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7.葬送と処罰
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デニアウムは…
神殿長と六人の神官の責任をたった一人で負って、力およばず命を落としたのか。
今ではなにもかも遅いが、わたくしを頼ってくれれば…
いや、第一王女の責を担うわたくしを、賢明な老デニアウムは頼るまい。死を覚悟して七人を戻そうと神との交渉を行ったのだ。
おそらく力の全てを差し出したのだろう。
そして力及ばず命を落とした。
それはデニアウムらしい潔さであり、未だわたくしへの思いやりがある師らしい行動だ。
ここで激高してデニアウムの志を無碍にしてはならない。
荒れる心を声色に出すまいと努めて命じた。
「全員立ちなさい。今すぐに。主たるテミル女神の名において命じます」
ピクリと全員が身じろぎする。
「聞こえたはずです。テミル女神によって、テミル・リディアの名を賜りしわたくしが命じます。疾く立ち、わたくしに従いなさい」
八人はうそうそと体を引きずり上げるように起こし、わたくしの前に跪いた。皆震えている。
「どうかお許しを」
「デニアウム様は自ら進んで…」
神官達の訴えをわたくしは遮った。
「詳細は後で聞きます。すぐに立って神殿と孤児院に食料を供出するのです」
神官長が弱弱しく言う。
「食料はありません。最後の供出をしてから我々はここに籠ったのです。デニアウム師に殉死の意を以って…」
わたくしはカッとなり厳しく言い渡した。
「殉死は禁じます!!最後まで生きて責任をとりなさい!!」
八人はその場に頽れた。
平和な世が続き、神殿は腐敗こそしなかったが様々な意味で弱力化したようだ。
聖女召喚もわたくしに対抗せんと起死回生を求めたのだろう。
愚かな。
わたくしこそ主たるテミル女神始め、万の神々全てが認めた聖女であるというのに。
第一王女であるが故に神殿に仕えることは叶わないが、神殿管理大臣エイナイダ公爵の上に君臨する者である。
だからこそ、神殿の全権に采配を振るうことができる。
今までは報告を聞き、困難な事案に提案や助言をするに留めていたが、それが間違いの元だったらしい。わたくしも責任をとらなくてはならない。
「全員、沐浴し身を清めた上、自室で謹慎し沙汰を待つように」
儀式場から神官たちが出ていくのを確認し、わたくしはデニアウム師の躯に近づいた。
苦しんだ様子のない安らかな顔に安堵を覚える。
手を師の顔に添えると、その冷たさに涙が落ちるのを禁じ得なかった。
わたくしの涙がデニアウムの顔に落ちると、そこから金色の光が湧き、全身に広がった。光はほどなく消えたが、共にデニアウムの体も消えた。残されたのは儀式服のみ。
儀式場はそのままにし、退出した。
扉の外には謹慎を命じた神官達が待っていた。
怒りをおさえて、わたくしは言い渡した。
「そなた達はテミル・リディアの名の下に処罰します。罪状は身勝手に召喚の儀を行ったこと。わたくしの許しもなく神との交信を軽々に行ったことです」
次は個別の処理だ。
「神官長。そなたには地下牢での謹慎を命じます」
神官長は頽れた。
「食事は日に二回雑穀の粥を与えます。夜には牛の乳を添えるのがせめてもの温情です。日に一度監視の元牢から出て自らの汚物を処理し、沐浴して身を清めるように。他の時間は己の所業を顧みなさい。期間は追って沙汰します」
連れてきた護衛に神官長の身柄を引き渡す。
「その他の七人は新たな沙汰があるまで最上階の反省房行きを命じます。日に二度の雑穀粥を与えます。日に一度監視の元に裏庭に出て、自らの汚物を処理し沐浴するように。そして部屋の清掃用の水と自分の一日の飲用水を汲んで戻るように。部屋は常に清浄にたもちなさい」
