さ、このコク……そして、この胡桃の香り……。間違いねえ……。かかあの、煮っころがしだ……!」
男は、子供のようにわんわんと泣きじゃくりながら、それでも夢中で煮っころがしを頬張っている。
その一皿に込められた、今は亡き妻の愛情を、全身で味わうかのように。
私は、そんな彼の姿を、ただ黙って、温かい気持ちで見守っていた。
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