姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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1.会議と神殿からの救援依頼

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 神殿から助けを求める急報が入ったのは、わたくし達首脳部が城内会議で最近の神殿の不審な動向の報告を吟味している最中だった。
「首脳部」とは、国王ジャンニー四世陛下、宰相のクルドー侯爵、宰相補佐のジウン第一王子、内務大臣シェイン伯爵、内務補佐ジンダール侯爵令息ザイディー、財務大臣ナイアル伯爵、神殿管理大臣エイナイダ公爵、騎士団統括サンクルード伯爵、騎士団統括補佐見習い第二王子ダイル、治安維持兵団統括エルード子爵、第一王女のわたくしシャイロの十一人だ。

 まず国王が書簡に目を通し、片手を眉間にやりもう片手で宰相に書簡を渡す。宰相は書簡を読むと、「は?」というような声を喉に籠らせる。次いで宰相補佐である第一王子ジウンに書簡を渡す。
 まるでイヤなものを押し付けるかのような所作に、議場の他の者達の表情が曇る。

 この場で報告されていた神殿からの書状だ。ろくなものではないことは想像に難くない。

 最近の神殿の不審な動向は以下である。
 まず、服飾を扱う商人と職人の出入りが活発になり、なぜか若い女性の衣類や装飾品が運び込まれている。
 神殿には若い女性は多くいるが、皆神事に従事する身であるから神殿のお仕着せや行事用の決まった衣装に限られるはずだ。それなのに若い女性の華美なドレスや靴などの一式が多く買い込まれている。
 二つ目は食料である。
 質素倹約を推奨される神殿に毎日多くの菓子類が運び込まれている。
 出入りの食材店からの報告では、食材の仕入れ量が急に多くなり、また肉類も多くなった。肉食を断つ祭日にも肉が購入される。
 三つめは神殿内部の警備の厳重化と、神殿内の騒音だ。
 神殿の外の警備の者は城の騎士団と神殿管轄の小部隊が交代制で派遣されており、彼らからの報告によると「若い女性の姦しい声」が漏れ聞こえると言う。そして今までは気軽に出入りできた神殿内部に、百日余り前から出入りを拒まれ始め、今では誰も一歩も入れなくなった。

 実を言うと翌年に行われる数々の面倒事を処理するのにかまけて、わたくし自身も直接神殿に赴かなくなって半年が経ってしまった。
 それにしてもわたくしと神殿管理大臣エイナイダ公爵を拒むとは何事かと、今般の議題にあがっていたのだ。

 清廉潔白を求められ、今まで問題を起こすことのなかった神殿の、俄かの腐敗か乱心か。
 もう一つ考えられることは、神殿の暴走だ。
 異変が起こったらしい百日余り前から、わたくしは神力の一時的な揺らぎを複数回感じている。正確には十四回。
 この揺らぎは神との具体的な交流が行われた証だ。
 そして十日前にひときわ大きな揺らぎを感知した。

 神殿へ説明を求めるか踏み込むかで話し合いを行っていたのだ。

 書簡を読み終わったジウンが国王と宰相に目を向ける。
 ジウンの眉間には深い皺が刻まれていたが、眼差しは明らかに戸惑っていた。思いもかけないという混乱が見て取れる。

「読み上げよ」
 国王が促した。

 ジウンは深く息を吸って呼吸を調え、書簡を読み上げ始めた。

「どうかお助けください」
 一同が息を呑む。
 続く内容に唖然とせざるを得なかった。

「聖女不在を憂いた故の浅慮でございました。我が神殿の神官七人が召喚術を行いましたところ、七人の稀人まれびとである女人が降臨されました。召喚後に神へのお伺いを致しましたが、いずれの女人も聖女にあらずとのお言葉を賜りました。しかし元の世界への返還不可能のため、神殿に留め置き神女か巫女の修行にあたらせましたが、一人を除いて努めようとせず、他六人は己が聖女であると喧伝致し、様々な物品を求め処遇の優遇を求めるられる次第となっております。
 聖女候補でなくとも異界よりの稀人である故に固く拒むことが叶わず、もはや神殿の予算では贖うことが不可能となりました。
 また六人は神殿に留まるをよしとせず、王城行きを希望しております。もうお一方も捨ておくわけにはまいりません。
 いずれも見目麗しい若い女人でございます。
 どうか七人の稀人の、王城への受け入れをお願い申し上げます」

 議場に沈黙が重く降り積もる中、国王と宰相の目がわたくしに縋りつくように向けられる。

 待って?この状況を整理させてくださいませ。

 詰まるところ、神殿が勝手に召喚した七人もの女を手に負えないからこちらでどうにかしろとおっしゃるの?
 神殿での勤めと修業を拒み、神殿の状況も理解せず毎日徒食し、華美な衣装を要求するような女達を?
 王城にもそんな予算はございませんことよ?わかっていらっしゃる?
 いえ、おわかりにならないが故に七人も召喚し持てあましているのでしょうね。

 ジウン兄上が眉間に手を当てる様と同じように、わたくしもつい眉間を押さえてそこに深い溝が刻まれていることに気づいた。
「シャイロよ」
 父王の戸惑った声が聞こえた。
「相手は女人だ。適任はそなた、いや、そなたにしか頼れない。頼む」

 確かにわたくしの務めでございましょう。第一王女としても。
 当面、対処が決まり事務的に事を進めることができるまでは。

 それでもわたくしは深いため息を禁じることはできなかった。できなかったが実務は行わなければならない。

「財務大臣、予算を相談致しましょう」
 わたくしはまず財務大臣に声をかけた。予算あっての計画運営だ。

「内務大臣、当面の七人の滞在の場として北奥の離宮の利用は可能ですか?」
 シェイン伯爵ははっと身じろぎしたものの、即答した。
「すぐに手配致します。女官長を呼びますのでご相談ください」

 次いで神殿管理大臣エイナイダ公爵に声をかける。
「詳しい事情を聴取してください。どのみち七人の女性を神殿が預かり管理するのは不可能です。離宮の準備ができ次第引き取りましょう」
「心得ました」
 エイナイダ侯爵は退出した。この迅速な対応をする姿は尊敬に値する。神殿との調整に頭も胃も痛めているだろう。後ほど埋め合わせをしなくては。補佐をお付けする必要もあるだろう。

「警備は騎士団から派遣をお願いします」
 サンクルード伯爵はすでに頭の中で部隊の編成を考えていたらしい。

 いずれにしろ、全員にとって重く憂鬱な仕事ができてしまった。

 この後、七人の自称聖女達にどんなに振り回されるか、わたくし達は十の内一も考えが及んでいなかったのだが。
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