神殿兵を呼び、神官長を地下牢へ、七人を反省房へ送ると、わたくしは神殿の正常化にとりかかった。
上部の暴走のために下が、特に孤児院の子供達が飢えるのは絶対に許すことはできない。
わたくしの王女宮の予算がだいぶ余剰がある。これをあてれば秋の収穫祭まで賄えるだろう。
わたくしは忙しく計算しながら指示を飛ばし始めた。
神殿長と六人の神官の責任をたった一人で負って、力およばず命を落としたのか。
今ではなにもかも遅いが、わたくしを頼ってくれれば…
いや、第一王女の責を担うわたくしを、賢明な老デニアウムは頼るまい。死を覚悟して七人を戻そうと神との交渉を行ったのだ。
おそらく力の全てを差し出したのだろう。
そして力及ばず命を落とした。
それはデニアウムらしい潔さであり、未だわたくしへの思いやりがある師らしい行動だ。
ここで激高してデニアウムの志を無碍にしてはならない。
荒れる心を声色に出すまいと努めて命じた。
「全員立ちなさい。今すぐに。主たるテミル女神の名において命じます」
ピクリと全員が身じろぎする。
「聞こえたはずです。テミル女神によって、テミル・リディアの名を賜りしわたくしが命じます。疾く立ち、わたくしに従いなさい」
八人はうそうそと体を引きずり上げるように起こし、わたくしの前に跪いた。皆震えている。
「どうかお許しを」
「デニアウム様は自ら進んで…」
神官達の訴えをわたくしは遮った。
「詳細は後で聞きます。すぐに立って神殿と孤児院に食料を供出するのです」
神官長が弱弱しく言う。
「食料はありません。最後の供出をしてから我々はここに籠ったのです。デニアウム師に殉死の意を以って…」
わたくしはカッとなり厳しく言い渡した。
「殉死は禁じます!!最後まで生きて責任をとりなさい!!」
八人はその場に頽れた。
平和な世が続き、神殿は腐敗こそしなかったが様々な意味で弱力化したようだ。
聖女召喚もわたくしに対抗せんと起死回生を求めたのだろう。
愚かな。
わたくしこそ主たるテミル女神始め、万の神々全てが認めた聖女であるというのに。
第一王女であるが故に神殿に仕えることは叶わないが、神殿管理大臣エイナイダ公爵の上に君臨する者である。
だからこそ、神殿の全権に采配を振るうことができる。
今までは報告を聞き、困難な事案に提案や助言をするに留めていたが、それが間違いの元だったらしい。わたくしも責任をとらなくてはならない。
「全員、沐浴し身を清めた上、自室で謹慎し沙汰を待つように」
儀式場から神官たちが出ていくのを確認し、わたくしはデニアウム師の躯に近づいた。
苦しんだ様子のない安らかな顔に安堵を覚える。
手を師の顔に添えると、その冷たさに涙が落ちるのを禁じ得なかった。
わたくしの涙がデニアウムの顔に落ちると、そこから金色の光が湧き、全身に広がった。光はほどなく消えたが、共にデニアウムの体も消えた。残されたのは儀式服のみ。
儀式場はそのままにし、退出した。
扉の外には謹慎を命じた神官達が待っていた。
怒りをおさえて、わたくしは言い渡した。
「そなた達はテミル・リディアの名の下に処罰します。罪状は身勝手に召喚の儀を行ったこと。わたくしの許しもなく神との交信を軽々に行ったことです」
次は個別の処理だ。
「神官長。そなたには地下牢での謹慎を命じます」
神官長は頽れた。
「食事は日に二回雑穀の粥を与えます。夜には牛の乳を添えるのがせめてもの温情です。日に一度監視の元牢から出て自らの汚物を処理し、沐浴して身を清めるように。他の時間は己の所業を顧みなさい。期間は追って沙汰します」
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上部の暴走のために下が、特に孤児院の子供達が飢えるのは絶対に許すことはできない。
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